

ワイヤレスイヤホンの音が、変わる。私たちの暮らしが、変わる。
世界中で急速に普及している、ワイヤレスイヤホン/ヘッドホン。左右のイヤホンが独立して無線化されている完全ワイヤレスイヤホンを中心に、市場が大幅に拡大しています。TDKはESD保護機能付きノッチフィルタを提供し、ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンの進化を支えています。

世界中で急速に普及が進む、ワイヤレスイヤホンの技術課題
ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンの市場が、ワールドワイドで急速に広がっています。富士キメラ総研が発表した「2021 ワールドワイドエレクトロニクス市場総調査」によると、19年が2億1000万台、26年が7億7600万台(19年比約3.6倍)と予測されています。その背景には、左右のイヤホンが独立して無線化されている、完全ワイヤレスイヤホン(TWS:True Wireless Stereo※1)の実現が挙げられます。
TWSの一番のメリットは、有線のわずらわしさがなくなったことにあるでしょう。通勤・通学やスポーツ、家事、買い物などをしながら、これまでの有線タイプより、快適に音楽を楽しむことができます。さらに今後、TWSは音楽を聴いたり、スマートフォンの付属品としての機能だけでなく、私たちの暮らしや社会を変えるヒアラブル(※2)としても期待されています。ヒアラブルとは耳につけるコンピュータと言われ、音声の入出力に特化したウェアラブルコンピュータデバイスです。例えば、手で電話を持たなくても通話を可能にするハンズフリー通話や生体情報のモニタリング、同時通訳などの実現が望まれています。
ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンの世界市場

TWSが今後さらに進化するために求められているのが、高音質化と小型化です。
TWSをはじめとする無線搭載オーディオ機器では、快適になった反面、オーディオ信号に無線通信信号がノイズ(「ザーッ」という可聴ノイズ)として乗ってしまうという構造的な課題を抱えています。そのため、このノイズを可能な限り抑制することが高音質化への課題となります。
また、TWSは有線タイプのイヤホンと異なり、本体内にアンテナやバッテリを搭載しなければならず、音を増幅させるためのアンプや振動させるためのドライバーにスペース的な制限が発生してしまいます。その結果、有線タイプに比べて本体が大きくなったり、音質が劣ったりする傾向にあります。そのため、電子回路の小型化や搭載する部品の点数削減などが求められます。
小型化と高音質化を実現する、独自のESD保護機能付きノッチフィルタ・ソリューション
そこでTDKが開発したのが、ESD保護機能付きノッチフィルタ「AVRFシリーズ」です。ノッチフィルタとは、無線通信など特定の周波数の信号を阻止してノイズを除去する機能を持つ部品を指します。
AVRFシリーズは、独自の材料・構造設計により、特定の周波数に対して優れた減衰特性(※3)を実現、TWSをはじめとする無線通信のノイズ抑制・受信感度の改善に効果を発揮し、高音質化に寄与します。
TDKフィルタの有り無し

TDK調べ
さらに、独自の強みとしてESD(静電気放電・サージ※4)保護機能がついていることが特長です。ESDとは、人体のような帯電した物体と電子機器などが接触すると発生する静電気の放電のことです。そのため、人の手で扱うことの多いワイヤレスオーディオ機器をはじめとする電子機器には、必ずESD保護が必要となります。
電子機器をESDから保護するためには、通常はTVSダイオードと呼ばれる部品(※5)が用いられます。しかし、TVSダイオードではESD保護はできますが、適切なノイズ対策を行うことができません。そのため、MLCCなどの別の部品が必要になります。AVRFシリーズは、TDKが得意とする独自の積層プロセス技術、材料技術を駆使して、フィルタ機能(ノイズ抑制)とESD保護素子機能を一体化しました。これによって、1チップでノイズ対策とESD対策を行うことが可能で、ノッチフィルタよりも大きなTVSダイオードが不要となり、大幅な回路の小型化を実現できます。
1チップでノイズ対策とESD対策が可能

高音質を目的に設計されたオーディオ機器に最適

ピエゾ&プロテクションデバイスB.Grp
半導体材料製品部 積層製品課 課長
武井 克行
ノッチフィルタ AVRFシリーズの今後の展望について製品担当者である、TDKのピエゾ&プロテクションデバイスB.Grpの武井 克行課長はこう話します。「AVRFシリーズは、TWSだけでなく、スマートフォン、スマートスピーカーなどのオーディオ回路の EMC (電磁両立性※6)対策に最適なノッチフィルタです。EMC対策を施すことにより、機器がノイズに強い環境を保つことを意味しており、これからますます将来的には、すべてのコト、モノを無線・通信機器がつなげていくと予測され、さらにノイズ対策の重要性が増していくと考えられます。現在、AVRFシリーズは無線通信のオーディオ機器を主要ターゲットにしていますが、今後は自動車や産業用機器・エネルギー、医療ヘルスケアなど、さらに活躍の場を広げていきたいと思っています」。 TDKは、ノッチフィルタの提供を通じて、高音質を目的に設計されたオーディオ機器に最適なソリューションを提供し、これからの通信ネットワークを支えます。
無線通信を搭載したオーディオ機器のノイズ・ESD保護対策

ESD保護機能付きノッチフィルタ AVRFシリーズ

Bluetooth/Wi-Fiで使用される2.4, 5GHz帯向け品やセルラーバンド(700MHzから2.7GHz)向け品、D級アンプノイズ対策品をラインアップしています。詳細は、プロダクトセンターをご確認ください。
用語解説
- ワイヤレスヘッドフォン/イヤホン:左右が完全に独立した完全ワイヤレス(True Wireless)タイプと、ワイヤで左右がつながれている左右一体型(Semi Wireless)がある。
- ヒアラブルデバイス:耳に付けるタイプのコンピュータや端末、そしてもう少し広げて音声アシスタント機能を搭載するデバイススマート化する無線イヤホンを総称して「ヒアラブル」
- 減衰特性:フィルタ回路の周波数に対する低減効果を示す数値。
- ESD:Electro-Static Dischargeの省略形。ESDの一般的な例としては、カーペットの上を歩いている人体に蓄積する静電気などがあげられ、金属や他のものに触れると放電する。ESDは一般的に数千ボルトで、電気回路に重大な損害をもたらす可能性がある。
- TVSダイオード:過渡電圧抑制(TVS)ダイオードは、電圧の影響を受ける部品を静電気放電(ESD)から保護する。一般的に、TVSダイオードは、0603(0.6×0.3mm)サイズから1005(1.0×0.5mm)サイズが、ノッチフィルタよりも大きい。
- EMC:Electromagnetic Compatibilityの略。電磁波妨害(EMI)と電磁感受性(EMS)の両者を合わせたもの。