
【CEATEC 2020】
電動バイクの進化を加速させる、高性能バッテリの秘密とは?
今回の記事では、「CEATEC 2020 ONLINE」に出展する、電動バイク用バッテリをご紹介します。環境負荷が低い電動バイク(※1)の本格的な普及のためには、航続距離の向上や急速充電の実現など解決すべき課題がたくさんあります。この課題解決の鍵を握っているのがバッテリです。

電動バイクが普及するために乗り越えるべき、技術課題
クルマの電動化が急速に進行している中、バイクもCO2排出規制の強化に伴って電動モデルの市場投入がはじまっています。さらに、ライダーアシストシステムと言われるバイク用危険回避システムの開発がはじまり、バイクにもADAS化(※2)の波が押し寄せています。加えて、電動バイクは、電動二輪車、電動ミニカーや2人乗りの小型EV、電動キックボードなどのマイクロモビリティ(※3)とあわせて、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1つのサービスとするMaaS(※4)において、ラストワンマイルと呼ばれる最後の移動手段としても期待を集めています。
バイクの電動化の進展が期待されているのは、人々が日常の移動手段として主にバイクを使用する、中国やインドといったアジア圏です。中国では電動自転車を含む電動二輪車はもっとも多く使われている移動ツールの一つで、保有台数が2億台と言われています(※5)。一方で、時速50㎞以上の速度を出せる電動バイクの普及は少数で今後の普及に期待されます。またインドでは、2030年までに国内で販売するバイクを含めたすべての車両をEVにすると発表しています。一方、欧州でもイギリスやフランスでは2040年より内燃機関車の販売停止を宣言するなど、内燃機関を利用するバイクから電動バイクへのシフトはワールドワイドで進んでいくことが予想されます。
電動バイクの世界市場規模予測(2017-2020年/2025年)

出所:(株)矢野経済研究所「世界の二輪車市場に関する調査(2018年)」2019年2月8日発表をもとに当社作成
しかし、電動バイクの本格的な普及には、充電ステーションの設置といったインフラ整備と共に、航続距離の向上や充電時間の短縮など、数々の技術的課題をクリアする必要があります。これらの課題を解決するために不可欠なのが、電動バイクの心臓部に当たるバッテリの進化です。現在、電動バイクのバッテリとして、小型・軽量で高いエネルギー密度を誇るリチウムイオン電池(※6)の採用が進んでいます。
快適な走りと航続距離に貢献する、高出力で長寿命化を実現したバッテリソリューション
リチウムイオン電池は、セル(単電池)の形状によって、主に円筒型、角型、パウチ型(ラミネート型)に分けられます。パウチ型はその中で、よりエネルギー密度が高く薄型化と軽量化ができ、形状の自由度にも優れています。電動バイクの航続距離は電池の容量に左右されますが、限られたスペースに収める必要があるため、高いエネルギー密度と軽さが求められます。TDKは、特にサイクル寿命や低温での充放電特性に優れた、軽量で高出力なパウチ型リチウムイオン電池を電動バイク向けに提供しています。パウチ型リチウムイオン電池は従来、スマートフォンなどの小型民生機器に使用されることが多かったため、電動バイクのような用途に使うには必ずしも十分な使用温度範囲が確保できていませんでした。TDKでは、電極材料等の設計を最適化することにより寒冷地での使い勝手を大幅に向上しています。
さらに、電動バイク向けパウチ型リチウムイオン電池は、他のリチウムイオン電池に比べて、バイクの駆動力を高める高出力の安定放電を実現しました。同時に、異常過熱や出力低下の原因となるバッテリ内部の電気抵抗を抑制して安全性も向上、快適な走りの実現に貢献します。また、Flash Fast Charging技術により、25分で容量80%までの急速充電も可能となり、充電時間の短縮に寄与します。さらにTDKでは複数のセルのモジュール化や、BMS(バッテリマネジメントシステム)と呼ばれる制御回路までトータルソリューションを提供しています。
低温での放電特性

※SOC=電池容量に対して、充電されているレベルを示す

叶宇
パウチ型のリチウムイオン電池は、TDKのグループ会社であるATL(Amperex Technology Limited)が、1999年の創立以来、主力製品として技術とノウハウを磨き上げてきました。スマートフォン用のリチウムイオン電池市場において、ATLブランドの製品は2020年現在、世界ナンバー1のシェアを誇ります。このパウチ型に特化した技術とノウハウを応用して、ATL グループのPowerampが開発したのが、電動バイク向けリチウムイオン電池です。
高出力の安定放電や電流抵抗の低減は、独自のマルチプル・タブ・ワインディング(MTW)技術を駆使して実現しました。リチウムイオン電池では、電池の正極と負極に電流を入出力するために“タブ”と呼ばれる接続端子が取り付けられます。このタブを複数化し、高精度な位置合わせを行うことによって局部過熱状態を防ぎ、電流抵抗の低減や高出力の安定放電を可能にしたのが、MTW技術です。製品を開発したSales Lead of Poweramp 叶宇氏にMTWを採用した理由について伺いました。
「高性能な電動バイクに対応するために、MTW技術を利用して放電中の温度上昇を効果的に制御することで、エネルギーシステム全体として安定稼働、高い安全性、そして均一な出力を実現することができたからです」。
マルチプル・タブ・ワインディング(MTW)

最後に今後の展望について、叶宇氏はこう語ります。「次世代マイクロモビリティに電動バイクを活用するためには、より高い効率性、安全性、利便性が必要です。こうした課題に対してTDKのリチウムイオン電池は大きく貢献でき、近未来における電動バイクの安定した電力源となるでしょう」。
電動バイク用リチウムイオン電池


用語解説
- 電動バイク:本ページの電動バイクとは、電動自転車(アシスト/フル)を除いた電動バイクを指す。
- ADAS(Advanced driver-assistance systems):自動車の安全性を高める、先進運転支援システムのこと。
- マイクロモビリティ:電動スクーターや電動バイク、キックボード、シニアカー(電動カート)などの、自動車よりも小さな1~2人乗り程度の車両を指す。
- MaaS(Mobility as a Service):ICT を活用して交通情報や関連サービスをクラウド化し、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとすること。MaaSが実現すれば、例えば、バス、鉄道、航空機、ホテル手配など複数の移動サービスを、統合的に検索・予約・決済できるサービスをユーザーは受けられる。尚、国際機関における明確な定義はなく、国によって捉え方が異なる場合がある。
- 中国の電動二輪車:現状のバッテリは、鉛蓄電池が主力である。
- リチウムイオン電池:リチウムイオン電池は、正極と負極を持ちその間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う電池のこと。