
5Gの超高速通信を支える最新アンテナ技術とは?
“超高速・大容量”とともに、“多数同時接続”や“超低遅延”を特長とする第5世代移動通信システム“5G”。リモートワークやオンライン授業などの増加に伴い、高速で安定した通信が求められる時代の社会インフラとして注目を集めています。5Gのスモールセル基地局において、重要な役割を担っているのが、多数のアンテナ素子を集積した「マルチアンテナ」です。

5G関連市場で拡大するスモールセル基地局における課題は、マルチアンテナ
5G通信は、すべてのモノがつながるIoT/IoE社会のインフラとして注目され、今後、市場は急拡大すると予測されています。5G関連の市場は立ち上がったばかりですが、2023年には世界で4兆1880億円に達し、約70%がスモールセル基地局関連と予測されています(富士キメラ総研『2018 5G/高速・大容量通信を実現するコアテクノロジーの将来展望』)。
これは、ミリ波(※1)を利用する5G通信では、基地局がカバーする通信エリアは狭くなるため、当面は従来の通信基地局がカバーするマクロセルの上に、多数の5G通信のスモールセル基地局を重ねて配置するネットワーク構成となるからです。また、ミリ波は物体などによって遮蔽されやすく、駅の構内、ショッピングモール、スタジアムといった場所では、より多くのスモールセル基地局を設置する必要があります。
5G通信の3つの特長
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超高速・大容量 -
通信速度は4Gの10倍以上。高精細の映画も、わずか数秒でダウンロード。
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多数同時接続 -
1平方kmあたり100万台の端末を通信遅延なしに接続。
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超低遅延 -
通信遅延は4Gの10分の1(1000分の1秒)程度。自動運転、遠隔手術などにも期待。
5G対応基地局の世界市場規模予測

出典:富士キメラ総研『2018 5G/高速・大容量通信を実現するコアテクノロジーの将来展望』
このスモールセル基地局において重要な役割を担うのが、多数のアンテナ素子を集積したマルチアンテナです。5G通信のキーテクノロジーは、電波をビーム状にして、それぞれの端末に向けて飛ばすビームフォーミング(※2)と呼ばれる技術です。これにより、たとえばスタジアムでのスポーツイベントにおいて、多数の観客の端末にアスリートたちの動きをマルチアングルで送信したり、複数の競技をリアルタイムで同時中継したり、AR観戦サービスを提供したりなど、今までにはない楽しみ方が可能になります。
ビームフォーミングでは、マルチアンテナのアンテナ素子から放射される信号の位相などを制御することで、電波をビーム状にします。そこで、マルチアンテナとして開発されているのが、多数のアンテナ素子を集積したアレイアンテナです。ただし、アレイアンテナにはBPF(バンドパスフィルタ)やICなども接続されるため、システム全体の高機能化に加えて、小型化・薄型化が求められています。
5G通信のビームフォーミング

小型・薄型化を実現した複合デバイスで、マルチアンテナソリューション
TDKが長年にわたって蓄積したLTCC(※3)技術を駆使し、5Gスモールセル基地局のマルチアンテナ向けに独自に開発したのが、アンテナ素子とBPFをLTCC多層基板の中に一体化した、アンテナインパッケージ(AiP)構成の“LTCC AiPデバイス”です。アンテナ層には新開発の低誘電率材料を採用し、ミリ波帯でも高いゲイン(利得)が得られるのが大きな特長です。また、高い耐環境性や放熱性、設計・評価の自由度をもつのもメリットで、5G通信基地局のマルチアンテナ用として、優れたパフォーマンスを発揮します。
LTCC技術とは、高周波部品などの製造用として開発された工法です。比較的低温(約900℃)で焼成できるように開発されたセラミックシート材料を多層積層して低温焼成、誘電体セラミックスのシートに金属導体の微細な配線路を形成し、その導体パターンによってインダクタやコンデンサとしての機能を構成させます。これらコンデンサ層とインダクタ層では、異なる材質のシートが用いられるため、同時焼成するには高度な技術が要求されます。TDKでは、“異材質同時焼成技術”という高度なLTCC工法をいちはやく確立して、モバイル通信端末用の高周波フィルタやフロントエンドモジュールなどを製品化して提供してきました。
LTCCデバイスの積層構造(模式図)

5G通信ネットワークは、あらゆるモノがインターネットを通じてつながるIoT/IoE社会の通信インフラとしても期待が寄せられています。TDKは、通信回路用やセンシング用、ノイズ対策用、バッテリなど、5G通信ネットワークをサポートする多種多様な製品・技術サービスを引き続き提供していきます。
TDKの5G通信をサポートする各種製品
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通信回路
高周波製品およびモジュール -
通信回路
NFC回路用インダクタ -
通信回路
RFインダクタ -
センシング
MEMSモーションセンサ -
センシング
TMR磁気センサ -
ノイズ対策
ノイズ抑制シート -
バッテリ
リチウムポリマー電池
LTCC AiPデバイス

用語解説
- ミリ波とは、1㎜~10㎜の波長を指す。マイクロ波と同様に強い直進性があり、非常に大きな情報量を伝送することが特徴。低周波数より利用が進んでいないことから、研究開発が進められている。
- ビームフォーミングとは、マルチアンテナのアンテナ素子から放射される信号の位相などを制御することで、電波を指向性の高いビームとして遠くまで飛ばすとともに、多数の端末にそれぞれスポット的に送る技術。
- LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic 低温焼成多層基板)とは、コンデンサ、インダクタなどの多数の素子からなる回路を、誘電体シート(アルミナを基調とするガラスセラミックス)に印刷して積層するモジュール化技術。プリント基板に素子を高密度実装するよりも大幅な省スペース化が実現する。