

TDKのDX化を支える、独自のマテリアルズ・インフォマティクスとは?
近年、AIやビッグデータを活用して、材料・素材開発を高効率化するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が世界的に注目を集めています。磁性材料フェライトの事業化を目的に設立されたTDKは、材料・素材技術をコアテクノロジーとしており、2013年からMIの取り組みを進めています。そこで開発されたのが、AIデータ分析ソフトウェア「Aim」です。TDKのDX化を進めるAimの取り組みや将来の展望についてご紹介します。
材料開発のDX化、マテリアルズ・インフォマティクス
世界中のメーカーで、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の取り組みが加速しています。従来より材料開発は、技術者の知見やノウハウに基づき、実験やシミュレーション計算を行い、得られたデータの解析を行うことで進められています。当然、時間もコストも人員も必要となります。しかし、AIが材料の特性や性能を予測できれば、新規材料の探索の大幅な高速化やコスト削減が可能で、まさに材料開発のDX化と言えます。
マテリアルズ・インフォマティクスの考え方

TDKのDX化を進めるAIデータ分析ソフトウェア「Aim」
材料・素材技術をコアテクノロジーとしているTDKにとって、その発展は創業以来の命題です。MIの取り組みも2013年頃より進めており、可変磁束磁石という新規磁石材料の開発や、高周波材料の損失予測などを行っていました。そうした中で着目したのが、TDKが持つ業界屈指の多種多様な製品ラインアップです。TDKは創業以来、製品一つひとつに独自の材料・素材技術を開発し、併せてデータ解析技術を蓄積してきました。しかし一方で、その技術は各事業部や各部署の中で蓄積され、全社に展開する点において課題がありました。
そこで、各部署に蓄積されたデータ解析技術を誰にでも使いやすいように広く全社に展開すること、AIやビッグデータ活用で必要となる良質なデータを集積することなどを目的として、2018年に開発したのが、AIデータ分析ソフトウェア「Aim」です。Aimは「粒子解析」「データ解析」「画像解析」「物体検出」といった機能を有し、画像やデータを取り込むだけで、簡単に解析が可能なソフトウェアです。データを蓄積すればするほど進化していき、ビッグデータになれば、従来よりも数倍から数十倍のスピード(高効率)で新材料を開発できる可能性があります。
AimのWEB画面

1時間かかっていた粒子解析を数秒で!AIデータ分析ソリューション
Aimは、海外拠点を含むTDKの従業員が無料で使用できるツールとして、2019年に社内イントラネットでWebアプリとして公開されました。Webブラウザからアクセスでき、PCからAimのデータベースへのデータ格納はドラッグ&ドロップで、誰でも簡単に行えることが特長です。また、カスタマイズがしやすく、TDKが手掛ける幅広い製品それぞれの材料・素材開発に適した仕様にできることも強みです。その結果、多くの従業員が使用しており、続々とデータが蓄積されています。
現在、Aimを用いた材料開発では、実験データや画像解析データなどの客観的なデータと、材料開発者の知見やひらめきに基づくパラメータをAimに入力することで、熟練者と同じような手順でデータを解析し、人が行うよりも安定した結果が得られるようになりました。例えば、マグネット材料の粒子解析における粒子サイズ解析では、粒子と粒子の境界(粒界)が不明瞭な場合、これまで手作業で画像1枚当たり30~60分をかけて粒界を記入する必要がありましたが、Aimでは粒界の位置を予測して数秒で解析可能です。
Aimの使用例:粒子解析

Aimの運用によってMIを推進し、社内DXを実現する
TDKは、データ解析やデータベースなどの機能拡充を実施し、MIを活用する仕組みが整ったことから、MIにおけるAimの運用を2023年4月から開始しました。まずは国内の研究部門で運用し、その後は国内外の各拠点に広く展開していく予定です。そして、運用を通じて効果を検証しながら、今後もより効率的なMIの仕組みづくりを継続していきます。
将来の展望について、Aimの開発者であり運用・推進を行っているTDK技術・知財本部 応用製品開発センターの山田貴則室長と、マテリアルズ・インフォマティクス推進の担当者である同・材料開発センターの梅田裕二室長に伺いました。

「Aimは社内の利用者の声を集める事で少しづつ使いやすいツールにしてきましたが、まだまだ発展途上です。多くの意見をいただいていると共に、私自身もやりたいことがたくさんあります。マテリアルズ・インフォマティクスをはじめとして、データ活用の場はたくさんありますので、より使いやすく、便利になるよう改善を継続していきます。」(山田貴則室長)

「Aimも含め、マテリアルズ・インフォマティクスは道具です。この道具を使うことにより材料開発の加速が期待でき、結果としてTDKの材料技術はより大きく発展すると信じています。そして、この道具を上手く使いこなすために材料技術者はより一層重要になります。開発活動のDX化に向け、MIの仕組み構築や定着に向けた活動を進めてまいります。」(梅田裕二室長)
TDKは、Aimの運用などにより材料開発に関わる社内DXを進めることで、MI推進を加速させます。そして、独自の材料・素材技術を進化させ、価値ある製品と技術で社会に貢献していきます。

山田貴則(左)
技術・知財本部 材料研究センター 第5材料研究室 室長
梅田裕二(右)