

メタバースの世界を楽しむVRデバイスと
超小型センサの秘密に迫る
オンライン上の仮想空間で、自分の分身(アバター)を通じてさまざまな体験ができる「メタバース(metaverse)*1」。ゲームやSNSだけでなく、ショッピングやエンターテインメントなどの各種サービスを取り込もうとしています。3D CGで描かれた空間を、もうひとつの世界のように感じることができる秘密は、ディスプレイやコントローラなどのVRデバイスの進化にあります。この記事では、VRデバイスの小型化、高性能化を支えるTDKのセンサ技術に迫ります。

大きな注目を集める「メタバース」とは
メタバースとは、インターネット上に広がる3D CGで描かれた仮想空間のこと。ユーザーは無限に広がる空間のなかで、自分のアバターを通じてゲームや音楽などのエンターテインメントを楽しんだり、世界中のユーザーと交流したり、ショッピングしたり、さまざまなサービスを利用することができます。
メタバースは、かつてのインターネット革命に匹敵する大きな可能性を秘めていると言われており、SNSやエンターテインメント、小売、教育など、あらゆる産業を巻き込んで発展することが予想されています。メタバースの世界市場は2030年に6,788億ドル(78兆8,705億円)まで拡大するとの試算もあります。

世界のメタバース市場規模(売上高)の推移及び予測

メタバースの世界を楽しむためのVRデバイスとは
メタバースが爆発的に広がる背景には、3DCGを描画できる高性能PCやスマートフォンの進化や、メタバース内での取引に利用される仮想通貨やNFT(非代替性トークン)*2の普及などに加え、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)やコントローラなどのVRデバイスの進化が挙げられます。ユーザーはヘッドマウントディスプレイを装着することで、高精細で描かれた3D CGの仮想空間に没入することができます。
ヘッドマウントディスプレイには、片目ずつ別の映像を映し出すディスプレイが搭載され、それぞれに視差のある映像を表示することで、3D CGの空間を立体的に見ることができます。さらに頭の角度や向き、動きに合わせて映像の表示を変化させることで、仮想空間の中にいるような感覚を得ることができます。よりリアルな体験を実現するためには、頭部のかすかな動きを正確に検知するセンサ部品の性能が重要となります。
VRゴーグルの仕組み

VRデバイスに求められるセンサの性能とは
VRデバイスでは、数多くのセンサを頼りにユーザーの動きが測定され、その情報がVRプロセッサに伝えられます。中でも「モーションセンサ」が最も重要で、頭や手の移動・回転が、加速度センサとジャイロセンサによって「3DoF」と呼ばれる3つの動きの軸で検出されます(DoF=Degrees of Freedom:自由度)。
3軸のジャイロセンサは角速度を測定し、それを回転する角度に変換することができます。また、3軸の加速度センサは、直線運動の加速度と重力をX軸・Y軸・Z軸で測定し、さらに角速度データと組み合わせることで、3次元の姿勢を地理座標系で推定することができます。
6軸IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測ユニット)は、3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサを1つのチップに組み合わせたもので、HMDでは頭の向きや動き、コントローラでは手の動きの検出に用いられます。VRデバイスの性能やユーザーエクスペリエンスは、搭載されているモーションセンサの精度や応答性と密接な関わりがあるのです。

TDKのモーションセンサの実力

Product Marketing Director
InvenSense
TDKのモーションセンサICM-456xyは3軸のジャイロセンサと3軸の加速度センサを組み合わせた、超高性能の6軸MEMSセンサです。サイズは、2.5×3×0.81 mmと、指先に乗るほど小さなパッケージで、VRデバイス、ウェアラブルデバイスなどさまざまな機器への搭載が可能です。製品を開発した、TDKのグループ会社であるInvenSenseの製品マーケティングディレクターSong LiはVRデバイスに求められるセンサについて次のように語ります。「メタバースのさらなる普及のためには、ハードウェアによる制限が大きな課題となっています。メタバースを楽しむには、AR/VR用のHMDとコントローラが必要ですが、現在のデバイスではまだまだ大きく、バッテリも長く持ちません。そのため、より軽量で、高性能、長時間使用できるセンサが必要となります」。
ICM-456xyは、TDKのMEMSモーションセンサであるSmartMotion®ファミリーの最新製品で、IMUとしては世界で初めてとなるBalancedGyro™テクノロジーを採用しました。優れた振動除去性能と温度安定性により、高精度での安定した動作を実現しています。また、業界で最も低い消費電力を実現し、チップ上でのマシンラーニングやセンサフュージョンを可能にした画期的なモーションセンサです。
「InvenSenseは、MEMS(微小電気機械システム)によるモーションセンサのリーダーとして、長年高精度のセンサの開発に取り組んでおり、高精度、低ノイズで最新の省電力技術を駆使した設計が可能になりました。ICM-456xyは、次世代のVRデバイスの進化に貢献できると考えています」(Li)
現実空間と仮想空間をつなぐためのキーとなるVRデバイス。その中に搭載された小さなモーションセンサが、デバイスのさらなる高性能化と小型化を支えています。TDKのテクノロジーがメタバースの体験をもっと身近に、もっとリアルなものにしていきます。
MEMSモーションセンサ「ICM-456xy」

TDKのMEMSモーションセンサSmartMotion®シリーズの小型6軸センサ「ICM-456xy」の詳しい情報はInvenSenseのウェブサイトをご覧ください。
用語解説
- メタバース: meta(超)とuniverse(宇宙)を組み合わせたもので、コンピュータ内に構築された3次元の仮想空間やそのサービスを指す。
- NFT:Non-Fungible Token(非代替性トークン)。仮想通貨にようにブロックチェーン上で発行、取引され、偽造が不可能なトークン(所有証明書)付きのデジタルデータ。