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トップメッセージ

自律分散型の組織づくりの強化によりレジリエントな企業に変わりつつあります。

グローバル企業としてのステージアップ

私が当社社長に就任して2021年6月で丸5年が経過しました。この5年間に私たちTDKグループの売上高は約30%増加し、営業利益も約20%増えました。前中期経営計画「Value Creation 2020」の3年間(2019年3月期~2021年3月期)トータルでの売上高は4兆円超、営業利益も3,000億円超すなわち単年度で1,000億円以上の水準になり、企業グループとしての規模は着実にステージアップしているという実感があります。

この成長を支えている最大の外的要因は、DX(デジタルトランスフォーメーション)とEX(エネルギートランスフォーメーション)という2つの世界的潮流です。2018年頃に始まった米中貿易摩擦の激化や、2020年初めから全世界に拡大し猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症など事業展開にとってマイナスの外的要因も少なからずありますが、この2つの大きな潮流がTDKグループの背中を非常に力強く押してくれています。

当社自身の事業の進化や経営の深化という内的な要因もあります。特に電池事業はこの数年で目覚ましい成長を遂げ、グループの収益拡大を力強く牽引する存在となっています。また、この数年間でモノづくりのインフラも含めた当社グループの総合的な技術力は格段に強化され、競争力を高めることができました。さらに私がTDKの大きな強みと考えているのは、事業ポートフォリオや技術、人材面も含めてさまざまな意味で「多様性」を有していることです。これによって目まぐるしく変化する不確実な事業環境にも柔軟に対応し、したたかに生き抜くことのできるレジリエントな企業体質が形成されています。

もちろん、すべてが順風満帆で来ているわけではありません。センサ事業のように成長を期待されながらも苦しんでいる分野もあり、2021年3月期の売上高は14,790億円(前期比8.5%増)、営業利益は1,115億円(同14.0%増)と増収・増益ではあるものの、中期経営目標に掲げていた「売上高16,500億円・営業利益1,650億円」は未達に終わりました。この業績結果も含め、克服していかねばならない課題はまだまだ残っていると認識しています。

自律分散型の組織づくりの強化により
レジリエントな企業に変わりつつあります

自律分散型の組織づくりの強化によりレジリエントな企業に変わりつつあります。

ダイナミックな組織づくりに向けて

上記のように事業面では課題も残りましたが、グループ運営の面では非常に大きく前進できた中期経営計画の3年間だったと私は捉えています。先に述べたグループの多様性を本当の意味での強みに変えていくために、この数年間、当社グループは世界各地の従業員が持つ可能性やエネルギーを束ねていく取り組みを着実に進めてきました。

とりわけ力を入れてきたのが、グローバルでの人材マネジメントです。現在のTDKグループにおいて、日本人は全従業員約13万人の1割にも満たないマイノリティであり、かつてのような日本基準による評価や管理では、多様な人材の個性・能力を上手く活かしていくことはできません。こうした考えから2018年4月、全グループ企業の人事部門キーパーソンで組織するグローバル人財本部をドイツに設置し、本部長にAndreas Kellerを任命しました。そして人材の採用から教育、処遇、能力開発、目標管理などすべてを集約した「グローバル人材マネジメントシステム」を構築することで、グループとしての求心力を確保しつつ、多様な人材が能力・個性を活かせる組織環境づくりを進めています。

また、グループガバナンスについても「KITEIプロジェクト」と名付けた改革を推進してきました。グローバルに事業を展開するうえでは、海外でのさまざまなリスクを回避するためのガバナンス体制の整備も必要です。しかし何もかも規則でがんじがらめにすれば、競争力の源泉である前線でのダイナミズムが失われてしまいます。そこでKITEIプロジェクトでは「エンパワーメント&トランスペアレンシー(権限委譲と透明性の向上)」をコンセプトとした自律分散型の組織づくりを志向しました。TDKグループの一員として遵守すべき基本ルールを「グローバル共通規程」として定める一方、各グループ企業への権限委譲を徐々に進めることで最前線でのダイナミックな意思決定を可能にする体制づくりを目指したのです。権限委譲のためには互いの信頼が必要であり、私は自ら世界各地のグループ企業を訪問して経営リーダーたちとの対話を繰り返し、時間をかけて信頼関係の構築に努めました。その結果、現在では各地の最前線でビジネスチャンスを逃すことのない、機動的なストラクチャーが機能し始めています。今後も規律と自由のバランスのとれたガバナンス体制によって、ダイナミックな変革に挑戦していきます。

バックキャスティングで中期経営計画を策定

こうした成果と課題を踏まえて、2022年3月期からは新中期経営計画「Value Creation 2023」がスタートしています。今回の中期経営計画の策定においては、最初に10年後の社会や人々の生活、産業構造、事業環境などに関する詳細な予測を行い、そこからのバックキャスティングによって「われわれは今、何をすべきか」を考えるというやり方をとりました。このきっかけとなったのは取締役会における社外取締役からのアドバイスでした。未来の予測やバックキャスティングに関しては、事業部門だけでなく取締役会でも何度も議論を重ねました。

一般に私たち部品メーカーは、お客様であるセットメーカーから受け取った仕様書に基づいて開発・設計をスタートさせます。しかし市場への投入が遅れれば製品はコモディティ化し、価格競争に陥って利益がとれません。このため私は社長就任以来、「Time to Market を短く!」と事業部門に言い続けてきました。Time to Market を短縮する方法の一つはフライングすなわち「スタート合図の前に飛び出す」ことですが、見当はずれの方向に飛び出しては逆に競争に遅れます。そこで「未来はこうなっていく」という具体的な図を描き、予測した社会・市場の変化に合わせて、最適のタイミングで市場投入を行えるよう準備を進めたいと考えたのです。

まず今後10年間でTDKの事業に大きな影響を与えるキーテクノロジーを「5G」「AI」「再生可能エネルギー」の3つと定めました。そして、これらがどのように各産業や人々の暮らしに影響を与えるかを分析し、それに基づいて自社の技術・製品・サービスがどのように進化すべきかを決めた戦略シナリオを作成していきました。

もちろん、10年前に今日の状況が完全には予測できなかったように、10年先を正確に見通すことは難しいでしょう。けれども「これから起こるであろうこと」をできる限り具体的に、詳しく予測し、それに合わせた準備を周到にしておけば、たとえ想定外の変化が起きても柔軟な対応がとれるはずです。別の言い方をすれば「予測からどの程度ずれているか?」を随時チェックできるくらいに詳細な見取り図を描けていると考えています。

Time to Marketの短縮を実現するためにマーケティングを強化し、技術に磨きをかけます。

マーケティング力の強化を目指した施策の推進

「今やるべき」ことを明確化するなかで、自社に足りないもの、強化せねばならないことも見えてきました。その1つがマーケティングに関する組織能力です。Time to Market の短縮には未来予想に基づく早めの準備とともに、「今、市場で起こっていること」を敏感に感じ取るアンテナ能力や、顧客に潜在するニーズを掘り起こしていく提案力の強化が必要です。

こうした考えからこの4月に新設したのがコーポレートマーケティング&インキュベーション本部です。この新組織の使命は、幅広い顧客業界のニーズを探るとともに、社内全体を俯瞰し、多種多様な技術シーズの組み合わせの可能性を考えていくことです。今後同本部をコーポレートや各事業部のR&D部門と連携させることで、市場の動きに即応した製品開発につなげていきます。

さらに、より先端的なニーズへのアンテナとして、2019年に設立したベンチャーキャピタルTDK Venturesも活用していきます。コーポレートベンチャー機能を担う同社の活動は、最先端のトレンドを捉えるマーケティング活動でもあると私は考えており、これをコーポレートマーケティング&インキュベーション本部と連携させることで、目の前の需要から最先端分野の可能性までも見通したマーケティング戦略を推進していく方針です。

Time to Market を縮めるため、私はずっと技術部門のスタッフたちに対して「生煮えでもいいから、とにかく出せ!」と言ってきました。完全主義者の多い技術者には抵抗もあったと思いますが、最近では「こんな技術があるのだが、何かに役立てられないか?」といった提案ができるようになってきました。こうした活動の成果が目に見える形になるには、まだしばらく時間がかかると思いますが、さまざまな側面でマーケティング力を高めていくことで、市場の要求にタイムリーに応えるモノづくりが実現し、サステナブルな成長につながっていくことは間違いないと期待しています。

「売上高2兆円」達成に向けた各事業の成長戦略

現中期経営目標としては最終年度(2024年3月期)に「売上高2兆円(2021年3月期比35%増)」「営業利益率12%以上」を掲げています。相当に高い目標数値であると思われるかも知れませんが、主力事業を順調に伸ばし、さらに課題事業の収益改善をしっかりと進めていくことで、十分に達成可能な数字であると私は思っています。

現在の収益の大きな柱となっている電池事業においては、ここ3年間で大きく成長してきたモメンタムを次の成長エネルギーに転換していきます。すでにスマートフォンやウェアラブル端末、ワイヤレスイヤホンといった小型電池分野では高いシェアを獲得していることから、さらなる成長に向けては新分野の開拓を進めていく必要があります。小型電池に軸足を置きつつも家庭用蓄電システムや電動二輪車といった中型電池分野の開拓を進めることで、引き続き事業拡大を目指していきます。なお2021年4月に発表したCATLとの業務提携は電池事業の成長に大きく寄与すると期待されますが、成果が本格的に顕在化するのは次期中期経営計画期間以降になると予想しています。

受動部品事業については、まさにDXとEXを進めるための立役者であると捉えています。車の電装化や自動運転化に伴ってコンデンサやインダクタといった当社の受動部品の需要は確実に増加が見込めます。また情報通信分野においても5GやAIの進展によって新たな需要の拡大が期待できます。

また磁気応用製品事業については、毎年12%程度の成長を見込んでいます。HDDヘッド事業に関して、あらゆる分野でクラウド化やビッグデータの活用がさらに進んでいくなか、当分は安価・大容量で信頼性の高いHDDがストレージの主流であり続けると予想されます。

一方、赤字の続いているセンサ事業については「やるべきことはやっているが、なかなか数字に結びつかない」というのが私の認識です。社長就任以来、同事業の拡大に向けて複数のベンチャー企業を買収してきました。それらの多くは技術開発力が高いものの資金力・営業力に限界があるため顧客層も製品の幅も限定的でした。TDKグループに加わることでこうした弱点をすべて解消し、大きな成長につなげていくというシナリオは、今も間違っていないと確信しています。

結果が出るまでに思った以上に時間がかかっていますが、2021年3月期第4四半期頃からようやく想定した形での数字が上がり始めています。センサ事業の各分野はこれまでの「1社依存」あるいは「1製品依存」の状態を脱却し、多様な顧客層に向けて幅広い製品ラインアップを展開することで、安定的に利益を稼ぎ出せる事業に変容しつつあります。これにより2022年3月期のセンサ事業の売上高は1,000億円の大台に乗り、中期経営計画期間の最終年度には待望の黒字転換も果たせる見込みです。毎年25%で成長させ、新たな柱事業の確立を目指していきます。

このセンサ事業を含め、現中期経営計画期間はこれまでの地道な種まきの努力が実を結んでいく3年間になると期待しています。各事業が着実に成果を生み出せるよう、成長へのアクセルをしっかり踏み込んでいきます。

中期経営目標

サステナビリティ経営のためのマテリアリティを明示

私たちTDKグループは「Social Value(社会的価値)」、「Commercial Value(成長戦略)」、「Asset Value(資本効率)」という3つの価値を創造するサイクルによって社会に貢献し、その結果として企業価値の持続的向上を実現していくことを目指しています。この価値創造サイクルの起点になるのは、「社会的価値」の創造、すなわち社会課題の解決に貢献していくことです。当社が貢献できる2つの大きな社会課題としてDXとEXの領域に注力し、2CX(Customer Experience, Consumer Experience)の実現を目指します。持続可能な社会の実現に寄与する価値をこの2つの領域に創出していくことで、社会から成長の機会を頂きたい、というのが私たちの基本的な経営姿勢となっています。先述した長期予想に基づく成長戦略の中核にあるのは、このサステナビリティ経営の考え方です。

現中期経営計画では「TDKグループのマテリアリティ」を定めました。これは2CX実現に向けDXとEXを加速させ、サステナブルな社会に貢献する価値創造をグループで実行していくためにスタッフ機能や経営機能がクリアすべき重要課題であり、品質管理や人材マネジメント、サプライチェーンマネジメントといった各スタッフ部門とのディスカッションを通して明確化したものです。このマテリアリティを通じて、サステナビリティ経営への意識を全社でさらに共有していきたいと考えています。

価値創造サイクル

「創造する」企業としてのDNAを、一段と高めるための鍵となるのが、TDKグループの多様性です。

多様な「人財」の力を活かす組織づくりが経営の使命

企業経営の最大のテーマは「人財(人的資源)」という最大の経営資源を活かすことであると私は考えています。経営トップの使命も、突きつめればこれに尽きると思います。

AIがどれほど進化しようとも、インプットがなければアウトプットは生まれません。そしてインプットする「何か」を生み出すのは人間の仕事です。創造性はデータの蓄積や系列化では生まれません。ありとあらゆる異質の情報を組み合わせて「最適化する」ことは、恐らくAIにもできるでしょう。しかし、そこから全く新しいものを「創造する」ことは人にしかできない行為であると私は思います。ただし、ひとりの人間にできることは限られています。個々人の持つ創造力を活性化させ、最大限に発揮させていくことが組織の役割であり、それができる大勢の組織リーダーを世界中に作っていきたいと思っています。そのために重要なのが、冒頭でも述べた「多様性(ダイバーシティ)」です。

ダイバーシティの本質は「聞きたくない話や、自分とは異なる意見にも耳を傾け、それをとり入れて結論を導き出せる力」であると私は考えています。欧州に14年間赴任した経験を通し、私は身をもってこれを学びました。そこでは国籍、文化、人種の異なるメンバーが、毎日のように侃々諤々と議論していました。それぞれが言いたいことを話す。そして相手の意見を聞く。そのなかで自分ひとりでは思いつかなかった視点や気づきが生まれていく──それもまた人間の持つ素晴らしい「創造力」だと思います。

私たちTDKは、これからもそのようなダイナミックな「創造」ができる企業グループとして、創業以来大切にしてきた「創造によって文化、産業に貢献する」という社是を胸に、進化を続けていきます。

2021年12月

代表取締役社長
石黒 成直

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