新長期ビジョン、マテリアリティ特定
重要課題(マテリアリティ)は企業価値向上を企図し、社会と企業の両サステナビリティの同期化の考え方を採用し、財務マテリアリティ(TDKにとって重要な事項)とインパクトマテリアリティ(ステークホルダーにとって重要な事項)から構成されています。財務マテリアリティとインパクトマテリアリティを導出した上で、両者を精査しマテリアリティを選定しました。選定したマテリアリティについては、経営会議での審議の上で決定し、その内容を取締役会へ報告しました。長期ビジョンを実現するために、組織の経営資源を最優先で割り当てるべき経営課題として捉え、本格的に取り組むこととしています。
有識者からの主なご意見・提言
優れたフレームワークが構築できたが、実践を踏まえて臨機応変に見直すことも重要
日戸 興史氏
日戸興史事務所
(元オムロン株式会社 取締役 執行役員専務 CFO 兼 グローバル戦略本部長)
従来のTDKのマテリアリティは、CSR重視の観点で設定されていました。今回の見直しを通じて、TDKグループの中長期での企業価値向上に資するものとするために、社是・社訓を体現した長期ビジョンの実現に向けた重要領域としてマテアリティを明確に位置付けたことで、TDKが目指すものがステークホルダーにとってより理解しやすくなりました。策定プロセスにおいても、社内外のさまざまなステークホルダーの観点を網羅的に捉えた上でTDKがこだわるものを絞り込んでおり、見習うべきことが多いと感じます。
マテリアリティで掲げた課題は、ありたい姿と現実のギャップといえます。今後は、「課題を解決することで本当に長期ビジョンが実現できるのか?長期ビジョン達成のために十分な内容になっているか?」「課題をすべて実行する必要はあるのか?」とった問いを常に持ち続け、ビジョン達成のために必要十分な取り組みに進化させていくことが求められます。取り組みを進める中で、不足があればマテリアリティを追加したり、あえて優先順位付けをするなど、変化対応することも必要になるかもしれません。また、今後は現場での実践が重要になりますが、現場ではこれまでも多くの課題解決に懸命に取り組んできていますから、新マテリアリティへの対応が加わると混乱が生じることも想定されます。従来の活動の中から“Not to do”を明確にし、現場目線で実行可能なものに整理をすることで、新マテリアリティへの取り組みに集中できるようにするのもマネジメントの役割といえます。
TDKが企業価値経営への進化を始めたという点で、今回の体系整備は評価に値します。ぜひ他社の規範となるレベルまで昇華させ、成果に結び付けてほしいと願っています。
KPIと「持続的に稼ぐ力」を
結びつけ、長期戦略実現の
実行力としてほしい
松原 稔氏
りそなアセットマネジメント株式会社 常務執行役員
責任投資部担当
新マテリアリティの全体構成は、上段にバックキャスト的発想による価値協創の領域として「事業活動による価値創造と競争力優位の確立」を置き、下段に事業を支えるものとして「未来を構想し実現する経営基盤の強化」を配する形で、わかりやすく整理されていると感じました。TDKのDNAを起点に、これから目指すものや大切にすべきものが枠組みに組み込まれ、そこから新たな事業領域を展開しようという姿勢には納得感があります。また、マテリアリティが長期戦略にも接続されている点にも投資家として好印象を持ちました。
この先重要になるのは、どのようにKPIを設定するかです。投資家は、将来のキャッシュフローをマテリアリティを通じてどう生み出していくのかという観点で、TDKの今後を注視していくはずです。ですからKPIの設定にあたっては、TDKらしさを盛り込むことはもちろん、全体戦略の中でのKPIの位置付けを明確にした上で「企業の持続的に稼ぐ力」にどう生かされるのかという点を明確に説明することが重要となります。さらに、もしKPIが稼ぐ力につながらなかった場合、何がボトルネックになったのかを検証し、それを次のプランにどう生かすのかを示すことも求められます。KPIを的確に設定することにより、TDKのマテリアリティが「神棚に飾って終わり」という象徴的なものに留まらず、実効性をともなうものとして機能するようになると期待しています。
また近年、経営者はダブルマテリアリティかつコーポレートバリューの観点を強くしていますが、資本市場や投資家はシングルマテリアリティかつエンタープライズバリューの考え方を有しています。ですから、双方のギャップを埋められるよう、インパクトマテリアリティをうまく融合した形での説明をしながら、適切なコミュニケーションを図ることも必要となるでしょう。
強いコミットメントと具体的な指標・管理手法に
基づいた、着実な取り組みに期待
水口 剛氏
高崎経済大学
学長
TDKの新しいマテリアリティは、財務およびインパクトの要素を統合して14のマテリアリティテーマが導かれており、精緻な分析による整理がなされていると感じました。長期的な競争力の維持を主眼としてこうしたマテリアリティを設定することに異存はありません。一方で、最先端の投資家の観点は“Investing for sustainability impact”であり、企業価値を生み出す源泉となる地球・社会というフィールドそのものに投資しなければ結局は企業の財務価値を守れない、という考え方もあります。新マテリアリティには、気候変動・人権の要素等も含まれていますが、それらに対してTDKのコミットメントを示せるとなおよいでしょう。
人的資本・DE&I・ウェルビーイングは経営の基盤であると同時に社会課題としても重要なテーマです。個々の企業の努力が社会にインパクトを与え、それが企業に跳ね返ってくる性質のものだからです。特に、DE&Iをマテリアリティに掲げて取り組んでいくには、どのような指標を掲げ、どんな方法で管理していくのかが重要となります。少子化が進む背景には女性の働きやすさや子どもの持ちやすさ等の課題が潜んでいるため、TDKグループ全体でジェンダー・ペイ・ギャップを縮小させる必要があるでしょう。性別関係なく同じペースで昇進し、女性の管理職比率が高まれば、ギャップは発生しなくなるはずです。
事業の面では、CO2削減に貢献できる製品を他社に先駆け供出できることが、TDKの競争力の源泉と捉えています。日本で市場が拡大しているGX分野や、中国企業が強さを発揮している太陽電池事業などにも参入できる可能性が高いため、定性的なストーリーを打ち出して社会的にアピールするとともに、サプライチェーン上の人権課題などに対しても積極的な取り組みを期待しています。