

AI社会の発展を支える電子部品の役割とは
― TDKのAIエコシステム戦略
世界中の企業が開発に取り組み、日々進化を続ける生成AIは、今や私たちの仕事や暮らしに当たり前の存在となりました。さらにAIは、単なるツールの枠を超え、社会の仕組みそのものを変える力を持つ存在へ変化しています。一方で、AIがさらに普及・活用されるには、法的、倫理的、社会的な課題に加え、いくつかの技術的な課題を乗り越える必要があります。TDKは、そうした課題に向き合い、解決につながるデバイスやシステムの開発を通じて、AIに関わる産業全体「AIエコシステム」の成長を支えています。








「AIエコシステム」とは?
TDKが定義する「AIエコシステム」とは、AIに関する幅広い製品や産業領域を指します。TDKの技術は、生成AIに不可欠なデータセンター内のAIサーバーやストレージに加え、ARグラス、スマートフォン、自動運転車など、さまざまなデバイスに活用されています。これらを含む広範な市場を、TDKでは「AIエコシステム市場」と位置づけています。

この市場は、今後大きな成長が期待されています。2025年3月期におけるTDKのAI市場向けの売上高は全体の1割強を占めていますが、中長期的には年平均成長率(CAGR)25~30%での拡大を見込んでいます。TDK代表取締役社長執行役員CEOの齋藤昇はAIの重要性について次のように述べています。「2024年に発表した長期ビジョン『TDK Transformation』の実現には、AI市場が重要です。社会のTransformationにおけるAIの役割はますます重要になっており、TDKの技術はその進化に大きく貢献ができると確信しています」。
TDKのAI市場向け売上高(26.03期予想・31.03期目標)

AI社会の実現に向けて乗り越える壁
AIが社会のあらゆる場面で活躍する「AI社会」を実現するためには、技術上の克服すべき課題がいくつかあります。そのひとつがネットワーク通信量の増加、もうひとつが、サーバーやデータセンターにおける電力消費の増大です。
現在の多くのAIシステムは、クラウド経由で膨大なデータをやり取りしながら処理を行っています。そのため、今後データ量が増大するのにともない、ネットワークの負荷や処理の遅延、エネルギー消費が増加するなどの問題が発生します。これを解決する手段のひとつが「エッジAI」です。エッジAIは、デバイスやその周辺でAI処理を行うもので、ネットワーク全体の負荷軽減や電力効率の向上につながります。TDKは、こうしたエッジAIを組み合わせたソリューションを通じて、課題解決に取り組んでいます。
さらに、AIサーバーやデータセンターの省電力化も大きなテーマです。TDKは、電力の損失を抑える高効率な受動部品や電源製品の開発を通じて電力消費量の削減に貢献しています。AIの進化とともに増大するデータ処理を支えながら、環境負荷の低減を実現することを目指しています。
AIエコシステムの最前線を支えるTDKの製品
TDKは、単なる電子部品のサプライヤーという枠を超え、AIエコシステム全体に貢献するソリューションを幅広く展開しています。以下にAIエコシステムに関連するTDKの製品をご紹介します。
For Industrial Machines
●エッジAIによる産業機器の予知保全「edge RX」
TDKのグループ会社TDK SensEIが開発した「edge RX」は、センサとエッジAI、ワイヤレスネットワーク機能を統合したモジュールとソフトウェアを組み合わせた、予知保全プラットフォームです。各種センサが産業機械の状態をリアルタイムで監視し、エッジAIがデータを処理。異常の発生を事前に検知することで、産業機械の保守コストの削減、稼働時間の最大化、作業効率向上に貢献します。

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For AR Glasses
●世界最小クラスの映像素子「フルカラーレーザーモジュール」

スマートフォンに代わる次世代AIデバイスとしても注目されるARグラス。その映像表示を担うのが、TDKが現在開発している「超小型フルカラーレーザーモジュール(FCLM)」です。レンズやミラーを使わずにレーザー光を混色することで、高精細かつ自然な映像体験が可能になります。さらに、骨伝導スピーカーや各種センサ、リチウムイオン電池、全固体電池など、グラスの小型化・軽量化を可能にする様々な部品の開発にも取り組んでいます。また、TDKは2025年6月に、AI/スマートグラス向け技術のリーディングカンパニーであるSoftEye(本社アメリカ・サンディエゴ)の買収を発表。ARグラス市場におけるリーダーシップの確立を目指していきます。
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For AI Servers
●AIサーバーの安定稼働を支える受動部品
AIの高度な処理を担うAIサーバーには、電力供給の安定性とノイズ対策が欠かせません。TDKのインダクタ(VLBUC、ERUC)やMLCC(積層セラミックコンデンサ)などの受動部品は、電圧の変換やノイズ除去を通じて、演算装置であるGPUに安定した電力を供給します。1台のAIサーバーには合計数千個のMLCCやインダクタが搭載されています。TDKは特色ある受動部品の開発に取り組み、AIサーバーの高性能化、省エネ化に貢献しています。また、AIサーバーの性能を向上させる光トランシーバーには小型で高性能なパワーインダクタ(TMS、PLE)、薄膜コンデンサ(TFCP)、ワイヤーボンディング対応の温度センサ(NTCWS)が使用されています。

Semiconductor Manufacturing Equipment
●FA技術を結集した半導体製造装置向け「ロードポート」と「フリップチップ実装システム」

AI社会の発展により、半導体製造装置の需要も高まっています。TDKは、電子部品製造で培ったFA(ファクトリーオートメーション)技術と、HDD用磁気ヘッドなどの製造で磨いたクリーン化制御の技術を活かして、半導体製造分野に向けても製造装置を開発しています。主な製品として、ウエハ格納用ポッドを自動で製造装置に出し入れする「ロードポート」や、ICチップを基板に装着するための「フリップチップ実装システム」などがあります。TDKでは、製造技術の強化とともに、独自の材料技術と組み合わせることで、他社にはないソリューションを提供し、AIエコシステム市場全体に貢献してきます。
AI時代におけるTDKの可能性

米州本社ゼネラルマネージャー
(兼)技術・知財本部副本部長
(兼)技術・知財本部 米州R&Dセンター長
Jim Tran
AIが社会を大きく変化させるテクノロジーとなる中、TDKは、センサ、映像デバイス、バッテリ、ソフトウェアなどの先端技術を融合させたプラットフォームを展開し、多様な分野で新たな価値を創出しています。
TDK執行役員 米州本社ゼネラルマネージャーのJim Tranは次のように語ります。「AIと半導体の融合により、より効率的でインテリジェントなシステム開発が可能になります。TDKは、センサやソフトウェア、バッテリなどの最先端技術を組み合わせた革新的なプラットフォームを展開し、顧客のニーズやインサイトに基づいた価値提供を進めています。これにより、自動運転やスマートホーム、ヘルスケアなど多分野で新たなイノベーションの可能性が広がるでしょう」。
今後もTDKは、電子部品やセンサといった技術の進化を通じて、AI社会の基盤を支える存在として、技術の進化と社会課題の解決の両立を目指し、AIエコシステムの中で新たな可能性を切り拓いていきます。