車載カメラのネットワークを支えるPoCフィルタの進化
現在、自動車に関するテクノロジーの中でも特に注目を集めているのが、ADAS(先進運転支援システム)です。人の目に代わり、カメラやセンサを使って車両周囲の状況をセンシングするADASの進化に伴い、車載カメラや高性能レーダーを搭載した自動車の普及が進んでいます。ADASや自動運転は、高速で走行する車両の状況をセンシングし、リアルタイムでデータを処理する必要があるため、「車載ネットワーク」の性能も、車の性能を左右する重要なポイントなのです。
「PoC方式」の車載ネットワークとは?
カメラやセンサなどの電子機器が多数搭載された自動車には、データのやりとりを行うための車載ネットワークが張り巡らされており、自動運転やADAS、インフォテインメントシステムなどの機能を支えています。カメラやレーダーが取得したデータの通信には、データと電源を一本の同軸ケーブル(Coaxial cable)で伝送するPoC(Power over coax)方式が多く使われています。データと電力を分けて伝送するよりも必要なケーブルの量が少なく済むため、車体重量の軽量化や配線をシンプルにできるなどの利点があります。
PoC通信におけるインダクタ部品の役割
PoC方式を用いた通信システムでは、重畳された通信信号と電力を信号処理の手前で分離させる「PoCフィルタ」が必要になります。このPoCフィルタは1個または複数のインダクタ*1の組み合わせで構成されており、PoCフィルタが広い周波数帯域で高いインピーダンス*2を確保することで信号と電力を適切に分離します。
高性能化するカメラやレーダーによって常に膨大な情報を高速に処理するADASおよび自動運転では、情報が正確に伝送できない場合、重大な事故につながるリスクがあります。通信品質を安定させ、正確にデータを伝送するために、適切なPoCフィルタを選定することが非常に重要です。
独自のインダクタ技術が可能にしたTDKのPoCフィルタ
TDKでは、PoCフィルタに最適化したインダクタの開発を行ってきました。例えばPoC用インダクタのADLシリーズは、広い周波数帯域で高いインピーダンス特性を維持できるため、PoCフィルタを構成するインダクタの数を少なくすることができます。
また、部品の実装面積も小さいため、小型化が進むカメラモジュールにも対応します。さらに製品温度として最大155℃で使用可能な製品を取り揃えており、高温環境下においても高い電流を流して使用できるソリューションもご提案可能です。
(写真:車載PoC用インダクタ:ADL3225VMシリーズ)
マグネティクスBG
CTO 北島 伸夫
TDKのPoC用インダクタの技術とその価値について、TDK株式会社マグネティクスBGのCTO北島伸夫は次のように話します。「自動車の自動運転技術の高度化に伴い、車載カメラなどのセンシング技術の重要性が高まっています。PoC技術は、センサに電力を供給し、センサからECUにデータを劣化なく伝送する機能の一部として、センシング技術において非常に重要な役割を担っています。この技術に使用されるインダクタには、電力を扱うパワーインダクタとしての側面と、ノイズを抑制するフィルタ機能の両面を兼ね備えた高い性能が求められます。そして、その性能を正しく測定し、正しく発揮できる部品配置や配線などのソリューションをユーザー様に提案できる総合的な技術サービスの提供も重要と考えています」。
「TDKでは、巻線方式、積層方式、薄膜方式など、さまざまなインダクタを開発・製品化してきました。また、PoCフィルタの特性やパッケージングを評価する専門チームも有しています。今後ますます高性能化すると見込まれるセンシング技術に対応する受動部品において、総合的な技術とサービスをお客様に提供できると確信しています」。
TDKは、長年に渡るインダクタの開発を通じて、様々な特性を持った製品のラインアップを揃え、通信の高速化や大電流用途、高温環境などの様々な要求に対応したPoC用インダクタを提供しています。車載カメラ、レーダー、センサの進化とともに、自動運転技術がますます高度になっていく現在、TDKは車載ネットワークを構成する電子部品の提供を通じて、モビリティの新たな可能性を支えていきます。
記事でご紹介した車載用PoCフィルタのプロモーションビデオをご覧いただけます。
用語解説
- インダクタ:交流信号に対して高いインピーダンスを持ち、直流電流に対しては低い抵抗を持つ特性がある。電力と信号を同時に伝送する際に、信号を分離するために使用される。
- インピーダンス:交流回路において電流の流れを妨げる総合的な抵抗のこと。抵抗(R)とリアクタンス(X)を含む。