

【Sustainability and TDK】
最新テクノロジーで
PFAS除去と水資源の管理に挑むTDK
世界中で取り組むべき環境問題のひとつに「水リスク*1」が挙げられます。製造業のように大量の水を使用する産業にとって、水質汚染や水不足などを防ぎ、水資源を適切に管理することは、ますます重要になっています。近年では、PFAS(有機フッ素化合物)*2による水質汚染の問題も深刻化しており、飲料水や各種排水(工場用水、下水、廃棄物処理場からの排水)からPFASを除去するための技術の開発も進んでいます。この記事では、最新テクノロジーでPFAS除去に挑むTDKの取り組みと、水資源の保護にむけたさまざまな活動をご紹介します。

深刻化する水資源問題
飲み水や食事、生活用水として私たちの生活に欠かせない資源である「水」。現在、地球規模の気候変動や人口増加、産業活動の拡大などにより、世界各地で水不足や水質汚染などの「水リスク」が世界中で増加しています。国連の報告によると、世界ではいまだに約20億人が安全な飲料水の確保が困難であり、世界人口の約40%が水不足の影響を受けているとされています。
TDKをはじめとする多くの製造業にとって、生産工程で大量の水を必要とするため、効率的な水の利用と排水の管理は大きな経営課題であり、社会的な責任を果たす上で重要な課題となっています。
世界中で高まるPFAS水質汚染への懸念
近年、「PFAS(ピーファス)」と呼ばれる化学物質群が、水質汚染物質として注目を集めています。PFASは1万種以上ある有機フッ素化合物の総称で、水や油をはじき、熱に強い特性があることから、フライパンや食品包装材、消火剤など、私たちの生活で広く使用されています。PFASは化学的安定性が非常に高く、環境中で分解されにくいことから「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれています。一部のPFAS化合物は、肝臓障害、甲状腺疾患、がんなどを引き起こす疑いがあり、人体の健康や生態系への影響が懸念されています。

現在、PFASの健康への影響や環境汚染に関する調査が各国で進められており、EUではPFAS規制に向けた検討が進んでいます。規則が定まれば、PFASの製造や使用、輸入が制限されることとなります。また、PFAS問題への注目の高まりとともに、水からPFASを除去する技術の開発も加速しており、PFAS処理ソリューションの市場は今後さらなる拡大が見込まれています。
PFAS除去テクノロジーの開発に挑むSUIKIチーム(ドイツ)
2023年にTDKの社内スタートアップ インキュベーションとして立ち上げられたSUIKIは、ドイツ・ミュンヘンを拠点に、水中のPFASを除去する技術の開発に取り組んでいます。「AQUAHIVE™」と名付けられたこの製品では、TDKが開発した独自の電極材料を用いた電気化学的酸化プロセスによって、長鎖、短鎖のPFAS化合物を効果的かつ効率的に分解することができます。
SUIKIプロジェクトチームのゼネラルマネージャーであるTDK Management Services GmbH, CM&Iのドナルド・ディブラ博士は、開発における課題について次のように語ります。「私たちの実験では、埋立地から出る水や工業排水中に含まれる長鎖、短鎖のPFAS分子を99%以上分解できることを実証しました。PFASの除去の取り組みにおいて、SUIKIはTDKが持つ材料技術に関する豊富な知見を活かすことができ、競合他社に対して大きな技術的アドバンテージとなっています。私たちの技術はPFASを単に水から別の場所へ移すのではなく、分解できるため、根本的にこの問題を解決できる可能性を秘めています。また、高温焼却などの他の処理方法と比べてエネルギー消費が少ないことも、私たちのプロセスの大きな特長です」。

SUIKIチームは市場ニーズの評価も積極的に進めています。2024年末までにプロトタイプ試験を完了し、2025年にヨーロッパでのパイロット試験を実施した後、製品化を目指しています。「PFAS除去技術の世界市場は、各国の規制強化や健康リスクに対する意識の高まりとともに大きな成長が見込まれています。SUIKIチームは、この重要な使命に取り組む意義を感じ、メンバー一人ひとりが献身的な姿勢と専門知識を持ち、この大きな課題に取り組んでいます」。とディブラ博士は付け加えました。

TDKグループの水資源への取り組み

水資源問題は、地球規模で取り組むべき重要課題です。TDKは世界各地の事業所において、取水量の削減や環境保全活動に取り組んできました。気候変動などの環境問題に取り組む国際的な非営利団体であるCDPは、水セキュリティ*3分野の透明性とパフォーマンスにおけるリーダーシップを評価し、TDKを4年連続「Aリスト」に選定しています。 TDKは、SUIKIのような活動だけでなく、事業拠点における取水量の削減、水利用の効率向上、水のリサイクルに取り組むなど、「水リスク」への対応を積極的に推進しています。
水総取水量の推移(グローバル)

バタム工場(インドネシア)での植樹活動
TDKでは、世界各地で水質保全に関連する森林保護や植樹などの環境保護活動を展開しています。インドネシアのTDK Electronicsバタム工場では、毎年「Tree for Life(命の木)」をテーマに植林プログラムを実施。水の供給源である貯水池と森林生態系の活性化に協力しています。2024年には工場近くの貯水池に約1,000本のマングローブの植樹を行いました。参加者の一人は「2022年に植えたマングローブの木々を見ることができて、特にうれしく感じました」と語っています。

TDKブナの森(秋田県)での植樹活動
TDKでは2004年より、秋田県鳥海山において、自治体や地元の団体と協力して、TDKグループ従業員による植樹プログラム「TDKブナの森」を実施しています。2024年までに、延べ3,000名以上が参加し、計27,460㎡、10,200本の植樹を行いました。

TDKは、これからも地球環境の再生・保護に務めるとともに、持続可能な水利用の促進を図っていきます。未来の世代のすべての人々が安心して水を使えるような、持続可能で幸福な社会の実現に取り組んでいきます。
SUIKIのチームメンバー

用語解説
- 水リスク :水不足、水害、水質汚染など、水に関する問題が企業や社会に及ぼすリスクの総称のこと。
- PFAS:per- and polyfluoroalkyl substances(=ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)の略称。有機フッ素化合物の総称。
- 水セキュリティ : すべての人々がいつでも安全で清潔な水にアクセスでき、適切に管理された水資源が将来にわたって維持される状態のこと。