TDKのDX推進への取り組み
CDXOメッセージ Cultivating the Intelligence Within
Roshan Thapliya PhD.ローシャン・タプリヤChief
Digital Transformation Officer
(兼) デジタルソリューションズ本部長
(兼) デジタルソリューションズ本部
AIグループ
ゼネラルマネージャー
内なる「インテリジェンス」を研ぎ澄ましてゆく デジタルソリューションズ本部と専任のAIグループ設立への軌跡
長年、TDKという企業を形づくってきたのは、世界の電子産業を支える材料や磁性技術といった「物理」の領域における卓越した技術でした。
しかし、2026年4月1日の新体制への移行を機に、私たちは数年前から準備してきた大きな転換を本格化させます。それは、TDKが「データドリブン、かつ、AIによって拡張した企業」へと進化することです。
デジタルソリューションズ本部と専任のAIグループの設立は、単なる形式的な組織変更ではありません。これまで積み重ねてきたデジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクトや、強力な社内ツールである「TDK
GenAI」の導入によって成し遂げてきた改革の集大成なのです。
なぜ、今このタイミングなのか。それは、もはや「実験」の段階は終わり、いよいよ実戦(本格運用)へと移行する時がきたからです。
デジタルソリューションズ本部は、IT、デジタル、そしてAIの各グループで構成されます。そして、TDKを「デジタルを活用する(doing digital)」段階から、組織の在り方そのものが「デジタルである(being digital)」状態へと進化させることをミッションとします。
- ITグループ:強固なゼロトラストに基づく基盤を構築・維持します。
- デジタルグループ:グローバルな全拠点において、ワークフローの変革を牽引します。
- AIグループ(CDXOが率いる新たな組織):TDK GenAI機能の拡張とともに、TDKの強みである材料科学の専門知識や長年培われた暗黙知を集積したドメインAIの開発に注力します。
これまでの歩み:DXプロジェクトから得た学び
今日に至るまでの道のりは、特定の成果にフォーカスして機敏に動く「タスクフォース型」の活動や、組織の壁を越えて新たな価値を創出する全社的なDXの取り組みによって築かれました。
私たちが目指したのは、DXを単なる「上からの命令」にすることではありません。現場で協力し合い、DXを「自分たちの手で作り上げる現実」にしたいと考えたのです。各ビジネスカンパニーと本社のエキスパートたちが結集したことで、グローバル企業特有の「組織の縦割り(サイロ化)」を打破することができました。
プロジェクトから得られた重要な教訓
・データ仮想化(Data Virtualization)は不可欠
迅速に変革を進めるためには、すべての業務でデータベースの形式が統一されるのを待っている余裕はありません。システムが多様であることを弱点として捉えるのではなく、むしろそれを原動力に変えたのです。各拠点に分散したデータソースをAIが即座に活用できる「AI-ready」なデータセットへと仮想化する、「インフラ」としての役割を担うAIエージェントを導入するという、これまでにない手法を確立しました。
・「人」を中心に据える
DXの半分はテクノロジーですが、もう半分は「人」です。私たちの変革が成功したのは、単なる「システムの管理」から、IT・デジタル・AIを駆使して「チームメンバー(従業員)をエンパワーする(力を引き出す)」ことへと舵を切ったからです。
チームメンバーや現場がかかえる課題の解決にフォーカスするため、組織名称も「経営システム本部」から「デジタルソリューションズ本部」へと改めました。
また、デジタルグループにおける重要な取り組みとして、「人間中心設計(Human-Centric
Design)」の専任チーム(UXおよびコミュニケーションを含む)を新設しました。これは単なる利便性の追求ではなく、チームメンバーがAIと日常的にスムーズに関わるための戦略的なアプローチです。
TDK GenAI:社内効率化を加速させるエンジン
AIグループ新設のきっかけとなったのは、TDK
GenAIの成功でした。セキュリティとプライバシーを徹底的に確保するために自社開発されたこのプラットフォームは、エージェンティックAI(自律型AI)の柔軟性と高度なサイバーセキュリティ対策をあわせ持ち、TDKのエンタープライズAIを支える「デジタル神経系」としての役割を果たしています。
既製品のソリューションとは一線を画し、TDK GenAIは製造現場特有の複雑な環境にも対応できるよう、多層構造(マルチレイヤー・アーキテクチャ)で設計されています。
- 推論層:複数の大規模言語モデル(Large Language Model)を活用し、独自のデータセットに基づいて状況や文脈(コンテキスト)を的確に理解します。
- オーケストレーション層:ワークフローを最適化するために複雑なタスクを管理します。
- 検索層:社内のSQLサーバーや、TDKの競争力の源泉である専門知識が蓄積されたドメインAIデータセットへとダイレクトに接続します。
これらを日々の業務へと統合することで、私たちはエージェンティックAIアプリケーションへの段階的な移行をスタートさせました。
新設されたAIグループとその専任チームは、エンタープライズAI開発、Operational
QoS(運用品質)の維持、ドメインAI開発、そして責任あるAIという4つの柱を通じて、この変革を強力にリードします。これにより、TDKをAIトランスフォーメーション(AIX)という新たな領域へと進化させていきます。
2026年とその先へのビジョン
私たちは、「インテリジェンス」が、フェライトやリチウムと同じように、TDKにとって欠かせない「核となる材料」であるような企業を築いていきます。
まず社内変革を徹底することで、お届けするすべての製品が、業界最高水準の効率性とデータ活用、そしてAI最適化を誇る組織から生み出されていることを、確かなものにします。これこそが、不透明な市場環境(ボラティリティ)の影響を和らげ、持続的な成長を実現するための私たちの「処方箋」なのです。
私たちは単にTDKを変革しているのではなく、未来の「TDK
United」を創り出そうとしています。そこでは、すべてのチームメンバーがAIの力で能力を拡張し、すべてのプロセスがデータで最適化され、あらゆるソリューションが「In Everything,
Better」を体現しているのです。
2026年 4月
エレクトロニクスにおける持続可能なイノベーションの推進 TDKのDXイニシアティブ
独自のフレームワークに基づいた自社開発のTDK GenAIプラットフォームで変革を推進
TDKのDXフレームワークは、営業・マーケティング、生産、サステナビリティの全社横断的な取り組みです。たとえば営業・マーケティング分野では、エージェンティックAIが顧客管理システムをインテリジェントな成長エンジンへと変貌させ、機会の継続的な監視、リスク検出、チームへの最適な指導を実現しています。製造現場では、DXが現場の専門知識をデジタルツールで補強し、業界トップクラスの運用効率を実現しています。スマートマニュファクチャリング※/インダストリー4.0の取り組みでは、品質保証、予知・予防保全、エネルギー効率化、サプライチェーン最適化をAIとデータ統合によって強力に支援しています。サステナビリティトランスフォーメーション(SX)においては、高度なデジタル技術をサステナビリティのあらゆる側面に組み込み、脱炭素やエネルギー生産性の向上を推進しつつ、カーボンフットプリントの最小化に貢献しています。DXとSXの融合により、TDKは自社の変革を進めるとともに、エレクトロニクスにおける持続可能な成長の新たなスタンダードを打ち立てています。
※ デジタル技術を活用し、製造プロセス全体を最適化する取り組み
これらの変革を推進する基盤の一つが、TDKが開発したセキュアなTDK Generative AI(TDK GenAI)プラットフォームです。TDK GenAIプラットフォームは、データやAPIにアクセスするツール・検索層、タスク管理を担うオーケストレーション層、大規模言語モデル(LLM)およびドメイン特化型AIによる推論層、継続的改善のためのフィードバック・学習層、そして堅牢なガバナンスを実現するセキュリティ・コンプライアンス層からなる多層構造を有しています。TDK内で提供される生成AIサービスは、このTDK GenAIプラットフォームとAPIゲートウェイを活用しており、組織全体でのスケーラブルかつセキュアなエージェンティックAIソリューションの展開を可能にし、ワークフローの最適化と生産性向上を加速しています。TDKは、生成AI技術を組み込んだシステムをいち早く自社で開発し、実稼働レベルでグローバルのグループ全体に展開した先進的な企業の一つです。市場の見通しを踏まえつつ、有望な技術を大胆に取り入れようとするその姿勢に、TDKの「ベンチャースピリット」が表れています。
TDKの内部ワークフロー改革への強いコミットメントは、IT・デジタル・AIに加え、新たに導入されたタスクフォース型のDXイニシアティブに集約されています。このDXイニシアティブは専任タスクフォースを運用現場に短期間(通常は1カ月未満、最大で2カ月程度)集中派遣し、高いインパクトを持つAI駆動型ソリューションを特定・実装することを目的としています。これにより、長年にわたり蓄積されたドメイン特化データをもとに構築したドメイン特化型AIを組み合わせたエージェンティックAIを活用し、大幅なコスト削減とワークフローの効率化を図ります。このタスクフォース型DXイニシアティブは多様な技術要素と業務プロセスの協働・融合を象徴しており、迅速に変革を実現し、成果を数値で評価します。バックオフィス業務から工場現場まで幅広い分野で採用が進み、間接業務の自動化により運用コストの改善効果が表れています。
業務プロセスのDXを支える、多様な教育プログラムとゼロトラストセキュリティ
TDKのDXに対する取り組みは、ビジネスインパクトや成果、努力を讃える社内表彰「DX-Award」を通じてグローバルに評価され、イノベーションと卓越性を重視する文化を醸成しています。TDKのDX推進の中心にはチームメンバー(従業員)のエンゲージメントがあり、デジタルソリューションズ本部のIT・デジタル・AI各グループが、ガバナンス、責任あるAIポリシー、組織内の情報共有を主導しています。
アップスキリング・リスキリングは、基礎から専門までのIT講座、実地研修、サイバーセキュリティ、プライバシー、責任あるAIに関する専門モジュールを含む包括的なDX研修プログラムを通じて優先的に推進されています。グローバルな連携によりネットワーキングやコミュニケーションが促進され、対面式のイベントやデジタルプラットフォームを活用した社内外のDXコミュニケーションが活発に行われています。また、DX認定の取得やSNS、国際会議への参加を通じて外部との連携も強化し、デジタルコミュニティにおける存在感を高めています。これらの取り組みが、人、技術、知識が交差する活気あるネットワークを形成し、チームメンバーのエンパワーメントだけでなく、業界におけるデジタルリーダーシップ、連携の新たな基準の確立にも寄与しています。
サイバーセキュリティとプライバシーは、TDKのDXの中核をなすものです。主な取り組みとしては、クラウド・オンプレミスのインフラや情報資産を守る堅牢なゼロトラストセキュリティフレームワークの導入があります。これは認証・認可、ネットワークアクセス制御、AIモニタリング、デバイス管理、ネットワーク分割の5つの技術領域と包括的なガバナンスにより構成されています。各領域で4段階のセキュリティレベル(レベル1:セキュリティ基準、レベル2:強化された保護、レベル3:半自動検知・対応、レベル4:自動検知・対応)を設定し、多層的かつ適応型の戦略で継続的に対策を強化し、脅威の検知と対応の自動化を推進しています。グローバルなゼロトラストアーキテクチャの採用により、新たなAI駆動型脅威の台頭にも先手を打って対応し、デジタル環境と重要資産を守るための積極的かつダイナミックなアプローチを示しています。
TDKはアジャイルな手法、堅牢なAIプラットフォーム、継続的な学習と倫理的な視点を重視する文化を融合し、DXとAIを高度に組み合わせた変革を推進しています。こうした取り組みにより、電子機器メーカーとしてお客様や社会の期待を超え、オペレーショナルエクセレンスとデジタルリーダーシップの最前線に立つ存在となると確信しています。
2026年 1月
