

TDKのDE&I:後編
女性リーダーの育成を目指すTDKの取り組み
TDKでは継続的な企業変革の原動力として、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)(DE&I)に深くコミットしています。持続可能な未来の実現に向けて進むうえで、私たちの進歩は個人の力だけではなく、すべての声が尊重される組織の力によって実現するものと信じています。

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なぜTDKにとってDE&Iは重要なのか?
TDKにおける「DE&I」は、単なる制度だけではなく、イノベーションを加速し、コラボレーションを活発にする「意識改革」です。その中心にあるのが、「TDK United」というビジョンです。多様な人財がいるという状態を超えて、「つながり」「調和」「統合」といった価値観を重視し、誰もが自由に意見を述べ、受け入れられ、価値を認められる。そんな環境づくりを目指しています。
画一的な組織における問題点

このような価値観は、チーム内の一体感やエンゲージメントを高め、組織のあらゆる階層での主体的な行動を促します。その結果、組織はより強く、変化に柔軟に対応できるようになります。ダイバーシティの中でも、TDKは特に「ジェンダー・ダイバーシティ」を重視し、組織が成長するために重要な領域と位置づけています。
TDK株式会社人財本部グローバル人財開発統括本部 副統括部長の平岡朋代は次のように語ります。「女性がリーダーシップを発揮することで、より多様な視点や価値観が加わり、創造的な課題解決や革新的な事業戦略が生まれます。これはビジネスの成功を後押しするだけでなく、男女平等や社会的責任の推進にもつながります」。

日本と世界で女性リーダーの育成を目指して
TDKでは、グローバルと日本において、女性リーダーの割合を高めることを明確な目標として掲げています。TDKは、日本の多くの企業と同様に、長年にわたり社会的・文化的背景により、女性管理職の比率が低く(日本では2020年時点で2.0%)、その流れを変えるための大きな一歩が踏み出されています。TDKは、2030年までにグローバル全体で女性管理職比率を25%以上にすることを目標に設定。さらに、創立100周年を迎える2035年には、日本国内でこの比率を15%まで引き上げるという明確なビジョンを掲げています。
TDK株式会社人財本部日本人財開発統括部DE&I推進部部長の安藤科容子は次のように語ります。「現在、女性管理職の多くは人事、財務、サステナビリティ、広報などの管理部門に集中しています。一方で、研究開発(R&D)や製造といった技術部門で活躍する女性リーダーはまだ数が限られています。今後は、技術分野での女性リーダーの育成が一層重要になります」 。
女性管理職比率の目標と実績(%)


目標実現に向けた具体的な取り組み
TDKでは、女性向けキャリア開発セミナーやメンタリング・プログラム、マネジメント層向けの研修など、国内外でさまざまな取り組みを実施。DE&Iへのコミットメントを強化し、女性のリーダーシップの機会を増やすことに注力しています。以下は主な取り組みの一部です。
・ 女性向けキャリア開発セミナー(日本)
日本にあるTDKの本社、TDK株式会社は、女性管理職の増加を目指して、さまざまな取り組みを行っています。その一例として、女性向けキャリア開発セミナーを実施。毎年80人が参加しています。プログラムの内容は以下の通りです。
・ 管理職候補の女性を対象にした2日間のプログラム(年2回開催)
・ 女性同士のネットワーキング・プログラム
・ EQアセスメントによる行動特性の理解
・ 上司とのキャリア開発面談と研修
さらに、女性の能力向上を支援する上で管理職が果たす役割の重要性を考え、男性上司向けのセミナーも定期的に開催。女性部下を適切に支援・育成するために必要なスキルと視点の習得を図っています。こうした継続的な取り組みにより、2025年4月時点で日本国内の女性管理職比率は5.3%まで上昇しました。
安藤は、今後の展望について次のように語ります。「2035年のビジョンを達成するには、2つの意識改革が必要です。第一に、経営陣とチームメンバーが、女性の積極的な参画を、単なる平等性のための支援策ではなく、組織全体の健全な意思決定を支える『経営戦略』として理解すること。第二に、女性自身の意識改革です。多くの女性は、男性の管理職しか知らないため、自分が管理職になり、私生活とキャリアを両立させるという将来像を描くことが難しいと感じています。そのためには、良きロールモデルの存在が欠かせません」。

・ グローバルな人材育成プログラム
TDKでは、次世代を担うリーダーシップ人材の育成を目指しています。グローバルでの人材育成の取り組みの一環として、グローバル・リーダーシップ・プログラムおよびマネジメント・プログラムを実施しています。
この育成プログラムには、トップクラスのリーダーを育成する「グローバル・エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(GEMP)」、ゼネラルマネージャーを目指すリーダー候補を対象とした「グローバル・アドバンスド・マネジメント・プログラム(GAMP)」、チームメンバーにゼネラルマネージャーやコーポレート・ガバナンスを紹介する「グローバル・マネジメント・プログラム(GMP)」、チームリーダーを育成する「テリトリアル・キャリア・ディベロップメント・プログラム(TCDP)」などがあります。このような研修には、女性社員が公平な割合で推薦されるようにしています。
・ インクルーシブな職場づくりを通じた女性リーダーの育成
TDKでは、グループ各社が連携し、次世代リーダーの育成を目的としたメンタープログラムを導入しています。TDKエレクトロニクスのビジネスプロセス・マネジメント部門の責任者 リディア・ヴィルトは、次のように語ります。「個々に合わせたメンタープログラムは非常に重要です。女性が自分の強みを知り、どの分野で支援を受ければさらに成長できるかを見極める支えとなります。こうしたプログラムは、相互の尊重と信頼に基づいた関係が築かれ、必要な時にアドバイスやサポートを求められる勇気を与えてくれます。
さらに、彼女はこれからの展望として次のように付け加えます。「実質的な変化を生み出すには、会議やディスカッションの場で女性の貢献を積極的に認め、異なる視点の重要性を一貫して強調する、インクルーシブな職場環境を整備することが必要です」。

・ Women in Electronicsにおけるスポンサー活動
2024年9月、TDKはWomen in Electronics(WE)のスポンサーとなりました。WEは、リーダーシップ育成、メンタリング、コミュニティの構築を通じて、ジェンダー平等推進を目指しています。このパートナーシップは、イノベーションとビジネスの成功に不可欠なツールやリソースを提供しながら、エレクトロニクス業界での女性の包括的なリーダーシップの育成に取り組むTDKの姿勢を反映しています。
TDKエレクトロニクス(米国)でマーケティング・コミュニケーション・マネージャーを務めるデビー・マーティンはこう語ります。「TDKは、多様性を受け入れ、インクルーシブ・リーダーシップを支持し、チームメンバー全員が尊重され、大切にされ、仲間に加えられていると感じられる環境を作ることで、長期ビジョンである“TDK Transformation~サステナブルな未来のために、TDKは変わり続ける~”を推進しようとしています。WEとの提携はそれをサポートするものです」。
彼女は続けてこう述べています。「TDKがWEと提携するという議論は、私が2019年のWEリーダーシップ・カンファレンスに参加したことをきっかけに、アメリカで始まりました。その後、私はTDKがこの取り組みに関与すべきだと強く提唱してきました。WEは貴重な可能性と、組織全体のリーダーシップ開発の機会を提供してくれるからです」。
・ 国際女性デー(IWD)
こうした活動に加え、TDKは2025年3月3日の週に「国際女性デー」を祝い、世界各地で男女平等を推進し、組織への女性の貢献を称える一連のイベントを実施しました。
この取り組みには、リーダーシップ・パネルディスカッション、ウェルネス・ワークショップ、文化イベント、Women in Electronicsとの連携によるウェビナーなど、様々なイベントがあり、日本、中国、韓国、ASEAN、インド、米国、ヨーロッパのTDKの各拠点で行われました。

TDK株式会社代表取締役社長兼CEOの齋藤昇は、この活動を次のように位置づけています。「国際女性デーは、TDKの長期ビジョン「TDK Transformation」を支える重要な要素であり、人材戦略の重要な要素であるインクルーシブ・リーダーシップの実践に沿ったものです。さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)に対するTDKのコミットメントや、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の支援にもつながります」。
テクノロジー業界における女性のロールモデルの重要性
急速に進化するテクノロジー業界では、ロールモデルとなる女性の存在が次世代のイノベーターを励まし、導くうえで極めて重要です。彼女たちはリーダーシップ、レジリエンス(回復力)、ビジョンを体現する存在として、業界内の壁を打ち破り、新たな標準となります。

副本部長兼CFO
アウキシラドーラ・フェルナンデス・トリニダッド
その代表例として、TDKで30年のキャリアを持ち、TDKで最も競争力の高い事業のひとつであるコンデンサ・ビジネスグループの副本部長兼CFOを務めるアウキシラドーラ・フェルナンデス・トリニダッド(以下アウキシー)は、次のように語ります。「キャリアの初期には、ロールモデルやメンター、そして困難な状況を乗り越える際に支えてくれる味方を探すことを重視してきました。幸いにもこれまで、自分以上に私のことを信頼してくれる、非常に有能なリーダーたちの下で働く機会に恵まれました。彼らの影響力のおかげで、私は重要な局面を切り抜け、自分のリーダーシップスタイルに自信を持つことができました」。
TDKが今後、女性のキャリア機会をさらに高めるために取り組むべき戦略について尋ねると、アウキシーは次のように答えました。「真の発展には、制度的な支援と個人のエンパワーメントというふたつの軸が必要です。女性は自分の能力に自身を持ち、挑戦することを常に後押しされる必要があります。なぜなら、従来の社会的な慣習では、女性はリーダーシップの最前線ではなく、むしろ後方に置かれることが多かったからです」。
アウキシーは、女性自身が強く自己への信頼を築くことの重要性を訴えると同時に、組織のリーダーたちには、「女性が認識され、評価され、指導的な立場に踏み出せるような環境をつくる責任がある」と強調します。また、男性の同僚に対しては、社内の女性にメンタリングを提供し、見識を共有し、組織内の人間関係や意思決定のルールをどう乗り越えるか助言し、重要なプロジェクトや目立つポジションへの参加機会を提供することで、女性の声を高め、その貢献を可視化していくよう促しています。
国際女性デーのパネルディスカッションでは、彼女自身のジェンダー・バイアスの経験について語り、ビジネスにおいてそうした偏見を乗り込めるためには、遠慮せずに声を上げ、与えられたチャンスを活かしていくことが重要であると語りました。また、「チャレンジは夢の実現を後押しするものだから、恐れずに受け入れてほしい」と女性たちにエールを送りました。
アウキシーのようなリーダーの存在は、TDKがテクノロジー業界において多様性を推進し、人財を育成していく姿勢を象徴しています。彼女たちの活躍は、TDKの成功に貢献するだけでなく、次世代のプロフェッショナルたちにとって、効果的なリーダーシップの力や、技術革新を進めるうえでのロールモデルの重要性を示しています。
TDKの旅はつづく――女性リーダーの力で未来を変える
TDKでのリーダーシップにおけるジェンダー平等の推進は、決してゴールではなく、「継続的な取り組み」です。アウキシーのようなリーダーたちの活躍は、才能が育まれ、多様な視点が求められ、平等な機会が与えられたときに何が可能になるかを明確に示しています。
2024年までのDE&Iにおける達成事項:
・ 女性管理職比率におけるグローバル目標の設定
・ 「インクルーシブ・リーダーシップ」を長期ビジョンへ組み込む
・ 第2回チームメンバー・エンゲージメント調査で「帰属意識」を測定。参加率は89%(1年目を14%上回る)で、「多様性」、「ケア」、「機会均等」、「大切にされていると感じる」の項目で大幅な改善
・ 世界各地での国際女性デーへの積極的な参加
・ TDK株式会社(日本)は、LGBTQ+の 「PRIDE指標2024」で「ゴールド」を獲得
・ TDKエレクトロニクス(ドイツ)が「Top Employer」賞を受賞
こうした成果は、単なる実績ではなく、よりインクルーシブな未来をめざすための呼びかけでもあります。メンタリング・プログラムや各種の支援、制度づくりを通じて、私たち一人ひとりが変化をつくりだす役割を担っているのです。
