すべては「フェライト」から始まった
1930年、東京工業大学(現:東京科学大学)で世界初の酸化物磁性体「フェライト」が発明されました。当時は使い道も分からなかったこの新材料に可能性を見出し、日本に産業を興せないかと考えた創業者・齋藤憲三は、フェライトの工業化を目的に、1935年12月7日東京電気化学工業(現:TDK)を設立しました。
フェライトコアは、無線通信機やラジオの性能を劇的に向上させ、終戦までに延べ500万個を出荷。戦後は白黒テレビ用の部品として採用され、1950年代に日本国内でテレビ放送が開始されると、テレビの需要は爆発的に増加。TDKは、フェライトコアを通じてテレビの普及を支えるとともに、情報化社会の幕を開きました。
TDKによる「フェライトの発明と工業化」は、2009年に世界最大の電気・電子技術者による学会であるIEEEにより、「IEEEマイルストーン」に選ばれました。
フェライトから広がるTDKの技術と製品
TDKは、フェライトを原点とする磁性技術を発展させ、磁気記録テープなど新たな製品の開発に取り組みます。1968年には、独自の材料技術とプロセス技術により、音楽を高音質で録音できる「音楽用カセットテープ」の開発に成功します。カセットテープの登場は、音楽の楽しみ方を大きく変えることになりました。
その後も磁性技術は、インダクタ、磁気ヘッド、センサなど、電子部品の開発にも応用され、TDKの技術領域を大きく広げていくことになります。家庭では電化製品が普及し、人々の生活は大きく変化しました。TDKは急速に広がるエレクトロニクス社会を支える企業として、成長を続けていきました。
ロンドン・ピカデリーサーカスに掲出されたTDKのサインボード。音楽用カセットテープの成功により、TDKは世界的ブランドとなりました。
時代とともに主要事業を変化させてきたTDK
創業以来、TDKはひとつの事業だけにとどまらず、時代のニーズに合わせて主要事業を次々と変化させてきました。TDKの90年を象徴するものとして、「フェライトコア」「音楽用カセットテープ」「積層インダクタ」「薄膜磁気ヘッド」といった4つのイノベーションが挙げられます。いずれも当時の常識を塗り替え、人々の暮らしや産業に大きな価値をもたらしました。
音楽用カセットテープで世界的なブランドとしてその名を知られるようになったTDKは、インダクタやコンデンサなどの電子部品の研究・開発を進めます。1980年には世界で初めて積層チップインダクタの開発に成功し、電子機器の小型化と高性能化に欠かせない部品として普及します。
また、磁性技術を発展させて開発したHDD用磁気ヘッドは、コンピュータの記録容量拡大に貢献し、デジタル社会の発展を支えました。近年では、大容量の小型リチウムイオン電池がスマートフォンやノートPC、モバイル機器の小型化を支えることで、ICT(情報通信技術)の進化にも寄与しています。
社会の変化にあわせて、その時代のテクノロジーを支える企業として進化してきたTDK。過去の成功にとらわれず、自らの可能性を広げ続けてきた姿勢こそが、90年の成長を支えてきた原動力と言えます。
このグラフは時代とともに変化する製品別の売上高割合を示したものです。TDK はフェライトから始まる材料技術を進化させ、時代の変化とともに、磁気記録テープ、HDD用磁気ヘッド、バッテリ、センサなど主要事業を大きく変えながら成長してきました
TDKはフェライトの磁性技術を原点として、技術領域を拡大してきました。「フェライトツリー」は、その進化の軌跡を表したもの。幹にあるフェライトから、受動部品、磁性部品、センサ、エナジーデバイスなど、多彩な分野へと枝葉を伸ばしてきました。
未来への展望:2035年に向けて
2000年代以降、TDKは積極的なM&Aを通じて、世界中の革新的な技術と人材を取り込みながら、事業ポートフォリオを拡大してきました。現在では、世界30以上の国や地域に250以上の拠点を持ち、10万人を超えるチームメンバーがグローバルに活躍しています。
現在、TDKは長期ビジョン「TDK Transformation」を掲げています。これは、TDK自身が変革(Transform)を続けるだけでなく、社会の変革も支えていくことを宣言したものです。その変化の中核を担うのが、「AIエコシステム」です。AIはサーバーやデータセンターをはじめ、スマートフォンなどのデバイス、自動車、医療、ロボティクス、インフラなど、社会のあらゆる領域に広がり、私たちの暮らしや産業の姿を大きく変えつつあります。
TDKは、受動部品、センサ製品、磁気応用製品、エナジー応用製品など多彩な製品ラインアップにより、このAIエコシステムの発展を支えていきます。創立90周年を迎える今、そして100周年となる2035年に向けて、TDKはこれからも変化を恐れず、大胆に新しい価値を世界に届け続けていきます。
次回の記事では、これらの変革を支えてきた挑戦者たちのストーリーをご紹介します。