サステナビリティ | ガバナンスデジタルトランスフォーメーション(DX)
基本的な考え方
TDKは長期ビジョン「TDK Transformation」のもと、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめとした社会のTransformationへの貢献と、TDK自身の継続的なTransformation(社会変革への貢献と、自社の継続的な変革)の2つのサイクルを加速し、サステナブルな未来の実現に寄与することを目指しています。
ネットワーク、サイバーセキュリティなど(IT)、ワークフローのデジタル化(デジタル)、生成AI、データ倫理など(AI)の活用によりDX活動を推進し、業務効率の向上、情報セキュリティ/プライバシーの保護、データドリブンで導出したインサイト(洞察)による価値創造の充実を図ります。
また、社会へのAIの浸透・拡大というマクロな潮流を見据え、AIに関連する幅広いマーケットを「AIエコシステム市場」として定義付けています。AIエコシステム市場の拡大により、データセンターの省エネ・高密度化、HDD用ヘッド/サスペンション、エッジAI端末、AI搭載自動車・インフラ、半導体製造装置、ARグラス等の幅広い需要創出が見込まれます。TDKの省電力・高信頼・高密度化技術やセンサ×ソフトウェアの強みを発揮し、既存事業における新製品開発のみならず、新たな製品・サービス・ソリューションを創出することで、社会のTransformationに貢献するとともに、TDKの持続的な成長を牽引していきます。
CDXOによるメッセージ
ガバナンス
DX推進体制
TDKでは、社長執行役員CEOの直下にChief Digital Transformation Officer (CDXO)を配置しています。CDXOは、IT、デジタル、AIにおける一貫したガバナンスの確保、およびTDKグループ全体に対する具体的な支援統括をミッションとしています。社長執行役員CEOとCDXOは、トップマネジメントと執行側の密接な連携のもと、全社のDXを推進しています。また、TDK Transformationのビジョンを実現するために、CDXOは全社DX最高責任者としてDXの方針および実施計画を共有し、全社として運用しています。具体的には、DX/IT部門(経営システム本部)の中期計画や、全社横断プロジェクトの進捗、AI活用に向けた組織編成・ロードマップ・リテラシー向上施策、サイバーセキュリティ、DX/IT人財育成などについて報告が行われ、方向性が検討されています。
2023年4月には、CDXOの配下にTDKグループ本社機能として経営システム本部を設立しており、IT、デジタル、AI技術を使ってDXを加速しています。また、戦略・現場・実行をつなぐ定期的な対話とコミュニティ運営も担い、DX/AI/ITに関する方針伝達、事例共有、実装進捗の把握・連携を行うことで、社内DXを推進しています。
AIの利用に関するグローバル共通規定を制定し、全社で適切にAIを活用できるよう、グループ内の遵守事項を規定しています。その中でAIポリシーを定め、具体的な体制づくり、グローバル共通規定遵守に向けた実行内容を定め、グループ内でその運用徹底を図っています。
サイバーセキュリティ体制
戦略
TDKは、独自の3層型のアプローチ「TDK DXフレームワーク」を実行することにより、DX推進を継続・強化しています。
経営システム本部では、第1層・第2層・第3層のそれぞれを計画的に遂行しDX実現を力強く推進するために、戦略的な予算配分を実行しています。
第1層:DX Enablers
インフラとデータ活用技術の選択と集中を行う取り組みを通じて、ITシステムを構築しています。インフラ構築においては、以下の4つの重点領域を設定しています。
(1) 社内データとAIの統合
幅広いビジネスポートフォリオを有するTDKでは、それぞれのビジネスに特化して蓄積されてきた経験・知識からなるデータセットが存在しています。これらの多様なデータセットをAIに活用するために、「データ仮想化」によるデータ環境を構築しています。
例えば、世界各地の製造拠点で製造データを集積し、AIによる分析を実施しています。これにより、不良の真因を解析し、工場の課題解決の速度を向上させ、スクラップコストの削減を実現しています。
(2) 生成AI利用基盤の自社開発
生成AIサービス利用基盤TDK Generative AI (TDK GenAI)プラットフォームを構築し、TDKグループ内でこのサービスを提供しています。TDK GenAIは自社開発のプラットフォームであり、状況に応じたアジャイルな改善を行うのみならず、TDKのAI/DX/IT人財の強化も図っています。認証・社内SQLサーバ等でセキュリティとプライバシーが確保されており、安全な生成AIプラットフォームとして活用されています。TDK社内データと組み合わせることも可能となっており、社内のドメインデータを元にしたドメイン特化型AIの構築に活用できるようになっています。
(3) 強固な情報セキュリティと個人情報保護
情報セキュリティ基本方針に基づき、TDK Zero Trustの構築、サプライチェーンセキュリティの強化、外部公開環境評価システム等によるセキュリティ対策を実施しています。
(4) ITインフラとコンプライアンスの強化
経営システム本部がIT、デジタル、AIにおける一貫したガバナンスを強化し、全社に関わるAI/DX/IT基盤技術を提供することで、ITインフラとコンプライアンスの強化を図っています。AIに関してのポリシー構築、構築したAIポリシーの周知活動もコンプライアンス主幹部門と連携して対応しています。
これら、DXを支えるITインフラ構築に向けては、グローバルな展開および迅速・確実な対応が重要であり、そのための仕組みを構築しています。グローバルの主要な拠点のIT責任者が一堂に会するITインフラのためのミーティングを定期的(年1~2回)に開催し、AI/DX/IT戦略やプランなどを集中的に議論します。これにより、効果的にAI/DX/ITに関する重要方針を伝達し、グローバルへの展開につなげています。
また、策定された戦略やプランの実施にあたって、ITインフラを構築する担当者を招集し、TDKグループ全体で実施施策の共有と進捗確認などを行う会議も行っています。迅速・確実な対応を可能とする体制を整えるため、本会議を定期的に開催しています。
全社に関わるAI/DX/IT基盤技術は、事業部(社内カンパニー)に対して社内サービスの形で提供しています。これにより、データを共有するプラットフォームの標準化を実現し、AIを適用しやすくする(AI-Ready)とともに、ITインフラ導入コストの最小化を目指しています。
第2層:DX Agentic AI
Agentic AI (エージェンティックAI)の活用と、マニュアルのワークフロープロセスのデジタル化を通じて、工場やバックエンド管理プロセスの運用コスト削減を検討します。エージェンティックAIの本格活用に向けた独自の戦略的取り組みとしてタスクフォース型のDXイニシアティブを実行しています。専任タスクフォースを運用現場に短期間(通常は1カ月未満、最大で2カ月程度)集中派遣し、高いインパクトを持つAI駆動型ソリューションを特定・実装することを目的とする取り組みです。バックオフィス業務から工場現場までエージェンティックAIを導入することで、大幅なコスト削減とワークフロー効率の向上を図っています。また、エージェンティックAI活用に向けたアップスキリング&リスキリング、および責任あるAI、デジタル倫理の標準化にも重点を置いています。
第3層:DX Project
DX推進の強化に向けて、CDXOおよび経営システム本部が先導し、3つの全社DXプロジェクトイニシアティブを推進しています。
- DXイニシアティブ1 : 営業&マーケティング力の深化
市場分析の強化を通じ、営業・マーケティング能力の向上を図る。営業の知見をもとに、CRMデータをAIに分析させ、営業アプローチの精度向上に活用。また、新規事業創出活動と生成AIプラットフォームの組み合わせにより、スピーディーかつ具体的な事業アイデアを創出する。 - DXイニシアティブ2 : 製造の高度化
電子機器製造における運用効率の向上とプロセスの合理化を推進。専用AIが製造現場の計測データを自動収集し、設備のダウンタイムや品質データなど主要なオペレーションメトリクスを一元管理、分析し効率化に寄与する。 - DXイニシアティブ3 : サステナビリティへの取り組み強化
デジタル化によって、バリューチェーン全体の脱炭素化を推進。CO2排出トレーサビリティの自動化とデータ精度の向上を通じ、脱炭素目標の達成に貢献する。
全社DXプロジェクトイニシアティブは、業務効率化のみならず、事業戦略と一体化することで新たな価値創造にも貢献しています。例えば、Edge AI事業を展開するTDK SensEI Pte. Ltd.には、TDKの様々な事業活動より得られた知見も還元されており、新規ビジネスへのシナジーも創出しています。AIエコシステム市場を最重要成長ドライバーとして位置付け、センサ×ソフトウェア×電源・電池を組み合わせた新たなソリューション提供を加速しています。
リスク管理
DXを取り巻くリスクとして、サイバーセキュリティ/データプライバシー、サプライチェーンリスク、地政学リスク、法令・規制の変化、AIの公平性・説明可能性等を認識しています。
これらのリスクに対する対応として、経営会議直属の「情報セキュリティ委員会」の設置、Zero Trustの段階的導入、外部公開環境評価システム※1等による監視・強化を行っています。また、AIの活用に関してはHuman-in-the-loop※2を重視し、グローバル共通規程を制定しています。
- 外部公開環境評価システム:インターネット等の外部からアクセス可能な自社のIT資産を調査し、それらに存在する脆弱性を継続的に評価する取り組み
- Human-in-the-loop:AIの学習や意思決定プロセス、構築・運用等のサイクルに人間からのフィードバックを組み込むこと
AIに関するリスクへの対応
TDKは、グローバル共通のAIポリシーを設定しています。当該AIポリシー・各国での法規制・AIシステムの利用ルールを準拠することを規定するとともに、AIシステムの利用に際してはTDKグループの業務遂行以外の目的には利用しないよう定めています。
AIに関するリスクとして、「AIシステムから得られる結果が正確性・公平性を欠くリスク」、「AIシステムから得られる結果が知的財産権を侵害するリスク」、「AIの利用による情報漏えいリスク」、「AIシステムの利用によるプライバシーを侵害するリスク」、「AIの利用による公正な競争を阻害するリスク」の5つを規定し、これらのリスクが顕在化しないように利用することを定めています。
AIポリシーを社内の各拠点で運用させるために、各拠点にDXマネージャーを配置しています。
また、TDK GenAIプラットフォームなどのグローバルAI共通システム以外に新たなAIシステムを導入する場合には、DXマネージャーおよび経営システム本部による審査を実施し、不適切・不必要なAIシステムを導入しないようにガバナンスを利かせるルールを設定しています。
AIシステムを利用する中でリスクが顕在化するような事象が発生した場合には、AIシステムインシデントとして定められたプロセス・ルートで報告することを規定しています。
AIポリシーは年1回の改定・見直しを行います。加えて、チームメンバー(従業員)への周知を図るため人事部門とも連携して定期的な教育を行っており、全社的な習熟を図ります。
取り組み
DX人財のエンパワーメント
<育成・採用>
経済産業省が制定したデジタルスキル標準をベースに、全チームメンバーを対象とした独自のスキル評価基準を構築し、運用しています。全社的なデジタル評価指標として設定し、自社のデジタルスキルを可視化するとともに、研修などの育成活動とも紐付けを行っています。
全社向け階層別研修として、リーダー層に向けたマインドセット変革のための研修や、DX推進者に向けたDX基礎知識獲得のための研修、IT人財やリスキリングを目指すチームメンバーに向けたITスキル向上のための研修などを実施しています。
また、DX推進に必要不可欠な生成AI、ノーコード・ローコードツール、BIツールのハンズオン研修・伴走型研修を定期的に実施し、DX推進に必要不可欠なスキルの習得を支援しています。
また、全チームメンバーのデジタルリテラシーの向上に向け、eラーニングプラットフォームを通じてITスキルやマネジメントのデジタル教材をオンラインで学習できます。学びたいときに学べる環境を整備することで、チームメンバーのスキル向上をサポートしています。
TDKは、さまざまな部署・事業部門に、デジタル技術を活用した業務・プロセスの変革を推進しています。DXやAIのツールを活用し、部門内の業務課題改善を試みるとともに、自部門での活動や課題解決の事例を、DXコミュニティを通じて広く共有することで、他部門との情報交換やナレッジの蓄積を進めています。
採用によるDX人財の獲得も強化しており、新卒採用においてはDX/IT職専門のインターンシップを実施しています。また、職種別採用も開始し、ポテンシャルのある人財をDX/IT関連部署へ登用するための採用数を増やしています。
中途採用においても即戦力となるDX人財の採用を進め、経営システム本部の人数は着実に増加しています。
<コミュニケーション&エンカレッジメント>
TDKでは、現場・事業部門とDX推進を担う部隊が密接にコミュニケーションをとり、互いの戦略や業務の理解を深めることで、DXを加速させています。こうした部門間のコミュニケーションは、対面、オンライン、ハイブリッドの各形式で行われており、部門横断の連携を強化しています。また、社内表彰制度の設立により、社内DX活動を奨励するとともに、優れたDXの取組みを水平展開することにもつなげています。
対外的な情報発信
TDKは、投資家・アナリストなどを含めたステークホルダーの皆様への説明責任を十分に果たし、双方向コミュニケーションを通じて信頼や評価を得ることが重要であると考えています。通常の決算発表や従来の財務情報に特化した投資家説明会に加え、未財務資本に関する説明会の開催や工場見学会などのような新たなIRイベントも開催しており、投資家との年間の対話回数を増加させています。その中で社長執行役員CEOは、AIエコシステム市場に対する投資の積極化を強調しています。
TDKは対面での実践的なコミュニケーションも強化しています。AIエコシステムの発展に寄与するさまざまな新分野に対して積極的な投資を行うべく、ベンチャーキャピタル機能を有する米国子会社のTDK Venturesは、DXの最前線で活躍する世界中の産学官のリーダー達のコラボレーションとイノベーションを促進させるイベント「DX Week」を2022年より開催しています。
またCDXOは、2024年10月に米国で実施されたIEEEの基調講演を始め、さまざまな国際学会・講演会でTDKのDXに関する情報発信を行っています。こうした活動も通じて、他企業・大学等とのコラボレーションや、ビジネスリーダー・スタートアップ等との交流につなげています。
