サステナビリティ | 環境TCFD/TNFD

はじめに

TDKは、2019年5月、気候変動が企業の財務に与える影響の分析・情報開示を推奨する提言を行うTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候変動関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明しました。当社は、TDK環境ビジョン2035の下で、調達から廃棄にいたるバリューチェーン全体で「ライフサイクル的視点でのCO2排出原単位を2035年までに半減」することを掲げ、気候変動による事業へのリスクと機会を評価し、情報開示を行ってきました。
また、2023年9月に公表されたTNFD(Task Force on Nature-Related Financial Disclosures: 自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言を受け、生物多様性を含む自然資本全般に対して、依存、インパクト、リスク、機会について、ガイダンスに沿って評価を開始しました。
TDKは、気候変動および自然資本に起因する事業へのリスクと機会を評価し、適切な情報開示を行うことが、当社の成長と持続可能な社会構築の両立には欠かせないと考え、順次取り組みを進めています。

1. ガバナンス

1.1 ガバナンス体制

取締役会の監督責任

TDKの取締役会は、未財務目標の進捗モニタリングを通して、気候変動および自然資本を含むサステナビリティ関連業務の執行について四半期ごとに報告を受けています。基本的方針、中長期戦略、年度計画、重要な指標と目標について、審議・決議します。

経営者の執行責任

経営会議では、執行部門から目標の達成状況およびリスクについての報告を受けています。気候変動および自然資本を含むサステナビリティ関連業務はサステナビリティ担当役員が管轄しています。
サステナビリティ関連リスクの対策実施や、定期的なモニタリングは、サステナビリティ推進本部がその実行責任を担っています。主要KPIの報告や中長期目標の策定、また投資計画など、気候変動および自然資本を含むサステナビリティ関連活動推進上の重要事項について、関連各部署と協議しながら、活動を推進しています。経営に重要な影響を及ぼすと判断された案件については、経営会議、また必要に応じて取締役会で審議をしています。

1.2 ステークホルダーエンゲージメント

TDKはグローバルに事業拠点を持ち、また主力製品となる電子デバイスの製造プロセスではさまざまな原材料、エネルギー、水等を使用しています。事業活動を通じて自然への負の影響が発生しないように努めるとともに、自然と深いつながりを持つ先住民族や地域社会などのステークホルダーへのエンゲージメントを尊重します。

《人権尊重に対する方針》
TDKでは、企業倫理綱領の中で「国の内外において、人権を尊重し、関係法令、国際ルールおよびその精神を遵守しつつ、持続可能な社会の創造に向けて、高い倫理観を持って社会的責任を果たしていきます。」と定めており、サプライチェーンにおける児童労働や強制労働を禁止する法律を含むすべての人権関連法令を遵守するよう求めています。2016年に策定した「TDKグループ人権ポリシー」では、国際人権章典、労働における基本原則および権利に関するILO宣言、OECD多国籍企業行動指針、子どもの権利とビジネス原則などの人権に関する国際規範を尊重・支持するとともに、2011年に国連で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」の枠組みに基づいて、サプライチェーン全体における潜在的な人権課題を正しく理解し改善するための取り組みを進めています。
TDKは関連するすべてのステークホルダーの人権を尊重し、すべてのビジネスパートナーに対しても本原則を支持することを期待し、サプライヤーに対しては本ポリシーの理解および遵守を期待します。
《人権リスクの特定と評価》
専門家とのダイアログや国際的な人権団体等からのレポーティング、労働・企業倫理リスクアセスメント、CSRセルフアセスメントを通じて、潜在的な人権リスクとなり得る課題や配慮すべき対象者について定期的に精査しています。
《人権デューディリジェンス》
TDKでは、「ビジネスと人権に関する指導原則」で示されている手順に従って、人権デューディリジェンスのプロセスを決定し、活動を推進しています。また、外部有識者や社内外のステークホルダーとのダイアログを通じて、活動をより効果的なものとしています。

2. 戦略

2024年5月に発表した、TDKの長期ビジョン・新中期経営計画において、TDK Transformation~Accelerating transformation for a sustainable future~の長期ビジョンを公表しました。テクノロジーの進化と社会の変革を加速し、サステナブルな未来の実現に貢献することを示したものです。そしてこの長期ビジョンを実現して企業価値の向上を目指すための基盤強化として、社会・環境課題解決の進行を重要課題(マテリアリティ)に設定しました。
気候変動対策については、生産拠点において「2050年CO2ネットゼロ実現に向けた、エネルギーの有効利用と再生可能エネルギーの利用拡大」を進めています。TDK環境ビジョン2035で掲げている、「TDKの環境負荷・環境貢献量をCO2へ換算し、原材料から製品の廃棄までのCO2売上原単位を基準年度2014年度から50%改善」を実現するため、活動施策と目標を定め、進捗を管理しています。

2.1 気候変動シナリオ分析(TCFD)

気候変動関連課題のビジネス上のリスクと機会を分析し戦略に反映させる目的で、環境省が公表した「TCFDシナリオ分析実践ガイド」に沿い、下記の前提条件のもと、シナリオ分析を実施しました。

・前提条件
 想定期間:2030年度
 対象範囲:TDKグループ全体、バリューチェーン上流・下流
 採用シナリオ:1.5℃シナリオ(IEA-NZE)、4℃シナリオ(IEA-CPS、STEPS、RCP6.0)
 対象としたリスクの種類:現在および新たな規制、技術、法制度、市場、評判、急性的および慢性的な物理的リスク

2.2 自然への依存とインパクトの分析(TNFD):バリューチェーンの俯瞰分析

TDKの直接事業および上流・下流のバリューチェーンを通して、事業活動と自然との関連性を把握するため、自然リスク評価ツール(ENCORE)を用いて、産業セクターごとの依存およびインパクトを分析しました。自然に対する依存とインパクトのヒートマップは、図1および図2にそれぞれ示す通りです。
電子部品セクターであるTDKは、直接操業において、地表水・地下水に中程度の依存が、また水質汚染や土壌汚染に高いインパクトがあることが示唆されました。バリューチェーンの特に上流になると、水利用、生態系利用および汚染へのインパクトが総じて高い傾向にありました。バリューチェーンの上流になるほど、自然との接点が増えるため、依存やインパクトが大きくなるものと考えられます。

 ヒートマップ(依存)
図1 ヒートマップ(依存)
ヒートマップ(インパクト)
図2 ヒートマップ(インパクト)

2.3 自然への依存とインパクトの分析(TNFD):TDK事業拠点

TDK直接事業の82拠点について、自然関連項目の空間的リスク情報を、WWF Risk Filter Tools(Biodiversity Risk Filter/Water Risk Filter)を用い、分析しました。対象項目として、水不足、野生生物、生態系、保護地域、森林、汚染、土地利用変化を含む、34の項目ついて、各拠点の位置情報と対応させて評価しました。34項目のうち、無関係は13、リスク評価スコアがLow~Middleの範囲が10、リスク評価スコアがHigh~Very Highが11ありました。高リスクと評価された拠点数の割合は、図3に示すとおりです。

依存に関する物理リスクとして、水(水不足、洪水、水質)や気候変動(地滑り、酷暑、熱帯サイクロン)に関する項目が、複数拠点であることがわかりました。インパクトに関する物理リスクとして、汚染リスクがすべての拠点で認められました。また、移行リスクとして、生物多様性に係る項目(保護地域/保全地域、生物多様性重要地域)が、いくつかの拠点においてインパクトを与える可能性が示唆されました。気候変動に関する項目は、TCFDでもリスクとして抽出されています。
これらの分析をもとに、自然関連の重要課題を特定し、TDKのリスクと機会を評価しました。

自然関連リスクが高い可能性のあるTDK事業拠点の割合
図3 自然関連リスクが高い可能性のあるTDK事業拠点の割合

2.4 リスクと機会(TCFD/TNFD)

2.1気候変動に関するTCFDのシナリオ分析結果と、2.3自然関連の重要課題から特定したリスクと機会は表1のとおりです。

《移行リスク》
気候変動に関して、脱炭素政策による各国の規制が厳しくなる1.5℃シナリオ下では、移行リスクとして炭素価格付けの導入や、再生可能エネルギーのコストが増加する可能性を認識しました。それぞれのリスクに対する2030年の財務影響としては、炭素価格では114億円、再生可能エネルギーでは155億円と予測しています。また、TDKの注力市場の一つである自動車市場では、自動車のEVシフトが進展することが予測されるため、EV関連製品の販売機会拡大や、電池関連のリスクや機会の可能性も認識しました。一方、4℃シナリオでは、異常気象頻発による洪水発生リスクがより高まる可能性も認識しました。
《物理リスク》
気候変動に関しては、洪水の増加によるビジネスリスクの増大を特定しています。このリスクに対する2030年の財務影響は49億円と予測しています。TDKの全生産拠点における水リスクに関して、WWF Risk Filterおよび世界資源研究所(WRI)が発表したAqueductを用いてシナリオに沿った分析を行い、水ストレスの高い地域を特定しています。各拠点において、洪水リスクに応じた対策の実施やBCP対応推進、BCM体制構築などの対策を毎年講じています。なお、水リスクは自然関連リスクとしても抽出されています。
自然関連リスクとして、汚染による物理的リスクが特定されました。汚染は、生物多様性に与えうる排水、固体廃棄物、排出ガスがすべて対象になります。TDKは、ISO 14001(EMSに関する国際規格)の認証を取得し、法規制遵守はもとより、項目によっては法規制値よりもさらに厳しい自主基準を設けることで、環境負荷の低減と未然防止に努めています。さらなるリスク低減や自然界回復に向けた取り組みを今後進めていきます。
《機会》
気候変動に関する機会として、新たなビジネスチャンスの拡大や新たな製品の開発の促進を特定しています。製品・サービスの需要増に起因する売上拡大の機会に対する2030年の財務影響としては合計で6,450億円と予測しています。また、この機会実現のための費用を950億円と予測しています。

表1 リスクと機会

リスク

リスク

機会

機会

※時間軸:「短期」は1年未満、「中期」は1~3年未満、「長期」は3~20年を想定しています。

3. リスクとインパクト管理

3.1 自然関連の依存とインパクト、リスク・機会の特定および評価プロセス(TNFD)

自然関連の依存、インパクト、リスク、機会の特定および評価は、TNFDガイダンスのLEAPアプローチに拠って行いました。自然関連の分析や評価には、各自然項目に応じて、TNFDで推奨されているWEBツールを使用しました(表2)。

表2 自然関連の調査で試用したツール

3.2 気候変動および自然関連のリスク管理プロセス

TDKでは、社長執行役員CEOが指名した執行役員を委員長とするERM(Enterprise Risk Management)委員会を設置して、全社的リスクマネジメント活動を実施しています。ERM委員会では、「リスク管理規程」に従って全社的リスクを特定しています。同委員会が管理しているリスクのロングリストには、自然関連リスクが含まれており、経営上のリスク分析評価によって重要と評価された場合は、管理対象として取扱われます。
TDKグループのサステナビリティ活動の推進を主導するサステナビリティ推進本部が、気候変動および自然資本を含むサステナビリティ関連項目のリスクや機会の特定、対策の実施、モニタリングを行います。

3.3 全社的なリスク管理プロセス

リスク管理体制

TDKは、持続的成長を目指す上で、組織目標の達成を阻害する要因(リスク)に対し、全社的に対策を推進し、適切に管理する全社的リスクマネジメント(ERM)活動を実施しています。ERM活動に関する施策を検討・実施し、リスクマネジメント活動を強化するため、社長執行役員CEOが指名した執行役員を委員長とするERM委員会を設置しています。
ERM委員会は、全社のリスクの分析評価を行い、対策が必要なリスクを特定するとともに、リスクごとにリスクオーナー部門、実行部門および関係部門を配置し、適切な管理を行います。リスクオーナー部門は、担当するリスクについて、リスク管理体制構築に必要な最低限の要求事項・ルールの制定、リスクアセスメント結果の取りまとめと報告を行います。実行部門は、担当するリスクについて、当該リスクを管理するために必要な体制を構築、具体的な対策の立案と実行、進捗状況のモニタリングを行います。
ERM委員会によるリスク分析評価や重要なリスクの対策状況については、経営会議において審議し、取締役会に報告しています。

対策の実施

ERM委員会は、各リスクの対応策をリスクオーナー部門、実行部門および関係部門に周知します。実行部門は、関係部門と緊密に協働し、TDKグループ各社が担当するリスクについて、対策を実施または指示します。TDKグループ各社は、実行部門からの指示に基づき、リスクごとに対策を実施します。

モニタリングと改善

実行部門は、担当するリスクに対する対策の実施状況を定期的にモニタリングし、当該リスクが十分にコントロールされているかを検証します。リスクオーナー部門は、実行部門が対策の実施状況を適切にモニタリングしているかを検証します。
ERM委員会は、実行部門が取りまとめたモニタリング結果に基づき、必要と認める場合には、リスクオーナー部門や実行部門に対して改善の勧告を行います。

4. 指標と目標

TCFD

TDKは、「TDK環境ビジョン2035」の中で「ライフサイクル的視点でのCO2排出原単位を2035年までに半減」を掲げています。このビジョンのもと、2025年までの環境基本計画として「TDK環境・安全衛生活動2025」の活動項目と目標値を定め、進捗を管理しています。また、2024年6月にSBT認定を取得しました。

中長期目標

TDKのグループマテリアリティ 社会・環境課題解決の遂行
TDK環境ビジョン2035 2035年までにライフサイクル的視点でのCO2排出原単位を2014年度比半減(スコープ1、2、3)
2025年までにCO2排出原単位2014年度比30%改善(スコープ1、2、3)
TDK環境・安全衛生活動2025 2025年までに再生可能エネルギー導入率50%達成(スコープ2)

2023年度目標と実績

2023年度目標と実績 実績
生産拠点のCO2排出量削減
エネルギー起源CO2排出量原単位 前年度比 1.8%改善 前年度比38.0%改善
エネルギー原単位 前年度比 1.0%改善 前年度比2.9%改善
2025年再生可能エネルギー導入率 50%に向けた取り組みの実施
(スコープ2)
2023年度目標40%に対し、55.2%導入
スコープ3カテゴリー別取り組みによるCO2排出量削減
スコープ3取り組みによる環境負荷低減の推進 グローバル物流CO2削減
物流CO2排出原単位 前年度比12.0%改善
GHG排出量(千t-CO2 2023年度
総排出量 20,373
スコープ1 134
スコープ2 694
スコープ3 19,546

TNFD

TNFDガイダンスになるコア開示指標のうち、GHG排出量、廃棄物排出量、水使用量についてグローバル環境データの中で開示しています。現在開示できていないコア開示指標については、データの収集やより詳細な分析を実施することで開示の準備を進めます。

詳細データや取り組み状況は、リンク先をご参照ください。なお、GHG排出量は第三者検証を受けています。

TDKでは、サステナブルな未来の実現を目指す長期ビジョンを目指し、従来の事業所での製造段階や製品の使用段階での環境負荷削減にとどまらず、ライフサイクル的視点で地球環境の再生・保護に努める目標を設定しています。未開示の目標については、TNFD v1.0やSBTs for Natureによる目標設定ガイダンスの内容も踏まえ、検討を進めます。