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[ 2003年3月期 通期 連結決算説明会 ]TDKの技術戦略

取締役 常務執行役員 野村 武史

取締役 常務執行役員 野村 武史

TDKの技術戦略についてご説明申し上げます。
澤部社長から話がございましたように、TDKは、情報家電、高速・大容量ネットワーク、カーエレクトロニクスの3分野を、エレクトロニクスの今後の成長分野と考えております。これら成長3分野でTDKが社会に貢献していくためには、TDKのコア技術を強化して、大いに活用していくことが最も重要であると考えております。コア技術とは、フェライトから発展した材料技術と、それを製品に仕上げるプロセス技術であると認識しております。代表例としては、電子部品用各種セラミック材料、厚膜積層プロセス、および磁気ヘッド用超微細加工技術などが挙げられます。
今のスピードの時代、お客様が材料をお望みになることは非常に稀で、ソリューションあるいは製品の動特性をご要求されるのは、言うまでもないことでございます。したがいまして、材料技術とプロセス技術をコアとしつつも、動特性の評価やシミュレーション技術についても注力し、コア技術としてさらに強化してまいりたいと思います。電波暗室、EMC製品群などで培ってきた評価・シミュレーション技術をさらに発展させ、お客様に個々の製品をお届けする会社から、ソリューションを提供する会社へと脱皮してまいりたいと考えております。

市場の要求に対するTDKの考え方

現在の市場要求としては、小型化、低背化、高機能化、低コスト化、新機能、グリーン化等が挙げられます。これに対応した技術として、ディジタル化、高周波化、大電流化、大容量化、電装化などが進められております。
このトレンドに対してTDKは、EMC対策、高性能電源システム、高密度記録技術などのソリューションと、そのソリューションを提供するための部品群を保有いたしております。TDKがお客様の本当に求めるものを的確につかみ、新製品をタイムリーにご提供申し上げて、「e-material solution provider」として市場から認めていただくために、TDKの持つコア技術を徹底的に深めていくことを考えております。
材料技術としては、フェライト、コンデンサ材料などのセラミックス材料、金属等の電子部品材料、機能性有機材料に強みがあると考えております。プロセス技術としては、粉末冶金的プロセスはもちろん、厚膜積層技術、巻線技術、継線技術、薄膜およびナノ加工プロセス技術に強みがあると考えております。評価シミュレーション技術としては、電磁波環境、磁気シミュレーション、および素材解析の技術等が挙げられます。これらのコア技術をさらに追求しながら、お客様のご要望にお応えしてまいりたいと考えております。

素材技術

材料技術に関して、簡単にご説明申し上げます。
材料の特性を支配する要因は数多くございますが、それを整理すると次のようになります。材料のさまざまな特性は、ケミカルな組成とフィジカルな構造の2つによって、ほぼ決まります。組成としては、主組成(主成分)と微量の添加物が決め手となります。また、微細構造としてはグレインサイズ(結晶粒径)、あるいは粒界のケミカルな性質、およびそれに大きな影響を及ぼす焼成条件が挙げられます。ひとつの材料に関して、これらの因子の組み合わせは無限に存在します。TDKがこの材料技術をコア技術のひとつとして位置づけていますのは、長年の歴史の中でこれらに関するノウハウを蓄積してきたこともございますが、順列組み合わせでは無限になる実験を、有限数で材料の改善あるいは新材料の開発できる力が、まだあるからだと考えております。
シミュレーション技術やコンピュータ技術の進んだ現在においても、焼結電子材料あるいは部品材料の世界は、完全には計算できない世界です。この世界で開発のノウハウを保有していることが、TDKのコア技術のひとつではないかと考えます。

プロセス技術

次に、プロセス技術についてご説明します。
プロセス技術とは、製品を形づくるための成形技術、焼成技術、加工技術のことです。成形技術を例に申し上げますと、顆粒成形に代表される粉末成形技術がございますが、これは、ミリメートルレベルの成形・制御を行うものです。薄層シートを積層し、コンデンサやインダクタを作る、いわゆる厚膜成形技術では、マイクロメートルレベルの成形・制御がなされています。
さらに、中野Deputy G.M.からご紹介申し上げましたHDD用ヘッドの製品群におきましては、薄膜成形技術により、ナノメートルレベルの成形・制御を行っております。電子部品では、常に軽薄短小化が要求されております。したがいまして、プロセス技術もミリからマイクロ、マイクロからナノへと移行してまいります。これらの技術すべてを保有していることが強みとなるように、それぞれの技術を深めてまいりたいと考えております。

電子機器が増えるとTDK製品も増える

現代を担うエレクトロニクスおよび情報産業分野では、磁性材料と半導体材料が車の両輪をなすと、材料の世界ではよく言われています。磁性材料は、これらのエレクトロニクスを支えるためになくてはならないもので、半導体の増加に比例して増加してまいりました。
例えば、すべての電子機器には直流電源が必要とされます。良質の直流電源を供給するものとしてスイッチング電源がございますが、エネルギー変換素子に最適な材料として、酸化物磁性材料であるフェライトが挙げられます。現在のところ、フェライトに代わる材料はございません。ということで、フェライト製品ですら、今後も十分に増加するという予測がなされます。したがいまして、磁性製品分野で高付加価値市場での先行優位性を確保すること、並びに既存市場でのあくなき競争優位性を追求することに努力をしてまいりたいと考えております。

小型高効率電源を支える材料技術

TDKの材料技術あるいはプロセス技術の実際の例を、いくつかご紹介いたします。
ハイブリッド自動車あるいは燃料電池車用の電源は、TDKの持つ評価・シミュレーション技術と材料技術を組み合わせることによって実現されております。効率、コスト、ノイズ、信頼性、および発熱の特性のバランスを、高い次元で取ることが求められるため、磁気回路の最適化を含めた評価・シミュレーション技術を駆使しております。
車載用電源を極限まで高効率化するためには、トランスの低損失化が必須となりますが、TDKでは材料技術を駆使して、100℃以上の高温においても飽和磁束密度が非常に高く、かつ損失の非常に低い材料をすでに開発しております。この第3世代の電源は、第1世代の電源に比べて損失が約半分にまで低減しております。また、温度特性に関しても、温度依存性の非常に小さな、フラットな材料にすることができます。
このような電源回路設計技術、トランス設計技術、フェライト材料技術を組み合わせることによって、付加価値の高い製品を提供できることがTDKの強みではないかと考えております。このような強みを生かして、ハイブリッド自動車あるいは燃料電池車用の電源では、トップシェアを持っております。

世界最小*サイズチップバリスタ

次に、材料の微細構造の改善によって、特性を圧倒的に改善、向上した例として、バリスタをご紹介いたします。
バリスタは、静電気による電子機器の破壊を防止するために用いられる素子で、特にチップバリスタはポータブルあるいはモバイル機器の入出力コネクタ部に数多く用いられております。TDKでは、得意とする材料技術・プロセス技術を駆使して、世界最小*サイズのチップバリスタを開発・保有し、モバイル機器小型化のトレンドと静電気からの保護という、2つのご要望に同時にお応えしております。
このZnO-Pr系バリスタ材料は、サージ電流通過によっても特性がほとんど変化しません。保有するさまざまなプロセス技術を駆使して、従来のバリスタとは桁違いに微細で緻密なセラミックス構造を実現しております。また、チップコンデンサの製造等で培われてきた高精度の積層技術を応用しています。このようなTDKのコア技術を活用した結果として、TDKのチップバリスタは世界のトップレベルにあります。

*2003年5月7日現在TDK調べによる

フェライトマグネット

次に、現在開発中の材料についてご紹介いたします。フェライトマグネットです。フェライトマグネットは、エレクトロニクスの発展と共に、飛躍的に生産量が増えてきた材料のひとつです。現在は自動車をはじめとして、さまざまな分野でモーターの材料として使われております。特に、最近の省エネルギー等の動きの中で、高性能磁石に対するニーズは高まる一方でございます。
TDKは、保有する材料技術をもとに、従来のフェライトマグネットの理論限界に迫る材質FB9材を、数年前に世界に先駆けて開発し、モーターの小型・軽量化に貢献してまいりました。現在、生産がどんどん増えていますが、市場の要求はさらに高性能なものをということでございます。したがいまして現在、従来のフェライトの理論限界を超える高特性の材料を開発すべく鋭意努力をいたしております。非常に難易度が高いものですから、いつまでに開発しますということは残念ながら宣言できませんけれども、なんとしても近いうちに開発を成功させて、モーターの小型化に貢献してまいりたいと考えています。

ナノ技術活用のHDD用ヘッド

最後にご紹介いたしますのは、現在のTDKを支えているHDD用ヘッドでございます。非常にアグレッシブな技術開発によって記録密度は飛躍的に高まっており、そのスピードは半導体のムーアの法則をしのぐ勢いでございます。
このHDD用ヘッドでは、特徴のあるナノプロセス技術と、高度な磁気シミュレーション技術を駆使して開発を行っております。GMRおよびTMRヘッドは、より高い感度を得るために、ナノメートルオーダーの磁性層あるいは非磁性層を多層積層して作られております。もっとも薄い層では、原子数十層程度の非常に薄い成膜を必要とします。また、非常に高い記録密度を実現するために、ライトポール幅を狭くすることが必要ですが、現在のTDKの技術では、75ナノメートルという非常に微細な加工が可能になっております。これは、最先端の半導体微細加工幅よりも微細で、TDKのプロセス技術の結晶でもあると考えております。
さらに、HDD用ヘッドをスライダやサスペンションと高精度にアセンブルして市場に製品を提供しておりますが、このアセンブルにおきましても、ミクロンの単位よりも微細な超精密アセンブルを実現しております。

以上、いくつかの例をご紹介いたしましたとおり、TDKはコア技術である材料技術、プロセス技術、並びに評価・シミュレーション技術をさらに深めると共に、それらを大いに活用して社会に貢献してまいりたいと考えます。
以上で説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。