
【CEATEC 2021】
「探す」をなくす。地磁気による屋内位置測位の可能性
多くの人が行き交う病院やオフィス、大量の荷物や資材が置かれた倉庫や工場。さまざまな現場で、人や物の位置を把握・管理することによって作業の効率を高めたり、従業員の安全を確保したりする取り組みが進められています。TDKは、どこにでも存在する「地磁気*1」を活用することで、屋内での人や物、動力車の位置情報を広範囲に高精度かつリアルタイムに測位でき、業務改善に役立つ画期的なソリューションを提案します。

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「探す」という非効率な作業を減らす位置測定技術
位置情報を通じた業務改善ソリューションのニーズについて、これまでTDKがさまざまな現場のお客様からヒアリングした結果、業務の約3割もの時間が、人や物を「探す」作業に費やされていることがわかりました。広い工場内で資材の場所を探したり、作業機械が見つからず業務が遅延したりするなどのケースが多くの現場で発生しています。
また、病院や介護施設などでは、医師や看護師、患者や入居者の居場所がわからずに探すために多くの時間を要する場面や、急に必要となった医療機器の場所や空きベッドの状況がすぐに把握できないため、効率的な業務を阻害するケースも多く見られました。
それらの現場において、人や物の位置情報をデジタル化し、正確に把握・管理することができれば、業務効率の大幅な改善につなげることができます。例えば、従業員の動線を分析することで、工場内の適正配置を実現できたり、熟練者と新人の行動を比較・解析することで、効率的なレイアウトや人の配置の提案も可能になったりします。また、危険区域への侵入検知や、深夜の一人作業の見守りなどにも活用できます。
さらに、フォークリフトなど動力車の稼働状況を見える化し、季節や時間帯による違いを分析することで、限られた機材を効率よく使え、メンテナンスの必要時期を事前に把握できるようにもなります。
屋内で人や物の位置データを管理・分析することで、まずは「探す」という非効率な作業を減らし、適正配置や機器の効率稼働によって、これまでにない業務改善が可能になります。位置情報の活用が、結果として働き方を大きく変えるソリューションになります。

屋内での位置情報システムの課題
屋外においては、GPSなどの衛星から発信された電波を利用するGNSS(衛星測位システム)によって、人や物の位置を正確に測位することができます。しかし、屋内では衛星の電波が届かないため、Wi-FiやBeacon(Bluetooth)、UWB*2などの無線通信機器を設置し、その信号を受信することで測位を行う方法が一般的でした。いずれの方式も正確な測位のためには、機器を一定間隔で数多く設置する必要があり、広範囲になればなるほど導入時のコストや設置、メンテナンスに時間がかかるという課題がありました。
屋内位置情報ソリューションの比較

「地磁気」を使った画期的なソリューション
TDKのグループ会社であるTrusted Positioning Inc.(カナダ)が開発した「VENUE®」は、地磁気を利用した新しい屋内測位システムです。地磁気は建物内の同じ位置でも高さによって異なる特性があるため、フロアの特定も可能で、スマートフォンや専用端末に搭載された地磁気センサによって容易に検知できます。

ポジショニング&モニタリングシステムズ
ジャパンリージョン統括
中山 敬嗣
VENUEの開発を担当した、TDK株式会社 ポジショニング&モニタリングシステムズ ジャパンリージョン統括の中山敬嗣は、製品特長について次のように話します。「VENUEを導入するには、屋内の部屋の位置を記したフロアマップと実際の地磁気の情報を組み合わせた、「地磁気マップ」を事前に作成することで利用開始できます。従来のように、無線通信機器を各所に等間隔で設置する必要がなく、VENUEアプリをインストールしたスマートフォンや専用の受信端末を用意するだけで利用できるため、導入時のコストや時間を大幅に抑えることができます。さらに、地磁気マップを更新すれば、フロアを増やしたり、対象範囲を広げたりも容易にすることができます」。
機器の稼働状況の見える化

建物内の資材情報位置管理

現在、VENUEは、日本国内を中心に、オフィスや工場など、さまざまな現場での導入が進んでおり、業務改善の成果が挙げられています。以下に大型倉庫での活用事例をご紹介します。
大量の荷物が保管される物流センターでは、VENUEの導入によって広大な倉庫内で作業する従業員の位置や行動を分析でき、効率的な人員配置が可能になりました。また、運搬機材もどこにあるのかがリアルタイムでわかるため、機材の稼働率の向上や必要台数の削減に効果を発揮しています。また、荷物の一つひとつにRFIDタグ*3を付けることで、ロボットが巡回しながら無線通信を利用して位置データを管理でき、荷物の入庫・出庫の効率を大幅に向上することができました。
VENUE®の活用事例

TDKの屋内位置測位ソリューション「VENUE」。病院、倉庫、工場だけでなく、オフィスや商業施設など、屋内のあらゆる場所でのソリューション提供を目指しています。VENUEの詳細は、製品Webサイトをご覧ください。


本製品「VENUE」は、CEATEC AWARD 2021において「要素技術・デバイス部門」準グランプリを受賞しました。
用語解説
- 地磁気:地球が発する磁気と磁場のこと。地球上のあらゆる場所で固有の値を示すため、屋内外での位置情報の特定に利用できる。
- UWB(超広帯域無線):比帯域幅が20%以上、または500MHz以上という極めて広い帯域幅を利用して送受信を行なう無線通信方式。
- RFIDタグ:RFID(Radio Frequency Identification)通信方式を用いてタグのID情報を非接触で読み取るシステム。