
【Corporate Report】
TDKが選んだ、注目のベンチャー企業を探る
TDKは2019年7月、技術開発を加速して、成長戦略を強化するため、ベンチャー企業に投資を行うコーポレートベンチャーキャピタル「TDK Ventures Inc.」(以下、TDK Ventures)を設立しました。TDK Venturesは、TDKの米国子会社の100%子会社として設立し、当面の投資規模は5000万ドルです。今回は、TDK Venturesが初めて投資したベンチャー企業の紹介と、その目的についてレポートします。

自律的な自動運転をベースとする宅配ロボットを開発する「Starship Technologies」
TDK Ventures が投資した最初のベンチャー企業は、自律的な自動運転をベースとする宅配ロボットを開発した「Starship Technologies」です。Starship Technologiesの無人宅配ロボットは、オンラインショッピングなどによって配送拠点に届いた宅配物の輸送を自律的に行います。ユーザーは、スマートフォンアプリひとつで配送時間などをコントロールでき、先進的なロボットとして世界中で注目を集めています。これまでに世界100都市以上でテスト走行されており、2018年4月から英国・ロンドンで、2019年1月には米国・ジョージメイソン大学で宅配サービスが開始されました。すでに米国の9つの州と世界20ヵ国以上で数百件の試験運用が完了しています。Starship Technologiesでは、同社のロボットがこれまでに400万本の道路を横断し、6000枚以上のピザと2万6500リットルの牛乳、8000杯のコーヒー、9000本の巻き寿司、1万5000本のバナナ、3700枚のおむつを配達したと発表しています。また自動宅配ロボット市場の価値が2018年の119億ドルから拡大し、2024年までに340億ドルに達すると予想しています。
AIを搭載した自律型ロボットは、現在、店内やホテル、オフィス、工場など屋内での活動範囲を広げています。しかし、特に通行人やクルマなどに混じってロボットが移動し、活動するためには、法整備を含めて多くの課題があります。そのような中、Starship Technologiesの無人宅配ロボットの屋外走行は、将来の自動運転社会における先駆的な取り組みになるでしょう。
Starship Technologiesの無人宅配ロボットには、TDKの電子部品が活用されており、2020年1月に開催される世界最大規模の展示会「CES」のTDKブースで紹介されます。TDKはStarship Technologiesへの投資によって、自動走行技術や自動制御技術のノウハウを取り入れ、将来の自動運転社会におけるキーデバイスの開発を目指しています。

マイクロモビリティの新たなトレンドとなる電動型バイクを開発する「Wheels」
続いてTDK Ventures が投資したベンチャー企業は、米国で電動型バイクの開発・普及を進めている「Wheels Labs」です。現在、欧米では、電気自動車のシェアサービスの普及が進んでいますが、Wheelsは漕がないバイクタイプのシェアサービスを行って、ロスアンゼルスを中心に注目を集めています。電動バイクのため、シートデザインに優れ、タイヤが太く、重心が低いことから、従来の電動スクーターより快適で安全です。また、専用アプリをダウンロードして携帯電話番号を入力すれば、クレジットカード決済によって利用できるシステムです。
電動スクーターや電動バイク、シニアカー(電動カート)などの、自動車よりも小さな1~2人乗り程度の車両をマイクロモビリティと言います。現在、ICT を活用して交通情報や関連サービスをクラウド化し、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとする「MaaS(Mobility as a Service ※1)」の取り組みが世界中で進められています。マイクロモビリティのシェアサービスは、このMaaSの中で重要な役割を果たし、「ラストワンマイル」と呼ばれる目的地までの最後の移動手段に有効的だと考えられています。
TDKはWheelsへの投資によって、マイクロモビリティ業界の技術やトレンド、ノウハウを取り入れて、MaaSをはじめとする次世代モビリティ社会の実現に貢献していきます。

TDK Ventures最高経営責任者Nicolas Sauvageは、「マイクロモビリティへの最初の2件の投資は、まさに補完し合う性質を有しています。なぜなら、Starship Technologiesはおよそ3マイル以内の物の移動に関するサービスであり、Wheelsはおよそ3マイル以内の人の移動に関するサービスであるからです。このようなマイクロモビリティ業界全体における内情を把握しておけば、例えば規制が変更された場合など、市場や技術に関する新たなトレンドをいち早く、正確に特定することができるようになります。そして入手した情報を活用することにより、私たちが将来的に重要な市場になると考えている本分野においてこれらの新しく意義深い用途に深く関わるソリューションを生み出すことが可能となるのです」と語りました。
これからもTDK Venturesは、「デジタルトランスフォーメーション」と「エネルギートランスフォーメーション」という大きな市場変革の推進の一翼 を担う、注目のベンチャー企業へ引き続き投資していきます。これにより、TDKはベンチャー企業を通じて新技術の動向を早期に察知し、技術ロードマップを補強して新たな市場進出を狙います。
TDK Venturesは、素材技術とアプリケーションという二つの観点から、TDKのコア技術とシナジー効果を生み出す、有望なベンチャー企業へ投資を行います。詳細は公式HPをご覧ください。
用語解説
- MaaS(Mobility as a Service):Maasが実現すれば、例えば、バス、鉄道、航空機、ホテル手配など複数の移動サービスを、統合的に検索・予約・決済できるサービスをユーザーは受けられる。尚、国際機関における明確な定義はまだなく、国によって捉え方が異なる場合がある。