

高電圧バッテリを搭載した電気自動車の安全性とは?
ガソリン車から電気自動車(EV)への切り換えをためらってきた方も安心してください。最近では電気自動車(EV)に使われている高電圧バッテリは、最大限の安全性と耐久性を実現しています。さまざまなニュースでも取り上げられているように、EVとその高電圧(HV)バッテリの危険性には大きな関心が集まっています。しかし、実際には通常の運転状況において高電圧バッテリの安全性は非常に高く、問題が発生することは非常にまれです。EVに搭載される高電圧バッテリは、デジタル時計に使われるバッテリとほぼ同じものであり、その構造はシンプルで信頼性が高く、安全性も確保されているのです。

電気自動車における高電圧バッテリの重要性
内燃エンジン(ICE)に搭載されるバッテリは、主にエンジンの始動や、エアコン、音楽システムなど補助機能の電力供給に使用されます。一方、EVのバッテリは、駆動用モータをはじめ、車載コンピュータやパワーウィンドウなど、ほぼすべてのコンポーネントに電力を供給しています。
また、高電圧バッテリはEVの総コストの大部分を占めており、新車のEV価格の約30~40%に相当します。高電圧バッテリには、コスト面だけでなく、可能な限り長期間、安全で効率的に高い信頼性を持って動作することが求められます。

バッテリの安全性を考慮した電気自動車を選ぶこと
高電圧バッテリの重要性から、自動車業界では厳密な検証が行われ、世界各国の政府によって厳しい規制が設けられています。その結果、安全基準の策定や共同研究、リコールなどの安全問題に対する調査が実施されています。
ほぼすべてのEVには、高電圧バッテリにリチウムイオン電池が使用されています。このバッテリには、通常の運転状況で電流を安全かつ効率的に遮断する機能を持った「高電圧コンタクタ」という部品が搭載されています。

- 温度変化と電気自動車
現在、EVの性能は内燃エンジン車(ICE)と比較して、遜色のないレベルに達しています。しかし、EVの効率を最大限に引き出し、安全運転を実現するためには温度管理が重要です。EVバッテリの最適な動作温度は約21.5℃ですが、この範囲は-15℃から45℃まで広がっています。特にこの範囲より低温になると性能が著しく低下します。
- 短絡のリスク
また、EVのメンテナンスを適切に行い、万全の状態を維持することが重要です。損傷した場合はすみやかに修理することで、外部短絡を防ぐことができます。外部短絡が発生すると、危険が生じ、修理不能な損傷を引き起こすおそれがあります。
- 緊急対応のための安全装置
緊急事態が発生し、消防署や警察署から救急隊員が対応する場合に備えて、すべてのEVには緊急停止装置や緊急遮断装置が搭載されています。また、救急隊員はその使用方法について十分な訓練を受けています。さらに、夜間にEVの電源を切ったり、車を保管したりする場合には、高電圧コンタクタを使用して高電圧バッテリを自動で遮断します。
充電に関する注意点とは
EVに乗る際の利点のひとつは、自宅での充電や充電ステーションで、安全に使える電力にアクセスできることです。先進国を中心に充電ステーションの数は増加しており、2030年までにレベル2(最大出力が240V)の公共充電施設は210万台以上に達すると予想されています。また、超高速充電ステーション(DC急速充電(DCFC))も同様に増加が予想されていますが、現在ある充電設備のなかでの割合はまだ少ない状況です。

800V HVバッテリ時代の到来
2019年に800Vバッテリ(標準400Vエンジンバッテリの2倍の容量)が登場し、世界中の自動車メーカーは、出力向上、軽量化、充電時間短縮、安全性向上に取り組みはじめました。800Vエンジンバッテリでは、最大80%充電が標準400Vバッテリでは40分かかるのに対してわずか20分で完了します。現時点では、800V 高電圧バッテリを搭載する自動車はまだ少数です。しかし、製造技術を導入する自動車メーカーは増加しており、その数は今後確実に増えると考えられます。

バッテリの安全性を担保する重要な部品 - DCパワーコンタクタ
“高電圧コンタクタは、緊急時に高負荷を遮断する設計がなされています。TDKの独自のガス充填セラミックアークチャンバを使うことで、耐用期間のあいだ、高速で高信頼性を持ち、安全に遮断できる、超コンパクトな設計を実現しています”
— クラース・ローゼンケッター TDKエレクトロニクス
TDKは、業界最大手として高電流DCコンタクタのリレー用途に適した高電圧コンタクタ「HVCシリーズ」を製造・販売しています。HVCは、電気自動車だけでなく、充電ステーションや商用車(バス、トラック、重機など)、無停電電源、再生可能エネルギー用のエネルギー貯蔵システム(ESS)においても、必要不可欠な部品です。

高電圧コンタクタの安全性を向上するには
TDKの高電圧コンタクタには、安全性を最優先に考慮した設計が取り入れられています。高電圧DCコンタクタは、電気自動車のバッテリ遮断ユニット(BDU= Battery Disconnect Unit)*1の一部として、緊急時や故障時にバッテリを遮断し、コンタクタから発生するアークを除去する役割をもつシステムに組み込まれています。このような故障は、外部要因によるバッテリや機械への問題や損傷が原因となります。
TDKの新製品HVC43シリーズは、高電圧DCコンタクタの対応範囲を拡大し、小型化に加え、旧モデルに比べて30%の軽量化を実現しています。ガス充填セラミックアークチャンバは、より小さな電流(最大250A)に対応し、現在のEVで使用される高負荷の電流を即座に遮断する機能が備わっています。

遮断の重要性とは
高電圧リレーコンタクタは、自動車の電気安全システムの重要な要素であり、バッテリ管理システム*2(BMS= Battery Management System)によって制御されるバッテリ遮断ユニット(BDU)の主要部品です。故障時には、BDUがリチウムイオン電池を遮断し、バッテリの損傷を防ぎます。バッテリが損傷した場合には、最悪のケースでは火災や爆発が起こることがあります。
EVの場合、高出力の電子部品が開状態から閉状態に切り替わる際、スイッチの接点間で電気アークが発生します。危険な状況が発生した際にアークを除去しないと、深刻な影響が生じる可能性があります。
さらなる進歩について
多くの専門家が自動車業界全体でEVのシェアの拡大を予測しています。ブルームバーグによると、2022年にアメリカで、北米で生産したEVを税制面で優遇する「インフレ抑制法」が可決されたことで、米国市場では2030年までにEVの売上が52%を占めると予想されています。また、EUでは2035年以降、電気自動車以外の新車販売を事実上禁止するという、より進歩的な合意が成立しています。
EVを選ぶ消費者が増えるのに伴い、ほとんど発生することのないEVの安全問題を取り上げる報道は姿を消し、エンジンを使わない車への移行がさらに加速すると見られています。高電圧バッテリシステムにHVC DCコンタクタを搭載した自動車の安全性とオンデマンドパワーは今後も引き続き向上し、充電速度も高速になることが期待されます。
まとめ
TDKは、短絡性能を向上させた業界初の設計を採用したHVC DCコンタクタを近く発売予定です。この技術によって、高電圧バッテリの安全性がさらに高まることが期待されます。いまや自動車オーナーは、安全性や利便性を犠牲にすることなく、数多くの選択肢から自らの価値観に合った車を選ぶことができます。そして、ドライバーは従来のガソリン車より優れた安全性と性能を持ち、環境にも配慮した自動車を楽しむことができます。これこそ、すべてのドライバーが望んでいることと言えるでしょう。
HVC DCコンタクタについての詳しい情報は、下記までお問い合わせください。

Director of Product Marketing for High-Voltage Contactors
TDK Electronics
クラース・ローゼンケッターは、TDKのグループ会社である、TDKエレクトロニクスで高電圧コンタクタ(HVC)プロダクトマーケティング部のディレクターを務めています。2017年に入社後、新製品ラインとして高電圧コンタクタ事業を世界に展開させてきました。特に欧州のDC充電市場では、HVCシリーズが高い評価を受けています。
用語解説
- バッテリ遮断ユニット(BDU):電気自動車(EV)の電源やバッテリパックと電気システムとの間で電流を遮断する装置。
- バッテリ管理システム(BMS):電気自動車の充電式バッテリを管理し、電圧、温度、冷却液の流量、電流が安全な範囲であることを監視する。また、回収したエネルギーをバッテリシステムに還元するためのシステムでもある。