

自動車×スマートフォンの融合を支える、
薄型ワイヤレス充電の進化
現在、自動車はCASE(コネクテッド、自動運転、シェア&サービス、電動化)と言われる技術革新が進んでいます。この流れの中で不可欠と言われているのが、スマートフォンとの連携です。そこで注目を集めているのが、車内で簡単に充電できるワイヤレス充電技術。従来品より大幅な薄型化を実現し、次世代ワイヤレス充電規格にも対応する最大15W給電が、自動車におけるスマートフォン利用をさらに便利にします。

自動車のスマホ活用に不可欠な、ワイヤレス充電の技術課題
自動車とスマートフォンの連携が進んでいます。北米や欧州では、スマホの画面をそのまま表示できる「ミラーリング機能」を活用したディスプレイオーディオを搭載する自動車の普及が進んでおり、カーナビアプリや地図情報などが利用されています。
さらに近年、物理的なキーなどを使わずに、近距離無線通信(NFC*1)などを使うことで、スマホだけで自動車のドアの開錠・施錠、エンジンの始動が可能になるシステムを搭載した車が登場して注目を集めています。こうしたスマホと自動車の連携サービスは「バーチャルキー」と呼ばれ、物理的なキーがいらなくなるため、カーシェアリングサービスがさらに進むと予測されています。矢野経済研究所の調査では、2022年には全世界でバーチャルキーを搭載した自動車の市場規模は5030万台に拡大する予測です(矢野経済研究所「バーチャルキー世界市場に関する調査(2019年7月17日現在)」)。
またバーチャルキーは、運転手の識別をスマホによって行うため、各種情報の収集が容易になり、車載インフォテインメントと呼ばれる、情報(インフォメーション)と娯楽(エンターテインメント)の両方を提供する情報通信システムにも活用できると考えられています。これによって、通話やメッセージの送受信、音楽再生、カーナビゲーション機能などが、より便利に、より楽しい車内空間になっていくと言われています。
自動車のスマートフォンの融合シーン

このように自動車とスマホの連携が進む中、注目を集めているのが、車内におけるスマホの充電機能の進化です。特に、従来のようにケーブルを使用して充電する方法ではなく、車内で手軽に“置くだけで”充電できるワイヤレス充電を搭載した自動車に注目が集まっています。しかし、従来のワイヤレス充電システムは給電を行うチャージャーユニットが大きすぎて、車内で設置する場所やスペースが限られていました。そのため、ユニットの大幅な薄型化が求められています。さらにバーチャルキーを活用するために、ワイヤレス充電機能にも近距離無線通信(NFC)の搭載が必要とされています。
従来品より約1/5の薄型化を実現した、自動車向けワイヤレス充電パターンコイル・ソリューション
こうした課題を解決するのが、TDKが開発した自動車内向けワイヤレス充電パターンコイルです。独自のパターンコイル技術によって、コイルユニットの大幅な薄型化を実現しました。最新の製品では、ワイヤレス給電の新規格であるMPP(Magnetic Power Profile)*2とEPP(Extended Power Profile)*3の両方に世界で初めて対応予定。また、独自のめっき加工技術により、約1mmの薄さを実現しました。
従来の巻線では3つのコイルで充電エリアをカバーしていましたが、新型のパターンコイルでは、1つのコイルで充電エリアをカバーできます。薄さに加えてコイルの個数が減るので、回路基板の大幅な小型化が可能です。これによって、これまでのセンターコンソールだけでなく、ドアポケット、後部座席など今までの自動車では設置が難しかった場所でのワイヤレス充電の広がりが期待されます。MPP方式では、コイルと小型の磁石を組み合わせた構造になっており、スマートフォンを給電する際の位置ずれをなくし、正確に効率よく充電が可能です。移動中のずれも抑えることができるため、車載用の充電ユニットにも最適です。
従来品とワイヤレス充電パターンコイルの比較

ワイヤレス充電パターンコイルの使用例

さらに、ワイヤレス充電パターンコイルは、NFCアンテナを搭載していることも特長です。従来、NFCアンテナを搭載するためにはワイヤレス充電コイルとは別にNFC基板が必要という課題を抱えていました。そこで、TDKはワイヤレス充電コイルとNFCアンテナを一体化することで薄型化を実現しました。
NFCアンテナを統合


コミュニケーションデバイス・ビジネスグループ
千代憲隆
従来品の約1/5の薄型化を実現した自動車内向けワイヤレス充電パターンコイルは、TDKが創業以来培ってきたフェライトをはじめとする磁性材料技術と、HDD用ヘッドや各種電子部品で培った薄膜プロセス技術を活用して生まれたものです。最後に、今後のワイヤレス充電パターンコイルの可能性について、製品を担当しているコミュニケーションデバイス・ビジネスグループの千代憲隆係長に伺いました。
「スマホのワイヤレス充電がより重要となっていく中、充電器やモバイルバッテリーを持ち歩かなくて良い世の中をつくる一端を担いたいと考えています。具体的には、車の中をはじめ、カフェやレストランのテーブル、駅や空港の待合スペースなど、どんなスマホでも充電できる“置くだけ充電”スペースを拡充したいと思っています。その実現に、場所を選ばず簡単に設置できる薄型コイルは大きく貢献できると考えています。また、これまでは15W急速充電にはそれぞれの規格に対応した充電器が必要でしたが、TDKが開発しているMPPとEPP両方の規格に対応したパターンコイルを使うことで、Qi規格に準拠したすべてのスマートフォンを最大15Wで充電できるようになる予定です。これからも世界初の技術で世の中の便利に貢献していければ嬉しく思います」。
ワイヤレス充電パターンコイル

用語解説
- 近距離無線通信(NFC):Near Field Communicationの略で、近距離無線通信技術の国際標準規格。近距離無線通信とは、かざすだけで周辺機器と通信できる技術全般を指す。
- MPP(Magnetic Power Profile):磁石によってデバイスを充電器に固定することで、ワイヤレス充電の効率を最適化する規格。
- EPP(Extended Power Profile):最大15Wの出力での充電を可能にする規格。