エッジAIの可能性を大きく広げる、機械学習ソリューション
IoTの進展にともない、あらゆるデバイスがインターネットに接続されるようになりました。さらに、エッジコンピューティングの進化によって、エッジデバイスでの機械学習*1が可能になり、AIの領域はクラウドからエッジにまで拡大しています。この記事では、エッジデバイスにおける機械学習を驚くほど簡単にする、画期的なソフトウェアソリューションについて紹介します。
「エッジAI」とは何か?エッジデバイスの進化について
エッジデバイスとは、エッジコンピューティングという技術において、ネットワークの末端(エッジ)で動作し、データの収集や処理、解析を行うデバイスのことを指します。スマートフォンやセキュリティカメラ、スマートスピーカーなどさまざまな種類のデバイスがあり、近年では、エッジデバイス上で機械学習を実行する「エッジAI」の発展により、これらのデバイスはさらにスマートに進化しています。
エッジAI*2は、エッジデバイス上でデータの収集、処理、解析などをAIによって行う技術です。通常のAIアルゴリズムは、大量のデータと計算能力を必要とし、クラウドサーバー上で実行されます。しかし、エッジAIではデータの処理をデバイス内部で行うため、データ送信による遅延や通信コストの削減、プライバシーを保護できるなどのメリットがあります。
エッジデバイスとエッジAIを組み合わせることで、IoT(Internet of Things)の領域はさらに拡大しています。自動運転車や工場の自動化、医療機器の管理など、リアルタイムでのデータの処理や判断が必要な場面などで、エッジデバイスが活躍しています。
IoTの可能性を広げる「TinyML」とは?
エッジAIは通常、スマートフォンやタブレットなどの処理能力の高いデバイスで実行されます。しかし、IoTの進化とともに、処理能力がそれほど高くない小型のデバイス上でも機械学習を実行できる技術である「TinyML*3(Tiny Machine Learning)」に注目が集まっています。
一般的に機械学習は、高性能なコンピュータやクラウドサーバーで行われ、大量のメモリと高速なプロセッサ、それに伴う大きな消費電力を必要とされます。これによって、大量のデータを用いた大規模な機械学習モデルの実行が可能となり、高精度の画像認識や自然言語処理などを行うことができます。高度な処理が可能になる一方で、プロジェクトの定義、モデルの検証、モデルの変換など、すべての工程において機械学習に精通したエンジニアと組み込みエンジニアが必要となります。
TinyMLは、処理能力の低いマイクロコントローラー(MCUs)でもエッジAIを実現できる、小型デバイス向けの機械学習技術です。これにより、低消費電力で、より小型のIoTデバイスが実現できると期待されています。センサと必要最低限の演算処理能力さえあれば、どんなデバイスにもAIを搭載し、知性を与えることが可能になるのです。
エッジAIでの機械学習を容易にするQeexoのソリューション
2023年にTDKグループに加わったQeexo(キークソ)は、アメリカ・シリコンバレーに拠点を置くベンチャー企業で、エッジデバイス向け、とくにTinyMLのための機械学習のソリューションを提供しています。Qeexoが開発した「AutoML」は、機械学習に必要な工程をエンジニアでなくとも、直感的な操作によって実現できるノーコード(プログラミング言語を必要としない手法)のプラットフォームです。ユーザーはWebインターフェースを通じて、データの収集、整理、学習処理、機械学習の構築に必要な一連の作業を簡単に行うことができます。
TDKでは、工場などで機械・設備の異常を未然に防ぐ「予知保全」を実現するため、エッジAIを搭載した超小型センサモジュール「i3 Micro Module」の開発を進めています。振動センサ、温度センサ、気圧センサなどの各種センサとエッジAI、メッシュネットワーク機能をコンパクトなサイズに一体化したこのデバイスは、人手に頼らず機械や設備の状態を確認できるため、ダウンタイムを最小限に抑え、生産性の向上に役立ちます。
(写真:超小型センサモジュール「i3 Micro Module」)
Director, Product Management
Qeexo
QeexoのプロダクトマネージメントディレクターであるMichael A. Gambleは、Qeexo AutoMLの意義について次のように語ります。「これまで組み込み機器向けの機械学習は、高度に専門的な技術が必要となる長く複雑なプロセスでした。Qeexo AutoMLは、エンドツーエンドで合理化されたWebインターフェースを通じて、エンジニアでない人も含め、ほぼ誰でも同じことが実現できます。デザインツールやオーディオ・ワークステーションソフトが、クリエイティブな才能を持つすべての人に、グラフィックデザインや音楽制作を開放したのと同じように、AutoMLを使えば、誰でも機械学習を実践できるようになります。Qeexo AutoMLは、いわば『機械学習の民主化』をもたらすものだと考えています」。
エッジデバイスの進化により、高度な機械学習能力を持つIoTデバイスやマイクロコントローラが次々と開発されています。そして、Qeexoの「AutoML」のようなツールの発展により、エッジデバイス上で動作する複雑な機械学習モデルを短時間で開発することが可能になりました。
エッジデバイスに搭載されたセンサが収集したデータをエッジAIで処理することで、さまざまなソリューションの可能性が開きます。「Qeexoの機械学習ソリューションと、TDKのセンサデバイスを組み合わせて、ひとつのトータルソリューションとしてお客様に提供できるようになります。お互いの強みを活かすことで、スマートエッジソリューションの開発・提供において、シナジー効果をもったパートナーシップが実現することが期待できます」。(Gamble)
エッジデバイスはただデータを収集・送信するだけでなく、自己学習するスマートなシステムへと進化しています。スマートファクトリーと呼ばれる先進の生産現場では、機械や設備の一つひとつにエッジデバイスが搭載されると考えられます。また、モビリティ、スマートフォンなどのコンシューマー製品においてもエッジデバイスの普及は進み、AutoMLなどのツールを通じてTinyMLやエッジAIがますます身近で当たり前のものになることで、今後、私たちの生活やビジネス、産業全体に大きなインパクトを与えていくことでしょう。
Qeexo 「AutoML」についての詳しい情報はテックライブラリーをご覧ください。
用語解説
- 機械学習:特定のアルゴリズムと統計モデルを用いてコンピュータが自動的にデータから学習する技術のこと。大量のデータからパターンを抽出して、その結果をもとに予測や決定を行うことが可能となる。
- エッジAI:ネットワーク上の末端(エッジ)で動作するエッジデバイス上で、AIアルゴリズムを実行し、データの収集、処理、解析を行う技術。
- TinyML:処理能力の低い組み込み機器やマイクロコントローラを搭載した小型デバイスでもデータ処理を行える機械学習技術。