

革新的なコラボレーションが、
自動運転への道のりを加速させる
完全自動運転車は夢のような技術ですが、その実現にはまだまだ長い道のりがあると考えられています。2024年現在、完全な自動運転技術である「レベル5*1」の達成には、技術的な課題だけでなく、法規制や社会的な習慣など多くのハードルが立ちはだかっています。自動運転車は、複雑で予測不能な環境でも完璧に機能することが求められますが、現在の技術がその基準を満たしているとは言えません。例えば、トンネルや地下駐車場でのセンシングなど、多くの課題が残されています。
一方で、「準自動運転車(semi-autonomous vehicle)」は、人間による操作が必要ですが、高度な運転支援システムを搭載しており、現実的なソリューションとして注目されています。車線維持やアダプティブ・クルーズ・コントロール*2など、特定の操作を自動化することで、ドライバーの安全性と快適性が向上し、重要な判断は引き続き人間が行います。このような複合的なアプローチにより、自動運転のメリットを活かしつつ、完全自動運転に伴うリスクを軽減することができます。


センサ技術が準自動運転技術を進化させる
準自動運転技術には、車両が周囲を認識するためのセンサの働きが欠かせません。車両の動きや状態を正確に把握するには信頼性の高いコンポーネントが、極めて重要な役割を果たしています。自動運転レベル2の「特定条件下での自動運転機能」やレベル3の「条件付自動運転」では、人による一定の監視が必要であるものの、様々なタスクを自律的に行うことができます。この「監視付き自動化」の考え方は、AIを駆使したレベル5の「完全自動運転」を目指す企業とは異なる思想を持ったアプローチです。
センサフュージョンが果たす重要な役割
この10年で、センサフュージョンの技術は飛躍的に進化しました。多種多様なセンサからデータを集めることで、ロボットのナビゲーションや、動作、タスクの実行における精度は格段に向上しました。GPSやGNSS*3は、都市部では高層ビルや障害物によって信頼性が妨げられるために、精度が数センチ単位から数メートル単位にまで低下してしまいますが、慣性センサ、カメラ、レーダー、LiDAR*4などを組み合わせることで、相対的手法による位置の特定が可能となり、より信頼性の高いナビゲーションが実現できます。
それでは、これらの技術に必要となるさまざまなノウハウやリソース、原材料は、どのように統合させれば良いのでしょうか?

TDK Ventures×TDKの技術=ソリューションの統合
TDKのコーポレートベンチャーキャピタルであるTDK Venturesは、社会と環境に貢献するというTDKの理念にも通じる「TDK Goodness」の精神のもと、大きな変革を起こすテクノロジー主導型のスタートアップを支援し、イノベーションと成長を支えています。特にエネルギー分野と環境分野に重点を置き、各業界に大きな影響を与える可能性を秘めた、創業初期のスタートアップへの投資と支援を行っています。
TDK Venturesは、TDKの豊富なリソース、技術的な専門知識、グローバルネットワークを活用し、財政的な支援だけでなく、戦略的ガイダンス、最先端の研究開発へのアクセス、協業や事業規模拡大の機会を提供することで、投資先企業の成長を加速します。

投資先企業とのシナジーが生まれる原動力
こうしたパートナーシップを築く意義はどこにあるのでしょうか。この記事で紹介するFactionをはじめ、TDKと投資先企業は、それぞれが最も得意とするリスクを引き受けることで、お互いに協力しています。例えば、スタートアップは市場リスクを吸収するのに適している一方、TDKは長い歴史を持つ企業として、品質と既存の顧客を優先し、信頼を重視しなければなりません。
“TDK Venturesは、Factionの迅速な事業展開に欠かせない部品を製造するTDK本体の各部門との対話を促進してくれました。当社の本質はソフトウェアの会社ですが、TDKのグローバルな技術ポートフォリオを活用することで、当社の技術をパートナーの自動車企業に迅速に提供することができるようになります。”
Ain McKendrick | Faction 創業者兼CEO

Faction 創業者兼CEO
既存の事業が定着しているTDKにとって、まったく新しい分野に参入することはリスクを伴います。対照的に、Factionのようなスタートアップは、積極的にリスクを受け入れ、自社技術の応用を迅速に展開し、革新的な新製品を提供することを得意としています。さらにTDKは、位置、方向、速度の測定に必要な、優れたコンポーネントや回路技術を提供できるので、モビリティ分野のベンチャー企業のリスクを軽減することができます。
FactionがTDKのビジョンにマッチする理由
TDKは、地球環境の保全、人権の尊重、持続可能な社会の構築など、長期的な社会課題の解決に取り組んでいます。具体的には、「TDK Transformation ~サステナブルな未来のためにTDKは変わり続ける~」という長期ビジョンを実現するために、独自のコアテクノロジーやソリューションを提供しています。TDK Venturesは、このビジョンに基づき、自動運転車や準自動運転車、産業用ロボットおよび位置情報やナビゲーションを基軸とするスタートアップと協力しています。Factionは、TDK Venturesのパートナーであり、TDKのグループ企業であるTrusted Positioning やInvenSenseの支援を受けて、様々なリソースを低コストかつ短期間で獲得してきました。

Factionは、理論の検証だけでなく、ソリューションを市場に提供し、リアルな問題を解決することを目的に設立されました。その目的達成のためには、高品質で信頼性の高いコンポーネントを大量に調達する必要がありますが、TDKはそのニーズに応えることができます。Factionは、マイクロモビリティやラストマイル物流と呼ばれる分野で、レベル2およびレベル3のドライブ・バイ・ワイヤ*5技術を進化させており、TDKの各事業部門は、Factionの事業規模拡大、商用化、市場投入の加速などを支援しています。
Trusted PositioningとInvenSenseとのパートナーシップを構築
Trusted PositioningとInvenSenseのセンサ技術は、Factionの準自動運転車の性能向上の切り札になると考えられています。Trusted Positioningは、GPSデータを補完する高度なナビゲーションソリューションを提供しています。これにより、GPS信号が弱い環境でも正確で信頼性の高い位置情報を提供できます。準自動運転で求められる精度を確保するためには不可欠な技術です。
一方、InvenSenseのセンサ技術は、高性能なジャイロセンサや加速度センサ、その他モーションセンサを高度に統合し、車両の安定性と姿勢を維持するために必要なデータを提供します。これらのセンサ技術の組み合わせによって、Factionの車両は様々な環境で、安全かつ効率的に走行できるようになり、適応性と信頼性が向上します。
FactionとTDKのパートナーシップの今後
FactionとTDKは、今後準自動運転車の分野でのコラボレーションをより緊密にすることで、技術の提供方式を、従来の機器単位から、ソフトウェア企業のようなSaaS(Software as a Service)モデル*6へ移行させることを目指しています。また、FactionはOEMパートナー企業と共に準自動運転技術を進化させ、遠隔での運用サービスを提供する戦略を掲げています。将来的には、顧客が自動運転技術を応用した新たな分野に事業を拡大できるプラットフォームを提供することを目指しています。
まとめ
TDK Venturesは、社会のニーズとSDGsに沿ったイノベーションの育成に注力し、テクノロジー関連のベンチャーキャピタルとして大きな役割を果たしています。再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、DX技術など、グローバルな課題の解決に取り組むベンチャー企業を支援することで、すべての人にとって、より持続可能で豊かな未来の創造に貢献しています。Factionを始めとする、信頼できる投資先企業とのパートナーシップを拡大し、革新的なアイデアを市場に提供するTDK Venturesの今後の展開にご注目ください。
用語解説
- *1 レベル5:自動運転レベルの最上位となる完全自動運転技術。どんな環境や交通状況でも人間の介入を一切必要とせず、安全な運転が可能なレベル。
- *2 アダプティブ・クルーズ・コントロール:車両が前方との車間距離を一定に保ちながら自動で速度を調整する運転支援システム。
- *3 GNSS:Global Navigation Satellite System。全球測位衛星システムのこと。複数の衛星からの電波を使って地球上どこでも位置情報が取得できる。GPSはアメリカ合衆国が運用するGNSSのひとつ。
- *4 LiDAR:レーザー光を照射して対象物の距離や形状を計測する技術。
- *5 ドライブ・バイ・ワイヤ:従来の機械的、油圧的な操作系統を電子制御システムに置き換えるための技術。
- *6 SaaS(Software as a Service)モデル:ソフトウェアをインターネット経由でサービスとして提供するモデル。