「フィジカルAI」で人の知覚を拡張。スマートグラスを頼れるパートナーに
AIを搭載したスマートグラスが、世界との関わり方を大きく変えようとしています。TDKは2026年、AIを搭載したスマートグラスを通じて現実世界での新しいユーザー体験を提供することを目指し、「TDK AIsight(アイサイト)」を立ち上げました。近年、PCやスマートフォンにおける生成AIは、すでに私たちの日常生活に大きな変化をもたらしています。TDKはインテリジェントなスマートグラスを通じて、その関係を次の段階へ引き上げようとしています。AIが私たちと同じように現実世界を理解し、直感的なパートナーとして寄り添う。TDK AIsightが目指すのは、これまでのコンピューティングの枠を超えて、より自然な形で世界と関わることです。
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スマートグラスの可能性と普及に向けた課題
カメラ、ディスプレイ、スピーカーをフレームに組み込んだスマートグラスは、新しい情報デバイスのひとつとして注目を集めています。その最大の特長は、スマートフォンやPCのようにディスプレイに視線を落とさなくても、ハンズフリーかつ自分の視点から情報にアクセスできる点にあります。
この新世代スマートアイウェアは、図書館で手に取った本の内容を音声で要約したり、夕食に合うワインを選んだり、製造現場でマニュアルを表示して作業を支援したり、仕事終わりに自宅までナビゲートしたりと、さまざまな活用が想定できます。AIのサポートを通じて実際の世界と関わることで、コンシューマーから産業分野まで、幅広い領域で私たちの生活に影響を与えると期待されています。
しかし、スマートグラスの本格的な普及までには、いくつかの課題が残されています。デザイン、サイズや重量、バッテリ持続時間などハードウェアの課題に加えて、全く新しいデバイスのための自然なUX(ユーザーエクスペリエンス)の設計も必要です。スマートフォンのように日常に欠かせない存在になるには、身につけて美しく、かつ機能的であるデバイスへのさらなる進化が求められます。
直感的で、意識せずに使える「AIグラス」へ
こうした限界を突破し、スマートグラスを真にインテリジェントな存在へと進化させるために、TDKは新たな事業部門として「TDK AIsight(アイサイト)」を設立しました。TDK AIsightは、TDKが培ってきた幅広い技術基盤に革新的な技術を融合し、スマートグラス向けのカスタムチップ、カメラ、AIアルゴリズムを開発。あらゆるニーズに対して、ユーザーが毎回AIを呼び出さなくても、自然に世界と対話できる統合システムソリューションの提供を目指します。
AIsightの名称はAI(人工知能)とeyesight(視覚)を組み合わせた造語に由来します。TDK AIsightの大きな特長となる技術が「アイインテント技術」です。この技術により、ユーザーが何を見ているのか、何に関心を持っているのか、次に何を知りたいか、また、何をしたいのかといった「意図(インテント)」までAIが理解します。単に視線の動きを追跡する従来の「アイトラッキング」とは一線を画すアプローチです。
TDKが持つセンサやマイク、ディスプレイ、バッテリなどのハードウェアと、超低消費電力で常時動作する独自のAIアルゴリズムを統合することで、一日中使えるスマートグラスを実現します。必要な情報を、必要なタイミングで届ける、直感的で使いやすいAIグラスを実現し、AIはユーザーの世界に自然と溶け込む存在となります。
AIグラスを可能にするTDKのテクノロジー
現実世界と生成AIを融合させる「フィジカルAI」とは
テ・ウォン・リー
TDK AIsightが提案する重要なコンセプトが「フィジカルAI*」です。これは、ユーザーの目の前で起きている現実世界の情報をAIがリアルタイムに分析し、行動に必要な情報を提供する仕組みです。AIが起動した時だけ情報を提供していた従来のデバイスと異なり、TDK AIsightが実現するスマートグラスは内蔵カメラやマイクで周囲の状況を常に理解し、目の前のニーズに安心して対応できるように、ユーザーの行動を能動的にアシストします。
この体験を支える心臓部としてTDK AIsightが開発したのが、DSP(デジタル信号処理プロセッサ)「SED0112」です。AIグラス用に開発されたSED0112は、マイクロコントローラ、ステートマシン、そしてハードウェアによるCNN(畳み込みニューラルネットワーク)エンジンを統合したプラットフォームで、超低消費電力での信号処理を実現します。
TDK AIsightのCEOであるテ・ウォン・リーは次のように述べています。「TDK AIsightは、AIグラスのユーザーと生成AIをつなぐために、多くの主要技術を統合するシステムソリューションカンパニーを目指します。私たちは、文脈(コンテキスト)認識型コンピューティング、記録と想起(リコール)、視覚解析、シーン認識をシームレスに融合させて、魅力的なユーザー体験のために、これらの技術を容易に導入できる統合ソリューションを提供していきます」。
AIグラスがつくる、つながりの未来
TDK AIsightは、視覚を通じてユーザーの意図を理解する「アイインテント技術」を活用し、スマートグラスの意味そのものを再定義します。超低消費電力のハードウェアと「フィジカルAI」を融合させることで、日常生活に自然に溶け込むパートナーとして、シームレスでハンズフリーな体験を実現します。この統合的なアプローチは、従来のスマートフォンやPCの限界を超え、文脈を認識するコンピューティングやシーン解析を可能にします。今後、バッテリの寿命やデザインなどの課題が解決されるとともに、スマートグラスはスマートフォンのように、あらゆる人々にとって不可欠な存在となっていくでしょう。TDK AIsightが描く未来は、AI搭載アイウェアが「アクション・パートナー」として、直感的に人間の知覚を拡張し、私たちが現実世界と関わる方法を根本から変革する世界です。
AIグラスの活用イメージ(動画)
用語集
- フィジカルAI(Physical AI):様々なセンサが収集したデータを直接処理することで、機器やシステムが物理世界を感知・理解・相互作用できるようにする人工知能の領域。
