【Sustainability and TDK】
医療用3D画像の可能性をひらく、
超高感度磁気センサ部品
最新のデジタル技術によって、医療機器が大きく進化しています。TDKは、微弱な「生体磁気」を測定できる超高感度の小型磁気センサ部品の開発を行っています。2024年には、磁気シールドルームのない環境下で高感度磁気センサによる心臓の活動の計測に成功しました。TDKは、革新的な電子部品の開発を通じて、最新の医療技術が生み出される社会のTransformationに貢献しています。
医療用3D画像の進化とは
直接見ることのできない体内の様子を可視化するために、これまでにさまざまな医療技術が開発されてきました。「X線検査(レントゲン検査)」をはじめ、X線とコンピュータを組み合わせて身体の断面画像を撮影できる「CT(コンピュータ断層撮影)」や、強力な磁場の中での原子の動きを利用する「MRI(磁気共鳴画像検査)」などが現在、医療の現場で広く普及しています。
また、人間の臓器、とくに心臓の活動を調べる技術についても、さまざまな手法が進化してきました。心電計(ECG)*1を使った「心電図検査」は、健康診断などでもよく行われる検査で、身体に取り付けた電極で心臓の動きを電気的な波形で表示することで、心筋の活動や心拍の乱れを検査できます。心磁計(MCG: Magneto-Cardiograph)*2は、心臓が発する微弱な「生体磁気*3」を測定して、心臓の活動を観察する技術です。生体磁気は、地磁気の1000万分の1というきわめて微弱なものであるため、正確に検出するためには超高感度の磁気センサが必要です。
生体磁気の測定に大きな前進をもたらしたのは、1970年頃に開発された「SQUID:superconducting quantum interference device(超電導量子干渉素子)*4です。超電導体を用いた磁気センサで、きわめて高感度の磁束計として応用できることから、心臓や筋肉、脳などの生体磁気の測定が可能になりました。
しかし、SQUIDは、外界からの磁気の影響を遮断するためのシールドルームや、超伝導コイルの冷却に液体ヘリウムを使用する必要があり、システムは大掛かりで高価なものとなってしまうという課題がありました。また、CTやMRIなども、病気の早期発見や治療に有効な技術ですが、どちらも大型の検査機器が必要となるため、設置される医療機関が限られます。より小型で安全に、体内の状態を可視化する技術には大きなニーズがあり、現在も世界中の医療機器メーカーがその開発に取り組んでいます。
TDKの高感度MR磁気センサの実力
生体磁気を測定するSQUIDセンサに代わる可能性を持つ技術として、TDKが開発したのが「Nivio™ xMR センサ」です。センサヘッドのサイズは、12x12x74mmで、先進のMR(磁気抵抗効果)*5技術を活かした生体磁気センサ部品です。
Nivio™ xMR センサは、TDKがHDD用ヘッドの開発を通じて培ってきた先進のスピントロニクス*6によるMR素子技術を応用した製品です。MR素子の特性を精密に制御し、構造設計を工夫することで小型化・高感度化を実現し、きわめて微小な磁界検出が可能になりました。
TDKのNivio™ xMR センサは、常温でも高感度な測定ができるために、SQUIDセンサのように大型の冷却装置が不要になることが期待されています。また、ダイナミックレンジが広いため地磁気でも飽和することがなく、シールドルームではない場所での使用も想定されています。この部品によって、医療機器メーカーなどが小型かつ低コストで生体磁気を計測できる機器の開発につながることが期待されています。
2024年、TDKは磁気シールドルームが不要な新しい心磁計を試作し、東京医科歯科大学の協力のもと、磁気シールドのない通常の検査室での心磁計測を実施しました。その結果、心磁波形を従来の心電波形とほぼ同じレベルで測定することに成功しました。東京医科歯科大学では今後、より手軽に行える心磁計測を生かして心疾患の診断を行えるようになるだけでなく、胎児の心磁図記録による出生前の心疾患の評価や、従来は困難だった心疾患の発症予測などへの応用が期待されます。
免責事項:NIVIO™ xMRセンサは、システムインテグレーター、機器製造メーカー等(以下まとめて「メーカー等」といいます。)に、自社製品の部品として採用いただくものであり、NIVIO™ xMRセンサ自体は医療機器ではありません。NIVIO™ xMRセンサは、米国FDAまたはその他の規制当局から、医療機器または医療用途向け製品としての許認可を受けておりません。採用者は、NIVIO™ xMRセンサの部品としての適正を自ら評価し、適用のある法令を遵守した上で必要な許認可等を取得する責任を負います。
心臓の活動を3次元で表示する新たな用途を提案
Nivio™ xMR センサは、複数のセンサ部品を並べて配置することで、広い面積の生体磁気を検出することができます。現在、想定している医療機器のプロトタイプでは、36本のセンサ部品を並べた面を患者の心臓付近に設置することで、心磁データを平面上に可視化することを目指して設計されています。さらに、センサ面を上部と側面の2面に配置することで、2方向から心磁データを取得し、それをMRIやCTの画像と組み合わせることで、心臓の活動を3D画像として表示できる可能性があります。
世界保健機関(WHO)が発表した世界での死因トップ10(2000~2019年)では、「心臓病」が1位に挙げられるなど、心臓は身体の中でもとくに健康を診断する重要性が高い臓器です。超小型の生体磁気センサNivioTM xMRセンサを応用することで、これまで研究所や大規模な医療機関などでしかできなかった高度な心磁図を使った診断も、より手軽に、低コストでできるようになることが期待されています。また、高感度の磁気検知性能を活かして、医療・ヘルスケアだけでなく、金属異物の検出や鉱物探査など、さまざまな分野での応用も想定されるなど、TDKの生体磁気センサ部品は、新しい産業を拓く大きな可能性を秘めています。
用語解説
- 心電計:心臓の活動電位を体の表面に取り付けた電極で記録し表示する装置。
- 心磁計:心臓の活動によって生じる微弱な磁場を高感度磁気センサで計測、表示するための装置。
- 生体磁気:心拍や脳波、筋肉の運動などの生体活動によって生じる微弱な磁場。
- SQUID:SQUID(Superconducting Quantum Interference Device)超伝導量子干渉素子の略。超電導技術を用いて微弱な生体磁気を計測する装置。
- MR:MR(magnetoresistance)磁気抵抗効果のこと。磁界の変化によって電気抵抗が代わる現象。HDDヘッドの再生素子にも応用されている。
- スピントロニクス:電子が持つ電荷とスピンというふたつの性質を利用して、さまざまな技術に応用する技術分野。