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TDK、リアルタイム学習が可能なアナログリザバーAIチップのプロトタイプを開発

  • 北海道大学とリザバーAIチップのプロトタイプを共同開発
  • エッジデバイスでのリアルタイム学習が可能
  • アナログリザバーAIチップを用いたデモ機をCEATEC 2025に出展

2025年10月2日

TDK株式会社(社長:齋藤 昇)は、小脳を模倣したアナログ電子回路を用いたリザバーAIチップのプロトタイプを北海道大学と共同で開発しました。CEATEC 2025では、当該アナログリザバーAIチップの特徴であるリアルタイム学習機能と、TDKの加速度センサと組み合わせたデモ機を展示します。

リザバーコンピューティングは、時間的に変化する(時系列変化)情報を低消費電力で高速に処理可能な計算モデルです。リザバーコンピューティングと対比する概念として、ディープラーニングモデルがあります。近年のAIの発展やビッグデータの活用により、膨大なデータの演算処理や電力消費の増大という課題が顕在化し、生成AIの急速な普及によってAI処理はクラウド依存が進んでいます。従来のディープラーニングモデルは、「入力層」「中間層」「出力層」から構成されます。入力層で情報を最初に受け取り、中間層で様々な計算を膨大に行います。最終的には出力層で学習結果が示されます。その中間層が多いほど複雑な計算(~数兆個)ができますが、その結果として膨大なデータの演算処理が発生し、電力消費の増大とレイテンシが発生します。

一方、リザバーコンピューティングは「入力層」「リザバー層」「出力層」から構成されます。リザバー層では必ずしも計算を必要とせず時間的に伝播する自然現象を利用します。例えば、入力層では複数の水面の波という自然現象を入力値とします。その次のリザバー層では水面の波の伝搬や波が互いに干渉した結果を出力層に送ります。最後の出力層でリザバー層の状態を適切に読み取り、水面の波がどう動いたかという特徴を推論します。リザバー層では自然現象の結果を送るのみで、計算の必要がないため、学習時に調節するパラメーター数が大幅に少なく、低消費電力で高速に情報処理することが可能です。そのため、アナログリザバーAIでは大規模な演算処理を必要としない一方、高速処理が求められるロボットやヒューマンインタフェースなど、エッジでの個別の状況に応じた情報処理が必要なタスクでの活用が期待されています。 従来、リザバーコンピューティングデバイスの実用化は難しいとされてきました。それは、リザバーコンピューティングがディープニューラルネットワークのような万能なAIではなく、時系列変化情報処理に特化したAIであるためです。また、デジタル計算でリザバーコンピューティングデバイスを実現すると低電力の恩恵を得るのが困難であるとともに、物理現象を利用したリザバーコンピューティングデバイスにおいても、電力消費や高速処理の用途を検討できるほどの具体的なデバイスがなかったという背景がありました。

CEATEC 2025で出展するデモ機は、リザバーコンピューティングによって実現した、ユーザーが「絶対に勝てないじゃんけん」です。じゃんけんを出し終わる前に指の動きを判断して勝つ手を先に出します。じゃんけんにおいては指の動きに個人差があり、次に何を出すかを正確に判断するためにはその個人差をリアルタイムで学習する必要があります。本デモ機を体験者の手に装着して指の動きを加速度センサで計測し、アナログリザバーAIチップにおいてじゃんけんで何を出すかというシンプルなタスクをリアルタイムで高速に処理し、ユーザーが「絶対に勝てないじゃんけん」を実現します。今回開発したプロトタイプチップを用いたデモで1つのユースケースを示したことにより、リザバーコンピューティングへの幅広い理解を獲得し、市場でエッジAI向けリザバーコンピューティングデバイスの製品化が加速することを期待しています。

TDKは社会問題の解決への提案としてTDKのスピントロニクス技術で大脳を模倣したニューロモルフィックデバイスを2024年に発表しました。今回はアナログ回路、センサ及び電子部品などの様々な物理現象で小脳を模倣したリザバーコンピューティングを発表します。ニューロモルフィックデバイスは複雑な計算を低消費電力で計算するのに対し、リザバーコンピューティングデバイスはじゃんけんのような時間的に変化する情報に特化し、センサデータを直接扱うエッジのような超低電力の製品で低消費電力と高速計算を実現します。今後当社は、北海道大学と連携してリザバーコンピューティングの研究を更に進めるとともに、当社のセンサシステムズビジネスカンパニーやエッジ領域でのセンサソリューションビジネスを展開するTDK SensEIと連携してシナジーを生むことで、AIエコシステム市場の発展に貢献します。

TDK株式会社について

TDK株式会社(本社:東京)は、エレクトロニクス業界のグローバルテクノロジー企業であり、イノベーションリーダーを目指しています。 ブランドアイデンティティの新しいタグライン「In Everything, Better」のもと、TDKは生活、産業、社会のあらゆる側面でより良い未来の実現を目指しています。90年にわたり、「創造によって文化、産業に貢献する」という社是に基づき、TDKは電子機器の中から世界の発展に貢献してきました。先駆的なフェライトや時代を象徴するカセットテープにはじまり、最先端の受動部品、センサ、バッテリーによってデジタル時代でつながる世界を支え、サステナブルな未来への道を切り拓いています。TDKのベンチャースピリットによって融合することにより、世界中の情熱的なチームメンバーが、私たち自身、お客様、パートナー、そして世界のためにより良いものを追求しています。TDKの最先端技術は、産業用途、エネルギーシステム、電気自動車からスマートフォンやゲーム機まで、あらゆるものに活用され、現代生活の中心にあります。
TDKの多様で最先端の製品ポートフォリオには、受動部品、センサおよびセンサシステム、電源、リチウムイオン電池や全固体電池、磁気ヘッド、AIおよびソフトウェアソリューションなどがあり、その多くが市場をリードしています。製品ブランドとしては、TDK、EPCOS、InvenSense、Micronas、Tronics、TDK-Lambda、TDK SensEI、ATLがあります。現在、TDKはAIエコシステムを重要な市場と位置付け、自動車、ICT、産業機器分野におけるグローバルネットワークを活用し、幅広い分野で事業を拡大しています。2025年3月期の売上は約2兆2,050億円、従業員総数は全世界で約105,000人です。

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技術の詳細情報は  https://www.tdk.com/ja/featured_stories/entry_083-analog-reservoir-computing-AI-chip.html で参照できます。

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担当者 所属 電話番号 Email Address
伊藤 TDK株式会社
広報グループ
+81 3 6778-1055 TDK.PR@tdk.com