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世界初、次世代AIに向けてデータ通信速度を10倍にする超小型光電融合素子「Spin Photo Detector」を実証

  • 従来の半導体を用いた光検知の10倍にあたる800nmの波長の光で20ピコ秒の超高速応答
  • 独自コンセプトで光を検知する磁性デバイスを開発し、近赤外光と可視光ともに検知可能
  • 基礎物理研究の実績を有する日本大学と共同で動作実証に成功
  • 更なるAI進化によるデータ処理速度向上と消費電力削減を期待される光電融合技術に応用可能

2025年4月15日

TDK株式会社(社長:齋藤 昇)は、波長800nmの光を20ピコ秒 (20×10-12秒)という超高速で光を検知できる素子「Spin Photo Detector(スピンフォトディテクタ)」を開発し、日本大学と共同で、世界で初めて*原理実証に成功しました。これは従来の半導体を用いた光検知素子と比較して10倍以上の反応速度です。AI進化によるデータ処理速度向上と消費電力削減という社会課題の解決が期待されている光電融合(Photoelectric Conversion)分野において、スピンフォトディテクタは重要なデバイスとして応用可能です。

AIの更なる進化には、これまで以上に膨大なデータを高速且つ低消費電力で転送する必要があります。現在、データ処理や演算を行うCPUやGPUのチップ間、それらとメモリの間の通信は電気信号で行われています。通信速度としては高速且つ配線距離が長くなっても通信速度が低下しない光通信や光配線の必要性が増していますが、それら光学素子と電子素子を融合させてコンパクトに実現する手段として、光電融合技術が世界中で注目されています。

こうした課題に対して、当社はHDD用磁気ヘッドで培った、電子と磁性を組み合わせたMTJ素子というスピントロニクス素子の技術を応用しました。このスピントロニクス素子の大きなメリットの一つは、単結晶基板を用いた結晶成長を必要とせず、基板材料を選ばずデバイスを形成できることです。これは、従来の光検知素子(Photodetector)が半導体単結晶基板を必要とし、それらの直上に形成しなければならないとは対照的です。この要素は複数技術の融合をコンパクトに実現する必要がある光電融合分野においては大きなメリットとなるため、MTJ素子での光検知するスピンフォトディテクタというコンセプトを提案し、実験を行ってきました。
スピンフォトディテクタが用いる動作原理は、電子加熱という超高速で磁性材料が光に応答する物理原理を応用します。この物理現象に関して世界で先駆的な基礎研究実績のある日本大学との共同開発を行い、波長800nmの光を用いて超高速光パルスを照射し、20ピコ秒 (20×10-12秒)という超高速でスピンフォトディテクタが応答することを実証しました。従来の半導体光検知素子(Semiconductor Photodetector)では、波長が短くなるほど高速動作が困難になるという物理原理上の制約がありますが、スピンフォトディテクタでは動作原理が全く異なり、電子加熱現象を用いるため、波長が短くなっても超高速動作が可能です。また、動作波長領域も広く、可視光から近赤外光まで動作することを確認しました。
可視光の高速検知も可能となったことにより、今後ますます成長が期待されるAR/VR用スマートグラス向けのデバイスの応用([1], [2])や、高速撮像素子などの応用も将来的には期待されます。また、従来の半導体光検知素子は宇宙線耐性が弱いという課題があることに対し、MTJ素子は宇宙線耐性が強いことでも知られており、航空宇宙用途での光検知素子としての活用も期待されます。今後、本成果をもとに高速の光検知素子としての完成度を高め、有用性をさらに追及し、社会のトランスフォーメーションに貢献していきます。

* 2025年4月現在、TDK調べ
[1] https://www.tdk.com/ja/news_center/press/20221013_01.html
[2] https://www.tdk.com/ja/news_center/press/20241009_01.html

用語集

  • AI: Artificial Intelligence
  • Photoelectric Conversion: 光電融合。光素子と電子素子をコンパクトに組み合わせる技術のこと。
  • Photo-Spintronic Conversion: 光電磁融合。光素子、電子素子、磁性素子を組み合わせた、TDKの造語。
  • HDD: Hard Disk Drive
  • CPU: Central Processing Unit
  • GPU: Graphics Processing Unit
  • Spin: 磁性を意味する用語
  • MTJ: Magnetic Tunnel Junction
  • AR: Augmented Reality
  • VR: Virtual Reality

主な用途

  • データセンター、生成AI用光通信・光配線の受光素子
  • AR/VR用光検知素子

主な特長と利点

  • 従来の光検知素子が半導体素子であるのに対し、磁性素子であるMTJ素子を用いて光検知を実現
  • 超高速で光検知可能。
  • 近赤外光から可視光まで、広波長領域で超高速光検知可能
  • 基板を選ばず、色々なデバイス上に作成可能。
  • データセンター、生成AI用光通信・光配線や、AR/VRといった分野への展開が可能

TDK株式会社について

TDK株式会社(本社:東京)は、スマート社会における電子デバイスソリューションのリーディングカンパニーを目指しています。 独自の磁性素材技術をそのDNAとし、最先端の技術革新で未来を引き寄せ(Attracting Tomorrow)、社会の変革に貢献してまいります。
当社は各種エレクトロニクス機器において幅広く使われている電子材料の「フェライト」を事業化する目的で1935年に設立されました。主力製品は、積層セラミックコンデンサ、アルミ電解コンデンサ、フィルムコンデンサ、インダクタ、フェライトコア、高周波部品、ピエゾおよび保護部品等の各種受動部品をはじめ、温度、圧力、磁気、MEMSセンサなどのセンサおよびセンサシステムがあります。さらに、磁気ヘッドや電源、二次電池などです。これらの製品ブランドとしては、TDK、EPCOS、InvenSense、Micronas、Tronics、TDK-Lambdaがあります。
アジア、ヨーロッパ、北米、南米に設計、製造、販売のネットワークを有し、自動車、産業電子機器、コンシューマー製品、そして情報通信機器など幅広い分野においてビジネスを展開しています。2024年3月期の売上は約2兆1,030億円、従業員総数は全世界で約101,000人です。

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技術の詳細情報は
https://www.tdk.com/ja/about_tdk/innovation/spin-photo-detector/index.htmlで参照できます。

報道関係者の問い合わせ先

担当者 所属 電話番号 Email Address
神野 TDK株式会社
広報グループ
+81 3 6778-1055 TDK.PR@tdk.com