

車載ネットワークの進化に欠かせない、ノイズフィルタの役割とは?
ADASや自動運転技術などの急速な進化に伴い、自動車には、カメラ、レーダー、LiDARなどさまざまなセンサが搭載されるようになりました。車内でデータ通信するための車載ネットワークは、より高速な車載Ethernet規格へ進化しています。また、通信の高速化に伴い、車載ネットワークにおけるノイズ対策の重要性も増しています。最新の車載ネットワーク規格に最適なノイズフィルタについてご紹介します。

車載ネットワークの進化
現在、自動車には運転支援のためのカメラやセンサ、レーダーなど数多くの電子機器が搭載されています。それらのデータを通信し、車内の各ECU(電子制御ユニット)を結んでいるのが、車載ネットワークです。その性能は車両の安全性に直結することから、車内の重要なインフラとなっています。車載ネットワークは、これまで一般的であったCAN-BUS(Controller Area Network Bus)*1から、より高速通信が可能な車載Ethernet*2規格へと移行しつつあります。車載Ethernetは通信速度の向上だけでなく、リアルタイム性の向上やセキュリティの強化にも貢献しています。

車載ネットワークとノイズ対策の重要性
車載ネットワークにおけるデータ通信が高速・大容量へと進化する一方で、無視できない問題が「ノイズ」です。ノイズとはデータ通信に干渉する不要な信号のことで、通信データのエラーを引き起こし、センサの誤検知や通信の遅延、さまざまな電子機器の誤動作の原因となります。特に電子機器が多く搭載されている現在の自動車においては、ノイズによる誤動作が安全性に大きな影響を与える可能性があり、ノイズ対策の重要性がさらに高まっています。
電子機器が発する電磁波について、周囲の機器に影響を与えず、また他からの電磁波の影響を受けずに動作する性能のことをEMC(電磁両立性)*3といいます。EMC対策の電子部品として代表的なものが、「ノイズフィルタ」です。ノイズフィルタはその名の通り、ネットワークから不要な信号(ノイズ)を除去し、データ通信の品質を保つ役割を果たします。ノイズフィルタは、ノイズを「吸収」または「遮断」することで、データ通信が正確に行われるようにします。ノイズフィルタの働きによって通信エラーの発生を抑え、高度な機能を持つ自動車のパフォーマンスを最大限引き出すことができます。
CAN-BUS、車載Ethernetなどのネットワーク規格は、外部からのノイズに強い「差動伝送方式」を採用しています。内部の回路から生じるコモンモードノイズは、通信ラインの両方向に等しく影響を及ぼします。コモンモードフィルタは、通信ラインのノイズのうちコモンモードノイズを除去するための部品です。コモンモードフィルタは、コモンモードノイズを高効率で除去し、高品質の通信を維持します。コモンモードノイズについては以下のリンク先をご参照ください。
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車載ネットワークに最適なノイズフィルタを選ぶことが重要
ノイズフィルタは、通信規格や周波数帯、データレートに適した製品が必要です。車載EthernetやCAN-BUSにおいて、ノイズ抑制に求められるフィルタ特性が異なります。コモンモードフィルタを選択する場合も、除去すべきコモンモードノイズの周波数によって、選ぶべきフィルタのタイプが異なります。また、ノイズフィルタをはじめとする電子部品の不具合は自動車の安全性に大きな影響を与えることから、ノイズフィルタの寿命や耐久性、信頼性も大きな要素となります。
TDKのコモンモードフィルタは、独自の設計技術と巻線技術による高い性能が評価され、車載用コモンモードフィルタとして高い市場シェアを誇ります。また、他社に先駆けて、「10BASE-T1S」に適した製品の開発にも成功しました。TDK株式会社マグネティクスビジネスグループの鈴木寛は、TDKの車載用コモンモードフィルタの特長について次のように話します。

EMC製品BU
BU長 鈴木 寛
「近年の自動運転レベルの向上、EV車の普及は、車におけるノイズ対策の必要性をますます高め、車の設計において、EMC技術は不可欠なものとなっています。車載用コモンモードフィルタACTシリーズが使用される車載ネットワークにおいては、高速・大容量通信を実現するため、従来から使用されてきたCAN-BUSに加え、車載Ethernet等の高速車載LANの普及が急速に進んでおり、フィルタには高いノイズ抑制効果に加え、通信する信号に影響を与えない良好なバランス特性が求められています。また車の電動化、多機能化に伴い、電源ラインにおけるコモンモードフィルタの使用も増加しており、TDKでは幅広いラインアップを揃え、対応を進めています。今後ますます増加していくことが見込まれる車載ノイズ対策部品市場において、部品の設計、開発だけでなく、評価、対策の提案までを含めたトータルEMCソリューションの提案を進め、車の進化・発展に貢献していきます」。
車載ネットワークは高速化・高度化が進む一方で、これまで以上にノイズの課題に直面していると言えます。コモンモードフィルタをはじめとするノイズフィルタは、この課題を克服し、車載ネットワークのさらなる進化を支えます。さまざまな規格がある車載ネットワーク環境に適したノイズフィルタを選ぶことで、自動車のさらなる安全性向上と性能の追求が可能になります。小さなノイズフィルタの技術が、自動車業界の大きな成長を支えていくことでしょう。
TDKの車載ネットワーク向けコモンモードフィルタ

コモンモードフィルタをはじめTDKの車載用ノイズフィルタ製品についての詳しい情報は、プロダクトセンターをご覧ください。
記事でご紹介した車載ネットワーク用コモンモードフィルタのプロモーションビデオをご覧いただけます。
用語解説
- CAN-BUS:Controller Area Network-Busの略で、車載ネットワークのシリアル通信プロトコルにおいてもっとも標準的な規格として多くの自動車に採用されている。
- Ethernet:パソコンや電子機器の通信ケーブルにおいてもっとも普及している規格。車載ネットワークの通信規格としても普及が進んでいる。
- EMC:Electromagnetic Compatibilityの略で、電磁両立性と定義され、電子機器のノイズに対する性能を表す。ノイズの放出を表すエミッション(EMI)とノイズからの影響を表すイミュニティ(EMS)に分けられる。