

モーションセンサの精度と効率性を追求した、新ソリューション「PositionSense™」の実力に迫る
人やモノの動きを検知するモーションセンサは、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、AR/VRヘッドセット、ナビゲーションシステムなど、現代には欠かせないものとなりました。都市でのナビゲーションや、バーチャル体験の向上、フィットネスの活動トラッキングなど、モーションセンサが活躍する場所は広がり続けています。しかし、テクノロジーの進化に伴い、これまで以上に高精度で、応答速度が高く、効率的なセンサのニーズも高まっています。TDKのグループ会社InvenSenseが開発した「SmartMotion® PositionSense™」は、革新的なTMR(トンネル磁気抵抗効果)技術を活用し、6軸の慣性計測ユニット(IMU)と3軸の磁力計を組み合わせることで、高精度かつ低消費電力のモーションセンシングを可能にします。
モーションセンサのニーズとこれまでの課題
モーションセンサは、市街地の移動からドローンの制御まで、私たちの生活に大きな変化をもたらしてきました。例えば、スマートフォンのナビゲーションや歩数計測、画面の向きの制御などに使われたり、AR/VRシステムでは、リアルで没入感のある体験を生み出すために、精密なモーショントラッキングを活用したりしています。これらのアプリケーションが高度になるのに伴い、モーションセンサには、より高精度で低消費電力、迅速な再校正が求められるようになりました。市場が拡大するとともに、以下のような新たな課題も浮かび上がっています。

モーションセンサの技術的な課題
1. 磁気干渉
磁力計は、充電器やバッテリ、アクセサリーなどの磁場に非常に敏感です。この干渉により、読み取り値が歪む可能性があり、再校正に時間がかかることがあります。
2. ドリフトと再校正
モーションセンサは時間の経過とともに小さな誤差が蓄積して、ドリフト*1と呼ばれるエラーを引き起こします。これを修正するためには再校正を行う必要がありますが、プロセッサの負荷が増加し、消費電力も増加します。
3. 高い消費電力
多くのモーションセンサは消費電力が大きいため、バッテリの寿命が短くなります。特にウェアラブル機器などでは、バッテリのサイズと利便性のトレードオフが生じます。
PositionSense™とその革新的なテクノロジー

6軸IMUとTMRセンサを組み合わせたPositionSense™のイメージ
これらの課題を解決するため、TDKは画期的なモーションセンシングシステム「PositionSense™」を開発しました。この9軸センサシステムは、6軸のIMUと3軸の磁力計を組み合わせた2チップで構成され、高精度なモーショントラッキング、迅速な再校正、そしてクラス最高レベルの電力効率を実現します。その中核となる技術は、TMR技術と強化されたeDMP(組み込みデジタルモーションプロセッサ)*2です。これらの技術を活用し、PositionSense™は、より正確で効率的なセンシングを実現し、さまざまなアプリケーションでの活用が期待されています。
・ TMR技術(トンネル磁気抵抗効果技術)
従来のホールセンサやAMR(異方性磁気抵抗)技術と比べ、低消費電力かつ高感度で、ノイズ耐性が向上します。正確な方位検出を最小限の電力で実現し、バッテリ駆動のデバイスに理想的です。
・ 強化されたeDMP
IMUと磁力計のデータの校正と統合などの重要な役割を実行します。デバイスのCPUの負荷を軽減します。全体的なシステム効率が向上し、他の処理にリソースを割けるようになります。
TMRセンサを使った磁力計

PositionSense™が私たちの生活を変えていく
PositionSense™は、様々なアプリケーションの課題を解決し、現在使われている様々なデバイスの性能と使いやすさを向上させることが期待されます。
・ スマートフォン
GPS信号の弱さや磁場の干渉の影響のある都市部でも、PositionSense™は、即時再校正と精密な方位推定を提供し、正確なナビゲーションを実現します。
・ AR/VRヘッドセット
PositionSense™は精密なモーショントラッキングでドリフトを最小限に抑え、正確なヘッドトラッキングとコントローラートラッキングを提供し、スムーズな操作性を確保します。また、低消費電力により長時間の操作を楽しむことができます。
・ ウェアラブルデバイス
混雑した場所での子どもの位置モニタリングや高齢者の転倒検知など、安全性を重視したアプリケーションに価値があります。
・ TWS(完全ワイヤレス)イヤフォン
TWSイヤフォンは、PositionSense™により、ゲームや通話、映画鑑賞するユーザーの頭の動きと向きを正確にトラッキングし、空間オーディオの精度を向上することで、臨場感を強化できます。

新たな可能性の開拓
また、PositionSense™は、革新的な技術を活用し、様々なアプリケーションや産業分野に新たな可能性を開きます。デバイスのスマート化が進む中、モーションセンシングはより高度な機能を実現する重要な技術となります。
・ ナビゲーションシステム
車両、ウェアラブル機器、自律型ロボットに正確な方位情報を提供し、移動の精度を向上します。
・ ヘルスケア
PositionSense™を搭載したウェアラブル機器が、活動トラッキングや転倒検知を強化し、医療・福祉分野での安全性向上に貢献します。
・ 産業用オートメーション・ロボティクス
混雑した場所での子どもの位置モニタリングや高齢者の転倒検知など、安全性を重視したアプリケーションに価値があります。
・ ゲーム周辺機器、電動工具、IoTデバイス
PositionSense™が従来のセンサの制限を克服することで、開発者が妥協することなくイノベーションを実現し、よりスマートで効率的なデバイスを創造することを可能にします。


Vice President of Software Engineering
InvenSense
TDKのグループ会社、InvenSenseのソフトウェアエンジニアリング部門の副社長のRosa Chowは PositionSense™の開発を振り返り、次のように話します。「開発においては、最新のアプリケーションの様々な要求に応えるため、精度や効率性、適応性のバランスを取る必要がありました。最大の課題のひとつは、ワイヤレス充電器などの強い磁気干渉がある環境において、シームレスな再調整を実現することでした。高度なTMR技術とオンチップの補正用ソフトウェアを統合することで、障害を抑え、実際の使用環境において、安定した性能と電力効率を実現できました」。
TDKのPositionSense™は、TMR技術、6軸IMU、強化されたeDMPを統合することで、従来のセンサの課題を克服しました。これにより、精度、効率性、信頼性を兼ね備えた次世代のモーションセンシングを実現します。この革新的な技術が広く採用されることで、よりスマートで高性能なデバイスが登場し、モーションセンシング技術の未来が大きく進化していくことでしょう。製品について詳しい情報はInvenSenseのWebサイトをご覧ください。
TDK PositionSense 9-axis Sensor Solution - IMU + TMR + Software for Absolute Orientation Detection
用語解説
- ドリフト:温度や気圧、磁場の変化などの原因により、時間の経過とともにセンサの測定値が本来の値から変化すること。
- eDMP(組み込みデジタルモーションプロセッサ):モーションセンサのデータ処理を効率化するために組み込まれたデジタルプロセッサ。デバイスのCPUの負荷を軽減し、消費電力を抑え、応答速度を向上させる役割も果たす。