

超小型DC-DCコンバータが、Beyond5Gの世界を切り拓く
2019年より商用サービスが展開された5Gですが、この技術がもたらす超高速・超低遅延のメリットを真に実現するには、規格のさらなる進化が必要とされます。 その一つが、複数の周波数帯域を同時に利用して通信スループットを向上させる「キャリアアグリゲーション」という技術です。TDKの超小型DC-DCコンバータは、ネットワーク内のFPGAや次世代チップセットへの電力供給を通じて、その実現を支えています。

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Beyond 5Gのキーテクノロジー「キャリアアグリゲーション」の課題
5G (第5世代移動通信システム)のサービスが2020年前後より、世界的に開始されました。しかし、5Gの恩恵を実感している人はまだまだ少ないというのが実情といえます。5Gが私たちの暮らしや社会をより便利にするためには、基地局の整備、端末の普及、コンテンツ開発などさまざまな課題が挙げられ、多くの技術革新がこれからも求められています。5Gの機能をさらに高度化し、2030年頃に導入が見込まれているのが、次世代通信システム「Beyond 5G」です。その特長として、5Gの100分の1という超低消費電力や、セキュリティや災害などに強い超安全・信頼性、人の手を介さず機器が連携する自律性、衛星などとのシームレスな接続を可能にする拡張性などが挙げられ、多くの技術革新が求められます。
Beyond 5Gの概要

Beyond 5Gとは、5Gの「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」といった機能の高度化に加え、「超低消費電力」「超安全・信頼性」「自律性」「拡張性」といった、新たな価値創造につながる機能をもった5Gの次の移動通信システムを指します。
今後強く求められる技術革新の一つが、5Gの特長である「高速・大容量」の進化です。そこで、異なる複数の周波数帯の電波を束ねて通信することにより、通信速度を高速化する「キャリアアグリゲーション」という技術が、5Gを進化させるキーテクノロジーとして注目が集まっています。その実現のためには、複数の周波数帯の電波を束ねるために多くの基地局が必要となり、通常の基地局を補完する小出力でカバー範囲の狭い「スモールセル(小型基地局)」の設置が進められています。また、キャリアアグリゲーションの実現のためには、スモールセルを次世代の無線アクセスネットワークである「O-RAN*1」仕様にしたり、光ファイバー伝送技術である「GPON*2」の進化なども挙げられます。
これらの通信システムの電子回路では、FPGA*3やSoC*4といった半導体集積回路(IC)が一般的に使用されます。しかしスモールセルなどで使用されるため、基板スペースが縮小され、ICを含む電子回路の小型化が求められています。中でも、部品点数が多い電源部の省スペース化が重要な課題となっています。具体的には、単位面積当たりの電力電流密度を高くし、電源部の外付け部品点数を削減することが求められます。
電子回路全体の基板スペースを縮小する、超小型DC-DCコンバータソリューション
そこでTDKが開発したのが、世界最小クラスで世界最高クラスの電流密度を達成したµPOL™ DC-DCコンバータシリーズ「FS1412」です。外形寸法5.8 ㎜ x 4.9 ㎜ x 1.6 ㎜という超小型サイズで、基板スペースに制約のあるアプリケーションへ最適な電力供給を行います。FPGAやSoC、ASIC*5といった、複雑なICの近傍に配置することができると共に、最高クラスの電流密度で部品点数を最小限に抑え、電子回路全体の基板スペースの縮小に大きく貢献します。加えて、IC近くに設置することができるため、配線によるパワーロス*6を抑えて発熱防止にも抜群の威力を発揮します。これによって、部品およびプリント基板、組立にかかるコスト削減も期待できます。µPOL™「FS1412」は、スモールセルやO-RAN、GPONといったアプリケーションに使用されるFPGAやSoCに求められる電源要件を十分に満たし、5Gにおけるキャリアアグリゲーションの進化を支えます。
また、その使いやすさから、5Gキャリアアグリゲーションに加えて、ビッグデータや機械学習、人工知能(AI)、IoTデバイス、通信、エンタープライズコンピューティングなどでも活用できます。
従来のディスクリート電源より基板スペースを約3分の1へ

TDKのコアテクノロジーを結晶させたµPOL
µPOL™は、2018年にTDKグループに加わった米国のベンチャー企業である、電源IC設計会社・Faraday Semiが開発した高機能な「パワー半導体」を、TDKが独自開発したパッケージング技術「SESUB*7」に内蔵させ、3D実装技術*8で実現したものです。TDK独自技術の結晶であり、他社と比較して、最高クラスの電力密度を実現します。
今後の展望について、Faraday SemiのParviz Partoは次のように語ります。「µPOL™シリーズは、回路図やレイアウトレベルでの設計が容易なため、全体的な電源設計が簡素化されます。キャリアアグリゲーションに使用される高機能なICに間違いなく不可欠な製品で、今後もさらなるラインナップを拡充していきます」。
高速通信を可能にする5G/Beyond 5Gによって、さまざまな業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むと考えられています。µPOL™「FS1412」は、DXに欠かせないキーパーツとして未来を切り拓きます。
µPOL™「FS1412」

FS1412は、-40 ℃~125 ℃という幅広いジャンクション温度で動作し、1立方インチあたり1000 Aを超える高い電力密度を備えています。詳しくはプロダクトセンターをご覧ください。
用語解説
- ORAN:Open-RANの略。O-RAN alliance という団体により進められている、RANのインターフェース技術仕様のOpen化および標準化のこと。
- GPON:Gigabit Passive Optical Networkの略。光ファイバーによる公衆回線網において、一本の回線をPON 上で様々な通信方式のデータを送受信する技術。
- FPGA:Field Programmable Gate Arrayの略。設計者が現場で論理回路の構成をプログラムできるゲート(論理回路)を集積した半導体集積回路。
- SoC:System on a chipの略。システムを構成する全ての機能を1つの半導体チップで実現した、半導体集積回路。
- ASIC:特定用途向け集積回路。
- パワーロス:送電の際、電気エネルギーの一部が熱となって奪われてしまうこと。
- SESUB:樹脂基板の中にIC(半導体)を内蔵し、受動部品等を3次元実装してモジュール化する技術。
- 3D実装技術:半導体ICチップを重ねて一つのパッケージに収める技術。