CEOメッセージ
「融合」から「連動」へ、
TDK Transformationを深化させていきます。
代表取締役 社長執行役員CEO
齋藤 昇
「In Everything, Better」を合い言葉に自力を高め続ける
社長就任以来、私は「人が全て」との考えに基づき、「1人ひとりが創造する価値の合計が会社の価値だ」と言い続けてきました。1人ひとりのチームメンバー(従業員)が創造する価値を10万人分合計すれば、とてつもない企業価値につながるからです。TDK全メンバーの自力の総和がTDKの企業価値につながることを認識してもらうべく「自分事として、今、何をすべきか」を考えてほしい─そう呼びかけ続けた4年間でした。
地政学的リスクの高まりなど外部環境の不確実性は増すばかりですが、「自力」を高めるためにできることはいくらでもあるはずです。2026年3月期(2025年度)は、売上高および全ての段階の利益で過去最高を更新し、財務KPIの全ての項目で期初計画を達成できました。これは「TDK United」を構成する世界各地のメンバーが、それぞれの持ち場で自力を高めてくれた結果だと捉えています。
中期経営計画で掲げた3つのポイントの進捗にも手応えを感じています。1つめのポイント「キャッシュ・フロー経営の強化」においては、3年間の中期経営計画期間中で累計約1兆円の営業キャッシュ・フローを見込んでいましたが、フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の上振れにより、3年間合計で当初計画対比3,000億円ほど上振れると予想しています。
2つめとなる「事業ポートフォリオマネジメントの強化(ROIC経営の強化)」に関しては、成長戦略の推進を第一義とし、中長期で目指すROE15%以上、ROIC12%以上の達成に向け「先手」で推進してきました。これは、TDKを新たな成長ステージに持っていきたいという想いとも連動するも「In Everything, Better」を合い言葉に自力を高め続けるのです。事業ポートフォリオマネジメントは、成長けん引事業のオーガニック成長・収益性向上、重点モニタリング事業への対処、インオーガニック成長の3つの観点で推進しています。成長けん引事業としては、後述するAIエコシステム市場への貢献が挙げられます。重点モニタリング事業の対処については、今3年目に入りましたが、事業ROA(ROIC)と事業将来性がともに低い事業につき、今中期経営計画期間の終了時までに方向性を明確にし、しっかりとアクションをつけていく方針です。インオーガニック成長については、AIエコシステムやその周辺領域への投資を強化します。
3つめの「未財務資本の強化」についても、「コミュニケーションスコア」など重要KPIとして定めた各指標は着実に目標値に近づいています。ただし未財務資本の場合、技術力や人的資本、組織力など目標を定量化・数値化しにくいものが多く、思い描く姿との間にはまだギャップがあるのも事実です。思い描く姿との間とのギャップは永遠に埋まらないと思っています。これは悲観ではなく、むしろ逆です。「ベスト」という言葉を使わない理由もそこにあります。これがベストだと思った瞬間に、前進は止まってしまう。だから私は永遠のベターを目指し続けます。長期ビジョンで掲げた「TDK Transformation」も、言葉を変えればその連続に他なりません。2025年にブランドアイデンティティのタグラインを「In Everything, Better」にリニューアルしたのも、その想いと連動しています。
中長期で目指す姿の実現に向けて
My Transformationがけん引する人的資本の強化
「未財務資本の強化」で最も重要な資本は人的資本です。この部分を自分事化するため、エンゲージメントスコアの中で最も重要なコミュニケーションスコアをKPIとし、社外にも公表しています。
長期ビジョン「TDK Transformation」を策定してから、今も各拠点で伝え続けていますが、あるメンバーから「齋藤さん自身のTransformationは何ですか」と聞かれました。私自身のTransformationのテーマはコミュニケーションです。社内外のコミュニケーションをしっかりとトランスフォームし続け、この先頭に立っていきたいと言いました。
この一環として、全世界のメンバーに向けたグローバルタウンホールミーティングを始めました。TDKの財務状況や全社で注力しているトピックを伝えています。一方的な発信だけでなく、質疑応答の時間も設け、可能な限りコミュニケーションを図っています。参加した1人ひとりのメンバーが、企業価値につながる取り組みを進めてほしいという想いで行っています。
TDK Unitedを「融合」から「連動」へ
私はTDKの企業文化を表す言葉として「TDK United」を社内外に向け積極的に発信してきました。これは画一的な「統合」ではなく、多様なバックグラウンドを持つメンバーを緩やかに「融合」させ、チームワークで価値を創出する組織でありたいという想いを込めています。その想いは今も全く変わりません。ただし、これからは「融合」をより深化させ、「連動」へとTransformさせていきたいと考えています。緩やかな「融合」を保ちながらも、どことどこをもっとつなぎ合わせていけばよいか深掘りし、つなぎ合わせた方が良い機能はより緊密に「連動」させていくということです。
経営戦略の重要部分としの人財戦略を深化、「連動」させる
「未財務資本の強化」で最も重要な資本となる人的資本においては、経営戦略と人財戦略を連動させることが大事と考えています。これには、人財戦略をグループ全体の経営戦略の重要な一部として強化していくことが必要です。
これまでは正直に言えば、各部門の人財育成計画と、トップから降りてくる会社方針とのマッチングは十分ではなかったと感じています。当社全体で見ると、両者の連動感にはまだ足りない部分がありました。その反省から、2025年4月に人事部門を全社の経営戦略推進における重要部門と改めて位置づけ直し、これを統括するCHRO(Chief HumanResources Officer)に人財本部長のアンドレアス・ケラーを任命しました。これは人財戦略を経営戦略の重要な一部として明確に位置づけるための一手でした。今期は具体的な施策をより進める必要があると考えています。ソフトウェア領域の人財強化もその一つです。
人的資本への投資が財務的成果にどう連動していくかをステークホルダーの皆様にお伝えすべく、TDKとしては初めて「人的資本レポート」も発行しました。人的資本ROIの推移も示しています。全世界で地域ごとに課題は異なりますが、教育や社内でのAI活用などを効率的に推進していくことで競争力を高め、人への投資に対するリターンを上げていくことが、企業価値の原動力になります。「人が全て」と言うからには、未財務から財務への連動をしっかりと見える化することが大事だと感じています。
成長戦略のドライバーとなるAIエコシステム市場
事業ポートフォリオマネジメントの強化における成長けん引事業として、AIに関連するさまざまなアプリケーションであるAIエコシステム市場向けの事業を成長のドライバーと捉え、投資を行っています。
AIエコシステム市場における社会課題としては、AIの普及に伴う大量の電力消費が挙げられます。受動部品、センサ、HDD市場向け製品、電池といったTDKの現有事業は、どれも電力消費の削減に大きく貢献できます。
上記の現有事業に加えて、新事業となる分野も業績に貢献していきます。特に、半導体製造装置関連事業では、ロードポートやフリップチップボンダーなどの販売に加え、半導体接合材料の量産化も行う予定です。信頼性・放熱特性が高い材料を組み合わせ、電力消費の削減に寄与することで、この事業を拡大させていきます。
当社はAIエコシステム市場向けの売上高が中長期ではCAGR(年平均成長率)約25〜30%で成長すると見込んでいますが、この取り組みはほぼ想定通りに進捗しており、2026年3月期は全社売上高の1割強程度から、2027年3月期には15%程まで上昇する見込みです。
「組織間の連動」を進化させ、フェライトツリーの成長をさらに加速
長期ビジョンで未来構想力の強化を掲げましたが、この2年間だけでもTransformしていることを実感しています。もともと、機動的なグループ横断の取り組みを強化するため、当社では「価値創造チェーン」を作っていました。これは、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)機能を担うTDK Venturesがアンテナ機能となって新規事業の芽をいち早く発掘し、コーポレートR&Dと、コーポレートマーケティング&インキュベー長期の技術戦略:成長領域への投資を加速強化ション(CM&I)本部が当社の価値にどうつながるかを検討する仕組みです。TDK SensEIのようなハードウェアにソフトウェアを加えたソリューション事業を発展できたのは、このチェーンがうまく回っているおかげもあると考えています。
一方で、これがベストとは考えず、長期的な視点でエピソード2あるいは次のベターに向けて、2026年4月に組織変更を実施しました。具体的には、CM&I本部を発展的に解消し、同本部が担っていたマーケティング機能と、受動部品およびセンサ事業の営業機能を統合したセールス&マーケティング本部を新設しました。これは、最前線でお客様と接する営業の感覚と、中長期的なマーケティングの視点、その両方を併せ持ってもらうことがねらいです。
また、同本部がもう1つ担っていたインキュベーション機能は、技術・知財本部内のインキュベーションセンターに移管しました。こちらも、R&Dと事業双方の感覚を持ち、技術開発から新規事業の立ち上げまで一気通貫で進めてもらうねらいがあります。
TDKでは、技術・事業のつながりや成長の軌跡をフェライトツリーと呼ぶ木で表現しています。フェライトツリーの成長に非常に重要な役割を果たすのが「根」を構成する人的資本や顧客基盤、組織力、技術力といった未財務資本です。根が大地に広く、深く張ることで地上の木は新たな枝葉を伸ばす力が得られます。中でも技術力は人的資本に匹敵する重要な未財務資本であることから、当社は毎年売上高の10%以上を継続的にR&D投資に充ててきました。この強固な内部の技術力の基盤に加え、インキュベーション機能の強化という点では、CVCであるTDK Venturesも重要な存在です。将来的に当社のコア事業となる可能性を秘めた先端技術や、社会課題を解決する有望スタートアップとのシナジー創出を目的に設立された同社の投資総額は500億円規模に達し、投資先企業も50社を超えています。以上のように、組織間の連動を進化させ、価値創造チェーンをTransformすることで、フェライトツリーを持続的に成長させていきます。
長期の技術戦略:成長領域への投資を加速強化
独自の企業文化と組織風土が競争優位性を生み出す
TDKの最大の競争優位性は、独自の企業文化にあると私は考えています。なぜなら、それが競争優位性を生み出す核となる人的資本を育む土壌だからです。
この面での強みとしてまず強調したいのは「多様性の尊重」です。チームメンバー10万人のうち90%近くは日本以外の国籍、約75%はM&Aにより加わったメンバーです。この多様性が環境変化への対応力を生み出しています。ただし、単に多様であることが即強みにつながるわけではありません。重要なのはそれぞれの違いを尊重し、認め合い、互いの違いを学び合うことで成長していくということが、グループ全体で共有されていることです。当社のガバナンス方針である「Empowerment & Transparency(権限移譲と透明性の確保)」にも、多様なメンバーに権限を委譲しながらも、透明性はきちんと確保してほしいという考えが現れています。「機能対等」の文化も強みと言えます。役職に上下はあれど役目(機能)に上下はないという考えです。それが多様なメンバー間のつながりやコミュニケーションの活性化を促し、新たな価値を生み出すのです。
これに加え、私にはTDKの強みと感じるものがもう一つあります。誤解を恐れずに言えば、それは程よい「いい(良い)加減さ」です。車のハンドルに一定の遊びがあるように、全てをカッチリ管理し切るのではなく、ある程度の自由度を許容する風土がTDKにはあります。私はTDKを偉大なるベンチャー企業だと思っているのですが、この「良い加減さ」が、ベンチャースピリットにつながっているのかもしれません。
株主・投資家の皆様からは「そんな“遊び”は不要、収益や投資効率の最大化を追求すべき」とご批判を受けるかも知れません。しかしながら、この組織風土が自由な挑戦を可能にし、さまざまな価値を生み出してきたことも確かです。例えば、今センサ事業をけん引しているTMRセンサも、もともとはある技術者が正式な業務としてではなく個人的な興味で始めた研究でした。周囲から「何やってんだか」と半ば呆れられつつコツコツ続けた挑戦が、今やセンサ事業の大黒柱になっているわけです。
先述した「多様性の尊重」や「機能対等」が真価を発揮できるのは、自由な挑戦と失敗を許容するこの組織風土があるからであり、歴代の経営陣もその価値を認めてきたからこそ、今に受け継がれているのだと私は思います。私が「統合」ではなく「United」を志向するのもこの独自の「強み」を次代に継承するためだと信じています。
TDKが秘める限りないポテンシャルを伝えたい
あらためてTDKという会社には限りないポテンシャルがあることを、私は強く感じます。そのギャップを埋めるべく、そのポテンシャルをお客様や株主・投資家の皆様、社内も含めたステークホルダーの皆様とのコミュニケーションを深化させていくことは、追求すべきテーマと認識しています。
TDKが持つさまざまなポテンシャルのうち、これまであまり外部にアピールできていなかった未財務資本についてはより理解を深めていただきたいと思い、2025年9月には「未財務資本を通じた企業価値向上に向けて」と題し、人的資本や技術力の取り組みについての説明会を当社として初めて開催しました。今年9月にも同様の説明会を実施します。
長期ビジョンでも掲げた通り、TDK自身のTransformationを加速させ、社会のTransformationに貢献することで企業価値を高めていきます。当社には「創造によって文化、産業に貢献する」という社是、それをけん引していく「夢 勇気 信頼」という社訓があります。企業価値を向上させるには、数値だけで表せない未財務の価値を追求し、それを財務的価値に連動させていくことだと強く感じています。この考えを伝えていくには、さらなるコミュニケーションのTransformationが必要です。これからも、より一層、皆様との対話を深めていきたいと考えています。
