医療現場での活用が期待される、低温プラズマの可能性とは
近年、プラズマ技術の活用が拡がっています。半導体製造や殺菌・消毒、医療現場など、さまざまな分野でプラズマの特性を利用した用途開発が進められています。TDKが開発したプラズマ発生器「CeraPlas®」は、従来の製品と比べて小型かつ低消費電力で低温プラズマ*1を発生でき、プラズマ技術をより手軽に活用できるデバイスの開発につながると期待されています。
プラズマとは?その特長と用途について
「プラズマ」という言葉について、耳にしたことはあっても、詳しく知っている人は多くないのではないでしょうか。プラズマとは、固体、液体、気体のどれでもない物質の第4の状態で、気体に高エネルギーを加えた際に原子から電子が離れ、イオンと電子が混在している状態を指します。身近なところでは、雷やオーロラ、ろうそくの炎などもプラズマの一種で、宇宙を構成している物質の99.9%以上がプラズマであるといわれています。
私たちの暮らしのなかでは、蛍光灯やネオン管などに利用されるほか、工場ではアーク溶接などの金属加工にも用いられています。
低温大気圧プラズマの可能性が拡がる
プラズマ技術の進化によって、これまで真空や高温など特殊な環境下でしか生成できなかったプラズマが、低温かつ大気圧のなかでも安定して発生できるようになりました。それらは、従来の高温のプラズマに対して「低温大気圧プラズマ(低温プラズマ)」と呼ばれています。
低温プラズマは、物質に照射することでさまざまな効果を与えることができます。有機物を分解することで洗浄・殺菌をしたり、素材の親水性を高めてインクなどを均質に塗布できたり、接着面の組成を変化させることで接着強度を高めたりすることができます。
これらの性質によって、低温プラズマは半導体製造をはじめ、多くの産業機器に使用されています。また、薬品などを使わず物質の表面を洗浄・殺菌できるプラズマ技術は安全性が高く、食品や医療機器など、より幅広い分野で活用できる可能性を秘めています。
しかし、これまでの低温プラズマ発生装置には高い電圧が要求され、トランス部品や高周波発生機を別の装置で用意する必要があるため、装置のサイズが大きく、消費電力も高くなるという課題がありました。
画期的な小型プラズマ発生器を開発
TDKは、長年に渡って積み重ねてきた圧電アクチュエータ*2の量産技術や積層セラミック技術*3のノウハウを活かして、圧電トランス*4を用いた世界初のプラズマ発生器「CeraPlas」を開発しました。TDKのグループ会社でプラズマ発生装置のトップメーカーのひとつ、ドイツrelyon plasma社との共同開発によって実現した画期的な製品です。
CeraPlas®は、圧電トランスを利用した変圧機能とプラズマ発生装置を、独自の製造方法によって一体化することに成功。小型、軽量かつ低消費電力での低温プラズマ発生が可能になりました。CeraPlasは、外形70.6 × 6 × 2.75mmのコンパクトなスティック状の本体で、特殊な電源の必要がなく12Vの電源で動作するため、CeraPlasを搭載したプラズマ発生機器の小型化に貢献できます。
CeraPlasを利用した最初の製品として、relyon plasma社が開発したプラズマ発生装置がpiezobrush®です。小型・軽量で、ペンのように片手で持って手軽に操作できます。その特長についてrelyon plasmaのゼネラルマネージャーであるステファン・ネッタースハイム博士は次のように語ります。「piezobrushのような小型の携帯用プラズマ発生装置は、TDKのCeraPlasによって可能になりました。大きな駆動回路や冷却装置を必要とせず、電源部と駆動回路を非常にコンパクトなモジュールとして設計することができました」。
医療分野など幅広い分野での活用へ
手持ち操作で、細かな作業が可能なpiezobrushによって、これまで難しかった分野でのプラズマ活用が可能になります。そのひとつがインプラント(人口歯根)の加工用途です。義歯とインプラントのように、異なる素材を接着する際や義歯を着色する際に低温プラズマを利用することで、接着強度を高めたり、親水性を高めて均一に着色したりすることができます。また、インプラント表面の親水性が高まることで、生体組織との親和度を高めるという研究もあり、歯科技術が発展しているヨーロッパで特に注目を集めています。
ゼネラル・マネージャー
ステファン・ネッタースハイム博士
製造現場やプラスチックの表面改質、インプラントの表面加工など、幅広い分野で活用される低温プラズマ。その可能性について、ネッタースハイム博士は次のように語ります。「小型かつ低消費電力のプラズマ発生器CeraPlasとPiezobrushによって、プラズマをより手軽に活用できるようになりました。今後は、医療分野をはじめ幅広いアプリケーションでの応用が期待できます。低温プラズマの可能性は、ますます拡がっていくことでしょう」。
用語解説
- 低温プラズマ:電子温度とガス、イオンの温度が平衡する熱平衡プラズマ(熱プラズマ)に対して、電子温度のみが高いプラズマを非熱平衡プラズマ(低温プラズマ)という。高い電子温度による殺菌・洗浄、表面改質などの効果がある。
- 圧電アクチュエータ:力を加えると電気を発生する圧電セラミックスに、逆に電圧を加えることで機械的なエネルギーを取り出すための部品。
- 積層セラミックス技術:積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)などの製造に欠かせない技術。セラミックス原料をシート化して内部電極を印刷し、それらを多数積層し、プレス、切断して焼成する一連の生産技術。
- 圧電トランス:圧電セラミックスの特長を利用し、入力した電圧を変更して出力する装置。