なるほどノイズ(EMC)入門

【部品編③】LCフィルタのパフォーマンス

高周波電流を通しやすいコンデンサと、通しにくいインダクタ(コイル)がコンビを組むと、特定の周波数で振動する共振回路となります。高周波ノイズを選択的に除去するLCフィルタの原理も、この共振回路と基本的に同じもの。積層チップタイプのLCフィルタは、各種電子機器の高性能化と小型・軽量化、そしてノイズ対策にも、大きく貢献しています。

混信問題を解決するために発明された同調回路

レーシングカーや機械の調整のことをチューニングといいます。これはもともと楽器の調律(チューニング)からきた言葉。ギターなどの調律に使われる音叉は、英語ではチューニング・フォーク(tuning fork)と呼ばれます。ギターの弦を巻き上げて調律していくとき、音叉が出す一定周波数の音に近づくと“うなり”が生じます。このうなりが消えると、周波数がぴったり一致して同調したことになります。

離れた音叉どうしの共鳴も、同調現象の一種です。コンデンサとインダクタ(コイル)を組み合わせると、特定の周波数と同調する共振回路ができます。LCフィルタも同じ原理により、ノイズを含む周波数帯域を選択的に減衰させる。

ラジオやテレビのチューナーは、信号を乗せた特定の搬送周波数と同調させるための回路です。コンデンサとインダクタを組み合わせた初の同調回路は、無線通信の黎明期である19世紀末に、イギリスのロッジによって発明されました。初期の無線通信機には、まだ同調回路がありませんでした。しかし、無線局が増えるにつれ混信に悩まされるようになり、交信相手を特定するために同調回路が必要とされるようになったのです。
同調回路を理解するのに、手っ取り早いのは鉱石ラジオです。鉱石ラジオとは、受信アンテナ、同調回路、ダイオードと同じ作用する鉱石検波器、そしてレシーバからなる最もシンプルなラジオです。電波のエネルギーによってレシーバから音声を出すので電源も不要。真空管ラジオが発明されるまで、ラジオの主流として世界中で使われました。

鉱石ラジオではコンデンサとインダクタを並列(あるいは直列)に組み合わせた同調回路が挿入されます。ラジオ放送の選局には、コンデンサの容量を連続的に変化させるバリコン(バリアブルコンデンサ)が使われました。コンデンサの容量を一定にして、インダクタのコアをスライドさせて同調させるタイプもあります。これはミュー同調器と呼ばれます。

共振現象を利用したLCフィルタ

同調回路は共振回路とも呼ばれます。コンデンサは直流電流を流しませんが、交流電流に対しては周波数が高くなるほどリアクタンス(交流における抵抗)が小さくなってスムーズに流れるようになります。また、このとき交流電流の位相は90°進むという性質があります。
一方、インダクタは直流電流をスムーズに流しますが、交流電流に対しては周波数が高くなるほどリアクタンスが大きくなって流れにくくなります。また、このとき交流電流の位相は90°遅れるという性質があります。 鉱石ラジオにおいて、流れる電流の周波数を上げていくと、並列結合したインダクタとコンデンサに流れる電流値が同じになるところがあります。これが共振周波数です。しかし、前述したようにインダクタとコンデンサの位相は180°ずれているため、互いに打ち消しあい、並列回路には電流が流れなくなります。このため、同調した周波数の電流だけが鉱石検波器を通過し、レシーバから音声を再生することになるのです。

インダクタとコンデンサを組み合わせた共振回路はフィルタにもなります。フィルタとは濾過器という意味で、入力信号の中からある特定の周波数帯域の信号を通過させ、残りの周波数帯域の信号を減衰させて除去する役目をもつ回路です。
フィルタは大きく次の3タイプに分類されます。
ローパスフィルタ(LPF) : 低い周波数帯域を通過させ、高い周波数帯域を減衰させる
ハイパスフィルタ(HPF) : 低い周波数帯域を減衰させ、高い周波数帯域を通過させる
バンドパスフィルタ(BPF) : ある周波数帯域を通過させ、それより低い周波数帯域と高い周波数帯域を減衰させる

ノイズ発生状況に応じた3端子フィルタの使い分け

信号ラインを伝わって侵入するノイズの除去に使われるフィルタは、一般に信号ライン用ノイズフィルタと呼ばれます。コンデンサ単体でも低周波成分を減衰させたり、インダクタ単体でも高周波成分を減衰させることができます。しかし、インダクタとコンデンサを組み合わせることで、ある周波数(カットオフ周波数)から急峻な減衰特性をもつフィルタをつくることができます。これをLCフィルタといいます。正反対の性質をもつコンデンサとインダクタのコンビは、ノイズ除去においても絶妙なパフォーマンスを繰り広げるのです。
電子機器における伝導ノイズの伝わり方には、ディファレンシャルモードとコモンモードがあります。信号はディファレンシャルモードなので、同じディファレンシャルモードのノイズが信号に重畳すると除去するのが困難になります。そこで、フィルタによって要所要所で除去しておかねばなりません。このようなノイズは一般に信号よりも高い周波数帯域にあるため、ノイズフィルタとしてはローパスフィルタが多く用いられます。インダクタとコンデンサを1つの部品内部で組み合わせたLCフィルタとして3端子フィルタがあります。入力端子、出力端子、グラウンド端子の3端子からなることからの命名です。
3端子フィルタは回路構成の違いにより各種タイプがあり、用途やノイズの発生状況に応じて、これらを使い分ける必要があります。とりわけ重要なのは、入出力側のインピーダンスと接続個所のインピーダンスをできるだけ等しくすることです。インピーダンスがミスマッチングとなった状態では、高周波電流の反射が生じてノイズ成分となったり、通過したパルス波形が歪んだりします。
コンデンサとインダクタを1チップに混成集積したのが、積層チップタイプの3端子フィルタです。誘電体、フェライト、電極など、異なる材料を連続的に積層して製造されるため、材料設計や焼成プロセスなどにはきわめて高度な技術・ノウハウが要求されます。TDK独自の“異素材同時焼成技術”などを駆使した積層チップタイプの3端子フィルタは、スマートフォンやタブレット、デジタルテレビなど、各種電子機器の高性能化と小型軽量化に大きく貢献しています。また、低消費電力化に対応した電源ライン用の巻線タイプなど、豊富な製品をラインアップしています。

ノイズ対策効果のグラフの見方

基本的なことですが、LCフィルタなどによるノイズ対策効果を表すグラフの見方について、簡単に解説します。
ノイズ対策効果を表すグラフには、横軸を周波数として、縦軸をインピーダンスで表す方法、および挿入損失(インサーション・ロス)や減衰量(アッテネーション)で表す方法があります。

インピーダンスで表す方法:インピーダンス-周波数特性を表します。一般にグラフは高周波側でピークをもつ山型のグラフとなります。高周波になるほどインピーダンスは高くなり、山型グラフのピークで、最もノイズ抑制効果が高くなります。

挿入損失で表す方法:回路にノイズ対策部品を入れた場合の出力電圧と、入れない場合の出力電圧の比をデシベル(dB)表示でグラフ化したもの。インピーダンスで表す方法と逆の関係にあり、通常、高周波側でピークをもつ谷型のグラフとで表されます。高周波になるほど挿入損失が大きくなる=ノイズ抑制効果(減衰特性)が高くなります。
挿入損失をデシベルで表すと、出力電圧比と次のような関係があります。

《挿入損失》 《出力電圧比》
0デシベル     1
20デシベル   1/10
40デシベル   1/100
60デシベル   1/1000
たとえば、挿入損失が20デシベルというのは、ノイズ対策部品の挿入により、出力電圧は10分の1に減衰することを意味します。減衰量(アッテネーション)も、挿入損失とほぼ同じ意味で使われます。

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