

ARグラスの未来を見通す、
TDKのARプラットフォーム
テクノロジーの進歩により、私たちの生活は日々変化しています。中でも、AR*1(Augmented Reality:拡張現実)は、VR*2(Virtual Reality:仮想現実)と共に、次世代の技術としてさらなる進化が期待されています。VRはゲームをはじめ、身近なIoT*3デバイスとして普及しつつあります。また、ARスマートグラス(ARグラス)も注目を集めています。ARグラスは、通常の視野にグラフィックや情報を重ねて表示し、生活を拡張する次世代の情報デバイスになると期待されています。将来的には、映像、音声、位置情報、人の動きなどの情報や、通信機能との組み合わせにより、スマートフォンに代わる可能性も秘めています。この記事では、ARグラスが私たちの生活をどのように変えるのか、その可能性とともに、TDKのテクノロジーがどのようにユーザー体験を向上させるのかご紹介します。

ARグラスの市場動向と可能性
エンターテインメント分野では、すでにVRを活用したゲームや動画コンテンツが人気を集めています。教育分野でもインタラクティブな学習ツールとしての活用が進んでいます。視界を覆う大きなスクリーンと高精細なグラフィックとエフェクトにより、仮想世界へ足を踏み入れたような体験ができます。また、世界中の人と仮想空間上で交流できるため、より深いコミュニケーションツールとして急速に拡大しています。
一方、ARグラスはより日常的に使われるデバイスとしての普及が期待されています。現在、私たちはスマートフォンを手放せない生活を送っていますが、ARグラスは自然な視界に情報を重ねて表示することで、スマートフォンの一部に取って代わる可能性があります。近い将来、ARグラスは通話やメッセージの送受信、音楽再生、ナビゲーション機能などが進化することで、私たちの生活になくてはならないデバイスになっていくかも知れません。

現在のARグラスの課題
ARグラスは大きな可能性を持っている一方で、まだいくつかの技術的な課題も抱えています。まず、デバイスの大きさと重量の問題があります。現行のARグラスは、モニタやスピーカーなどのデバイスが大きく重いため、長時間の使用には不向きであり、軽量化と小型化が求められています。また、VRゲーム機のような表示コンテンツを操作する方法が確立していません。コントローラの提案が不可欠です。ディスプレイの画質にも改善の余地があり、解像度や鮮明度が不十分です。また、コスト面でも一般消費者には手が届きにくいという課題もあります。
これらの技術的な課題が解決することで、ARグラスはより軽量で高性能、かつコストパフォーマンスに優れたデバイスへと進化し、スマートフォンのように、私たちの生活に不可欠な情報デバイスとなることでしょう。
ARグラスを進化させるTDKのテクノロジー
●超小型フルカラーレーザーモジュール(FCLM)
TDKではARグラスの進化に不可欠な技術を多数開発しています。そのひとつが「超小型フルカラーレーザーモジュール」です。「平面導波路技術」により、レンズやミラーを使わずレーザー光を混色して、網膜に直接映像を投影します。乱れのない光を届けることで、ユーザーはまるで現実の一部のように映像を認識することができ、従来のディスプレイとは一線を画す映像体験が可能になります。

●骨伝導オーディオ

ARグラスを用いた拡張現実は、映像だけでなく、音声も拡張します。TDKはピエゾスピーカPiezo Listen™を用いたARグラス用骨伝導オーディオシステムの開発に取り組んでいます。これにより、耳をふさぐことなく、周囲の音を聞きながら音声情報を得ることができます。現在、TDKのピエゾ技術を活かした小型のユニットにより、ARグラスのテンプル(つる)に内蔵できるほど薄型のデザインの骨伝導スピーカーを実現。自然な使い心地を追求しています。

●モーションセンサ
SF映画では、空中に浮かぶ画面を手で操作するシーンが登場します。ARの世界ではHMI(ヒューマンマシンインターフェース)が極めて重要になります。そんな操作を可能にするのが、手や頭の動きを検知するモーションセンサです。
TDKはモーションセンサの開発にも力を入れています。高精度なIMU*4(加速度センサ、ジャイロセンサ)を搭載したARグラスは、顔の動きや傾きを正確に検知し、ユーザーの頭の動きや動作に合わせたインタラクティブな操作が可能となります。また、ピエゾ素子を利用したタッチセンサは、ボタン操作とは異なる直感的なタッチ操作が可能になり、より自由度の高い製品デザインとユーザーインターフェースを実現します。
その他、MEMSマイクロフォン、ToFセンサや触覚センサなどTDKのセンサ/アクチュエータを活用したウェアラブルデバイス型のコントローラの提案を行ってまいります。

ARグラスが新しいユーザー体験を可能にする
このようなTDKの技術を組み合わせることで、ARグラスは従来のデバイスとは一線を画す新しい価値を提供します。スマートフォンの代替として多くの情報を表示し、手を使わずに操作できるため、身体的な自由度が向上します。IoTをベースにしたAR/VRによる「人間拡張」によって、これまで人間が肉体によって受けていた制約は取り除かれ、人間の可能性はさらに飛躍することが期待されます。
ARグラスが可能にする生活のイメージ

また、ARグラスは視覚や聴覚に障がいがある方々のサポートにも役立ちます。文字の読み上げや音声による通知機能を提供することで、情報へのアクセスを改善し、より自立した生活を支援します。さらに、遠隔地にいるロボット操作や医療機器の操作などを、ARグラスを通じてリアルタイムで状況を把握しながら操作することが可能です。これにより、効率的で安全な作業ができます。


応用製品開発センター
小野松 丈洋
ARグラスプラットフォームの展開を統括するTDK株式会社 技術・知財本部 応用製品開発センターの小野松丈洋はARグラスの可能性について次のように話します。
「TDKは様々な電子デバイスを提供しています。すでに、自動車市場やスマートフォン市場において重要な役割を果たしており、これら競争の厳しい市場において、TDKはお客様のご要望に答えるための重要なパートナーです。今後成長が期待されるAR/VR市場では、お客様のどのような期待に応えればよいのか、具体的な市場の要望さえ明確ではありません。このような状況下で、AR/VRがどのように進化するべきかを考察し、お客様にTDKのデバイスを活用したソリューションを提案することが重要だと考えます。TDKは、未来に向かって挑戦するお客様に寄り添い、共に歩むパートナーとして、お客様の夢をTDKのデバイスを活用して、現実の形としてお届けできればと考えています」。

TDKの超小型レーザーモジュール、骨伝導オーディオ、モーションセンサなどのテクノロジーは、ARグラスに新しいユーザー体験と価値をもたらし、多くの分野での活用が期待されています。ARグラスを通じて、必要な情報をいつでも入手したり、より多くの人と交流したり、快適で豊かな生活に欠かせないものになっていくでしょう。
TDKが提案するARグラスプラットフォーム

用語解説
- AR:Augmented Realityの略。拡張現実。現実の風景の上にデジタル情報を重ねて表示する技術。
- VR:Virtual Realityの略。仮想現実。コンピュータ技術を用いて、仮想の世界を作り出す技術。
- IoT:Internet of Thingの略。モノのインターネット。様々なモノをインターネットで関連付ける技術。
- IMU:Inertial Measurement Unitの略。慣性計測装置。加速度や角速度を測定するセンサ。