サプライチェーンにおける人権対応を考える

サプライチェーンにおける人権対応を考える

実施日:2017年4月14日

2015年3月にイギリスで成立した「現代奴隷法」など、サプライチェーンにおける人権問題に関連した法制化の動きが世界で加速する中、グループの海外生産高比率が8割を超えるTDKにとって国際潮流を踏まえた対応が不可欠です。サプライチェーンにおける人権対応でTDKに求められる役割について、2名の外部有識者を招いた勉強会を開催しました。

人権対応の最前線を学ぶ

今回の勉強会では、グローバルな人権問題への知見の深いSustainavision Ltd.の下田屋 毅氏および、CSR調達を長年現場で推進してきた株式会社エナジェティックグリーンの和田征樹氏を講師としてお迎えしました。TDKからは、担当役員2名を含む5名が出席しました。
TDKでは、企業倫理綱領において「人権尊重」を掲げるとともに、購買取引においても人権・労働環境などに配慮し、社会的責任を果たしていくことを定めています。
2016年度には、CSR重要課題の一つ「サプライチェーンにおける社会・環境配慮」の中で、3つの重要テーマを設定し、取り組みを強化してきました。また、「現代奴隷法」の成立を受け、2016年8月には「TDKグループ人権ポリシー」を策定し、その取り組み状況を開示しています。
今回の勉強会は、これまでの取り組みを今後に向けてさらに深化させていくため、具体的に何に留意していくべきかを、外部視点を得て見つめ直し、共通理解を深めることを目的に開催。下田屋氏と和田氏の講演では、それぞれの専門的見地から、人権配慮のためグローバルに進む法整備の状況、各地で確認されている強制労働や児童労働などの実態、東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、日本と日本企業のサプライチェーンに世界的な注目が集まる事実などが紹介されました。講演を受けた意見交換の場では、グループ会社全体にさらにCSRを浸透させるにはどうしたらよいか、サプライヤーからの理解を得られにくい場合はどう対応すべきかなど、TDK出席者との活発な議論が交わされました。

有識者からの主なご意見・提言1

業界団体やサプライヤー、買収先とのコミュニケーションのもと透明性の高いサプライチェーンマネジメントを

下田屋 毅氏

Sustainavision Ltd.
代表取締役
下田屋 毅氏

2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認されて以降、人権尊重のための国際的なガイドラインなどが相次いで発表され、各国で人権関連の情報開示、またサプライチェーンの人権問題を確認、報告させる法制化が進み企業に取り組みを促しています。またEICC(電子業界CSRアライアンス)など国際的なイニシアチブも活発化しており、TDKとして国際的に業界他社と協働する取り組みが今後求められるでしょう。昨今重視されるのは、サプライヤーと協働でCSR調達の仕組みをつくり上げることです。また透明性を高めるため、サプライヤーを公開する企業も増えつつあります。自社の国際的な事業構造とサプライチェーンを把握した上で、カントリーリスクなどの公開情報を参考にリスクの把握、優先順位をつけるなど人権デューディリジェンスの取り組みを進めていくことが今後必要となります。またCSR調達の推進上、M&Aの買収先との積極的なコミュニケーションが欠かせず、その先進的事例があれば、ノウハウを得てグループ内へと展開していくことも大切です。

有識者からの主なご意見・提言2

人権問題に対応できる仕組みを前もって構築した上で現場の労働者の声に耳を傾けたマネジメントが重要

下田屋 毅氏

株式会社エナジェティックグリーン
共同代表取締役
和田 征樹氏

サプライチェーン上の労働管理を企業に求める法令が、欧米を中心に次々と制定されており、サプライチェーンの一部で強制労働が行われた製品は輸出入が禁じられるなど、すでにビジネスへの実質的な影響が広がっています。問題が発生すれば、株価への影響や、メディア・NGOからの指摘は避けられず、常に各ステークホルダーの視点に立ち、調達を考えていかなければなりません。また、法令やガイドラインは重要ではありながら「それさえクリアすればよい」という姿勢では本筋を見誤ります。サプライヤーの監査では、書類のチェックは必須ではあるものの、それ以上に労働者の声を直接聞くことが欠かせません。取引先従業員のホットラインを設けるなど、問題があれば直ちに察知できるような仕組みづくりも有効です。サプライヤーの理解が進まない場合、製造業にすでに浸透している「5S活動」などの延長線で話せば納得感を得られやすいでしょう。職場の人権問題は、人のオペレーションが関わる部分での品質不良にもつながりやすく、品質管理との関連性で理解を求めていくことも一案です。

意見交換会を受けて

小林 敦夫

TDK株式会社
専務執行役員
SCM&経営システム
本部長
小林 敦夫

グローバルな潮流やさまざまな具体的事例を伺い、サプライチェーン上で強制労働などがもたらすリスクの大きさをあらためて実感しました。リスクを把握しあらかじめ備えることで、万一サプライヤーで問題が起きた際にも迅速に対処できるものだと思います。さらに、的確な人権対応によって先進的企業として競争力を高めるなど、リスクをチャンスに変えていくことが非常に重要だと感じました。法律やガイドラインに捉われすぎることなく、それを超えた高い次元で「あるべき姿」を目指し取り組んでいきます。

桃塚 高和

TDK株式会社
執行役員
法務・コンプライアンス
本部長
桃塚 高和

世界中に広がるサプライチェーンの確認は容易なことではありませんが、まずは全体での仕組みの把握が欠かせないと再認識しました。その上で対応すべきリスクの優先順位をつけ、方針を定めてPDCAを回し、実効性のある取り組みを推進していかなければなりません。積極的なM&Aを進める中では、異なる風土や労働慣行を持つ企業もグループに加わってくるため、人権デューディリジェンスを確実に行い、TDKの理念やDNAをしっかりとグループ全体で共有することで、財務・非財務を合わせた本当の成長へとつなげていきたいと思います。