

「この辺り」ではなく「ここ」が分かる。高精度な測位を可能にするセンサフュージョン
テクノロジーの発展が急速に進むなか、情報の正確さはますます重要となっています。たとえば、自動車のナビゲーションやスマートフォンで目的地への行き方を調べるとき、私たちは当たり前のように、2ブロック先(この辺り)ではなく、「現在地(ここ)」からの案内を期待するでしょう。正確な位置情報は、カーナビゲーションからシェアサイクル(レンタル自転車)まで、あらゆるアプリケーションに不可欠なものとなりました。しかし、正確な位置情報を知ることは、実は簡単ではありません。とくに周囲の環境が常に変化する自動車やシェアサイクルにおいては、さまざまなセンサ技術を組み合わせた高度なソリューションが求められます。
ひとつのセンサ技術だけでは正確なアウトプットを得ることは難しいため、注目されているのが「センサフュージョン」という革新的な技術です。さまざまなセンサの利点を組み合わせることで、位置測位アプリケーションにおける個々の技術の弱点をうまくカバーする方法です。


正確な位置情報を得るための「センサフュージョン」とは
「センサフュージョン」とは、複数のセンサのデータを統合し、車両やデバイスの位置や状態をより正確に提供するプロセスです。GPSナビゲーションや自動運転車、商業用ロボット、電動バイクや電動スクーターなどの移動ツールにおいて、従来では測位が困難な環境でも、精度の高い位置測定を可能にします。これらの移動ツールには、カメラやレーダーなどさまざまなセンサが使用されていますが、個々のセンサには一長一短があり、どのセンサも単体では、正確な位置測位ソリューションを安定的に提供できません。

センサフュージョンは生活にどのような影響を与えるのか
センサフュージョンは自動車やスマートフォンのナビゲーションや位置情報システムに活用され、精度向上に貢献しています。さらに最近では、自動、また半自動運転車や自律型ロボットにも搭載されるなど、活躍の場は日々拡大しています。
「絶対測位」と「相対測位」とは
測位のための技術には、大きく分けて「絶対測位」と「相対測位」の2つの方法があるのをご存じでしょうか。「絶対測位」は、人や車両などの絶対位置を、緯度、経度、標高などの基準点を元にして特定する方法です。一方、「相対測位」は、前にいた位置との関係から現在地を知る方法で、「デッドレコニング(自律航法)」がその代表的な例です。これは、特定の地点からの移動方向や速度のデータを元に現在地を測るものです。2つの手法はそれぞれ一長一短があるので、組み合わせて使用するのがもっとも効果的です。
絶対測位センサの種類
- ● GNSS(Global Navigation Satellite System〔測位衛星システム〕)またはGPS(Global Positioning System〔全地球測位システム〕):主に自動車向けセンサフュージョンアプリケーションで利用される技術
* GNSSは測位衛星システムの総称で、GPSはアメリカが管理運営する衛星測位システムを指す。 - ● Wi-Fiによる測位
- ● 電波塔による三角測量
- ● 地磁気による測位
- ● カメラやレーダー、LiDARと地図情報と組み合わせた測位
絶対測位センサの種類
- ● 慣性ベースの測位:ジャイロスコープや加速度計
- ● 相対高度計
- ● 視覚センサによる車線の検知

車両測位に立ちはだかる課題とセンサフュージョンの役割
移動ツールの分野でも、絶対測位または相対測位を単体で利用した場合、位置のあいまいさや不確実性を解消できません。たとえば、GPSを頼りに車を運転する際、トンネルに入ると衛星からの通信が途絶え、位置情報が取得できなくなることがあります。皆さんもトンネル内でカーナビが現在地を見失い、分岐を見逃してしまった経験はないでしょうか?
移動ツールのためのセンサフュージョン
複数のセンサデータを組み合わせて、車両の動きをより正確に把握する画期的なセンサフュージョン技術で、TDKは車両やライドシェア用の位置測位システムの信頼性を新たな次元へと導きます。(※以下製品情報には開発中のものも含みます)
TDKのセンサフュージョンはその精度と安定性において、特に自律型、半自律型であるものの、あらゆる位置測位のアプリケーションの新たなスタンダードとなることは間違いないでしょう。「精度」だけではなく、「安定性」も重要な要素です。さらに、ほかのナビゲーションや制御システムに組み込めることも重要になります。
Chris Goodall, マネージングディレクター Trusted Positioning(TDKグループ会社)
RIDE
マイクロモビリティのライドシェアサービス向けに開発されたTDKの車両トラッキングソリューション「RIDE」。車両(二輪車)の位置や方向を高精度に検出でき、車両の管理に適しています。スクーターや自転車が無造作に路上に乗り捨てられたり、通行の邪魔になったりするなどの危険を最小限に抑えられます。ほかにも、危険運転や乱雑な駐輪、衝突などユーザーの運転状況のモニタリングにも活躍します。
TRACK
TDKの慣性デッドレコニングソフトウェア「TRACK」は、GPSが使えないエリアでの車両位置の追跡に最適なソフトウェアです。立体駐車場や市街地の高層ビルの谷間、トンネルなど、GPSの電波が届きにくい環境での測位に力を発揮します。ハードウェアやプロセッサ、センサの種類を問わず連携し、業界トップクラスのソリューションを提供します。
AUTO
自動または半自動運転車や自律型ロボット向けに開発されたTDKの「AUTO」は、車載グレードのIMU(慣性計測装置)、車両速度、高精度GNSSなどの各種センサを搭載。これらを緻密に統合することで、手頃な価格で高精度な位置情報を提供します。

TDKのソリューションが特別である理由
これまでのデッドレコニングや慣性航法技術は、画一的でカスタマイズしにくいことが課題でした。多くのセンサメーカーは、特定のセンサの組み合わせを提供し、組み込みを行う側が個々の使用用途に関係なく、提供されたハードウェアを使用してアプリケーションを開発する必要がありました。これに対し、TDKはセンサフュージョン「ソフトウェア」を技術の中心にしているため、それぞれのアプリケーションに適したソリューションを提供することができます。二輪車向けの「RIDE」、車両向けの「TRACK」、自律運転向けの「AUTO」。TDKは業界に先駆けて、異なる使用用途に適した各ソリューションを提供しています。
TDKのソフトウェアは運転の変化を検知する機能や盗難防止、けん引検知などの機能も備えています。また、TDKは複数のメーカーとセンサで得た測位データをベースにしたさまざまな機能も開発しています。顧客が自社のアプリケーションに適したセンサやGPSハードウェアを組み込みたい場合、TDKのソフトウェアはカスタマイズが可能です。特定のハードウェアを顧客側のシステムに組み込む必要はありません。
センサフュージョンがもたらす位置測位の未来
ソフトウェアのアップデートで機能が進化する自動車(SDV:Software-defined Vehicle)が主流になるにつれ、今後ますます高度なモバイルプラットフォーム機能が登場することが予想されます。最先端の自動車であるSDVは、運転の仕方だけでなく、私たちの車との関わりや「自動車」そのものの意味を根底からくつがえすでしょう。5Gなどの通信テクノロジーによって、位置測位やナビゲーションの能力も向上を続け、未来のスマートカーの進化により、簡単に移転、統合、アップデートができるようになることが期待されます。
TDKのグループ会社であるTrusted Positioning は、世界中で130以上の特許を保有し、モビリティとアクセシビリティの最前線を走り続けています。技術に興味をもった方はTDKまでご連絡ください。

Chris Goodallは現在、TDKの位置測位・モニタリングシステム事業部門のバイスプレジデントとして、屋内・自律型車両プラットフォーム向け次世代位置測位ソフトウェアの設計・製造・事業開発チームを率いています。
2009年、ソフトウェアナビゲーションを専門に手掛けるベンチャー企業Trusted Positioning Inc.を仲間とともに設立。同社は2014年にInvenSense Inc.に買収されたのち、現在はTDKのグループ会社として精力的に事業を展開しています。ChrisはTrusted Positioning のCEO兼CTOを3年間務め、現在も同社社長として事業を統括しています。
Chrisはカナダのカルガリー大学で地理空間情報工学の博士号を取得、これまでにマルチセンサにもとづくナビゲーションシステムに関する50報を超える論文を発表し、20件余りの特許を(単独または共同)取得しています。