日本最古の
大学由来
ベンチャー企業の
一つであるTDKが、
なぜ日本(東京)に本社を置くグローバル企業として
今も成功しつづけているのか。
売上高2兆円*、
チームメンバー(従業員)数10万人*を
超える
世界屈指の電子部品メーカーに
成長したTDK。
その歴史は日本で最も古い
大学由来のベンチャー企業の一つとして
小さな工場から始まる。
創業者・齋藤憲三は『創造によって
文化、産業に貢献する』という
社是を生み出し、
彼の開拓精神のもと、
今日まで革新的な製品を
世の中に提供している。
中でも世の中に大きな価値をもたらした
7つの事業と挑戦があり、
それらを紐解くことで、
今なお成長をつづけるTDKの原動力を
探っていく。
*2023年3月期
TDK Venture Spirit
Episode #1
カセットテープ
音楽用カセットテープで一世を風靡したTDK。
その成功を生み出したのは、
TDKのDNAである
ベンチャースピリットであった。
*本コンテンツはCNN International Commercial とのパートナーシップで制作しています。
成功の音:
一企業がいかにしてカセットテープと音楽業界を変えたか
TDKの技術革新による
カセットテープは、
音楽業界に変革をもたらし、
私たちの生活に永続的な影響を
残した。
1960年代、音楽録音専用に製造されたカセットテープの誕生は、私たちを取り巻く音の世界に変革をもたらした。東京電気化学工業として知られていたTDKは、1935年に斎藤憲三によって日本で設立され、この技術を大きく発展させることとなった。同社は当初、幅広い用途に使用できる磁性材料であるフェライトの市販化に注力していた。
TDKの事業部門が携わっていたのが、主にラジオ放送局向けの音声録音に使われていた磁気テープの生産。ニッチな市場であり、需要が限られていたこの分野は、TDKにとって採算が合わないものであり、当時のゼネラルマネージャーであった大歳寛は、業績の改善かテープ事業の閉鎖かの二者択一を迫られた。しかし、大歳は事業の可能性を諦めず、音楽の録音に使えるカセットテープの開発を発案したのだ。
革新のシンフォニー
この構想を実現するため、大歳らはフェリックス・メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64を正確にテープに録音するという目標を掲げた。幅広い音域を特徴とするこの協奏曲を高音質で録音することができれば、家庭用カセットテープの改革に成功したことになると考えたのだ。
しかし、一般的な磁気テープは幅が3.81mmしかなく、メンデルスゾーンの協奏曲を高音から低音まで全音域録音するには、幅が不十分だった。この問題を打開するために研究を重ねた結果、研究チームはテープ上に微細な磁性体を配置し、テープの保存能力を高めることで、広い音域の録音が可能になるという結論にたどり着いた。
世界を変える製品を作りたいという強い意志に駆られた大歳らは、高純度の微粒子を製造する技術を持つ日本企業に声をかけた。両社による共同技術革新により、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の壮大さを余すところなくカセットテープに収めることができる、微細な針状磁性体が開発されたのだった。
天文学的飛躍
TDKはこの針状磁性体を使い、日本初となる音楽録音用カセットテープを発売。さらに海外での評価と成長を見据えた同社は、深い音楽の歴史と強いこだわりを持つ市場であるアメリカでの発売に踏み切った。
カセットテープが普及する以前、音楽の録音は蓄音機のレコードやオープンリールに頼っており、大型で高価な機材を必要としていた。それがコンパクトで持ち運びやすいカセットテープに録音できるようになり、音楽業界は大きなパラダイムシフトを迎えたのだ。
カセットテープは瞬く間に音楽業界のヒット商品となった。この媒体の爆発的人気に伴い、大手家電メーカーはTDKを含む新興のカセットテープ対応の機器を相次いで開発し始めた。1968年にニューヨークで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)での成功を受け、TDKはNASAからアポロ11号にカセットテープを提供する依頼を受け、このミッションで月面にも進出したのだった。
一方地上では、TDKは音楽録音の音質を向上させる高音質磁性材料「スーパーアビリン」を開発し、業界のさらなる進歩を遂げていた。世界的な需要の高まりに応えるため、TDKは世界初のテープ一貫生産工場を設立。最先端のロボット技術を駆使し、カセットテープをわずか0.5秒で組み立てる合理的な生産ライン「IPS (Ideal Production System)」を構築した。この高度で効率的な生産システムにより、TDKは世界中の聴衆にカセットテープを提供できるようになり、聴衆は好きな曲をいつでもどこでも楽しめるようになったのだ。
世界的価値を生み出す
TDKの革新的な取り組みは、芸術としての音楽、そして産業としての音楽にとって画期的な出来事だった。以前は一部の熱心な音楽ファンしか聴くことができなかったメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のような壮大な交響曲も、TDKのカセットテープの登場により誰にでも身近なものとなったのである。
同社が世界的に有名なカセットテープメーカーになるまでの道のりには揺るぎないベンチャースピリットが色濃く表れている。音楽録音用カセットテープの革新は、創造性と専門知識だけでなく、画期的な製品を生み出すために業界パートナーと協力し、オープンな姿勢をとることで実現可能となったのだ。
TDKは、製品設計への先見的なアプローチ、オープンイノベーションの重視、世界中のユーザーを念頭に置いた製造と販売への先駆的な取り組みによって、ただの帯状の磁気テープを音楽の代名詞となる製品へと変貌させた。TDKの理念であるベンチャースピリット、すなわち大胆な探究精神と顧客重視の革新的な姿勢は、世界をより良い方向へと変えることを目指す新たな分野や製品開発にとって、原動力となり続けている。