電気と磁気の?館

No.62 電源ラインからノイズの侵入と流出を防ぐEMCフィルタ

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

マルコーニに先駆けた日本人工学者の無線通信実験

 無線通信を実用化したのはイタリアのマルコーニです。ヘルツの電磁波の研究に触発されたマルコーニは1895年、無線通信機を製作。1899年にドーバー海峡、1901年には太平洋を隔てた無線通信にも成功しました。あまり知られていませんが、このマルコーニの無線通信に先立つ1885年、日本の工学者が無線通信の実験を試みています。イギリスに留学して、ケルビン卿(W・トムソン)の指導を受け、帰国後、工部大学校(東京大学工学部の前身)電気科教授となった志田林太郎です。
 この通信実験は、隅田川の水面を導電体として利用したもので、電磁波を用いたものではありませんが、その後の日本の電気通信の発展に大きく貢献することになりました。また、志田林太郎は無線通信のみならず、TVや録音機、録画機などのシステムを予見した天才的工学者でした。マルコーニの実験を知ることもなく、1890年に34歳という若さで死去しましたが、彼の研究は逓信省や日本海軍などに受け継がれ、20世紀初頭には日本でも独自開発の無線通信が実用化。日露戦争の日本海海戦(1905年)においては、海軍が開発した36式無線通信機が艦船に装備され、勝利へと導く一因となりました。「…本日、天気晴朗ナレド、浪高シ」という有名な電信は、この無線通信機によるものです。
 当時の無線通信の送信機は、火花放電にともなって発生する電磁波を利用したものです。技術的に難しかったのは受信機で、コヒーラと呼ばれる検波器が搭載されました。当初、コヒーラとしてはガラス管に金属粉を入れたものが使われました。金属粉はバラバラ状態の高抵抗で直流電流は通しませんが、電磁波(高周波の交流電流)を受けると互いに密着して低抵抗になり、電流を通すことを利用したものです。しかし、いったん電磁波を検知すると通電状態になってしまうため、金属粉をバラバラに戻すために、ガラス管を電鈴のハンマーでたえず叩くような機構も取り入れられました。日本の逓信省の無線通信機では、水銀式コヒーラが考案されて利用されました。これは、金属粉のかわりに油と水銀を入れたガラス管を回転させるしくみの検波器です。

 

■ 無対策のままでは電源ラインはノイズの伝送路

 ラジオのそばで電子ライターをつけるとブツッという雑音が入ったりします。着火素子の火花放電にともなって発生する電磁波によるものです。こうしたノイズは、さまざまな周波数のノイズが混合されたもので、ホワイトノイズ(白色雑音)といいます。ラジオでダイヤルを回して選局するときに聞こえる“シャー”という音もホワイトノイズです。初期の火花式無線機は、このようなノイズ電波をモールス信号として放射することで交信していたため、無線電信が普及するにつれ、混信の問題が発生しました。
 真空管の利用が始まり、同調回路やフィルタ回路などが考案されてからは、無線通信技術は急速に発展しました。さらに、20世紀後半には、真空管にかわってトランジスタやIC、LSIが利用され、通信方式もアナログからデジタルへとシフトしました。この1世紀あまりにおける通信技術の発展は目覚ましいものがあります。しかし、その一方で、高速・高周波化、動作電圧の低電圧化などにより、電子機器はノイズの影響を受けやすくなりました。身の回りには、火花放電によるノイズのほか、パルス性ノイズ、サージ性ノイズなど、さまざまなノイズにあふれていて、電子機器の誤動作の原因となったりします。
 実際、マイクロエレクトロニクス革命が進んだ1980年代には、産業用ロボットが暴れだしたり、ゲーム機によって電車の運行障害が起きたり、自動ドアが突然開いたりなど、ノイズが原因とみられるトラブルが多発しました。このため、電子機器は外部からのノイズへの耐性をつけるとともに、自らもノイズ発生源とならないような措置が講じられるようになりました。これをEMC対策といいます。
 ノイズには空間を伝わってくる放射ノイズと、電源ラインや信号ラインを伝わってくる伝導ノイズに大別されます。放射ノイズは距離に逆比例して強度が低下しますが、伝導ノイズは無対策のままでは、さほど減衰しないままに侵入してきます。AC電源を利用する電子機器では、電源ラインがノイズの伝送路となるため、EMCフィルタによるノイズ対策が不可欠となります。

 

 

■ ディファレンシャルモードとコモンモードのノイズ電流をシャットアウト

 伝導ノイズには、ディファレンシャルモード(ノーマルモードともいう)とコモンモードの2タイプのノイズがあります。ディファレンシャルモードのノイズとは、信号電流と同様に1本の導線を往路、もう1本の導線を復路として伝導するノイズです。かたやコモンモードノイズ電流というのは、床などを通じて電子機器に侵入してくるノイズで、往路・復路に関係なく、同方向に流れます。
 電源ライン用EMCフィルタは、コンデンサやチョークコイルなどを組み合わせ、ディファレンシャルモードとコモンモードの両方のノイズを抑制するノイズフィルタです。まず、ディファレンシャルモードノイズ電流を除去するため、往路・復路の導線間をつなぐようにコンデンサが挿入されます(チョークコイルが併用される場合もある)。次に、コモンモードフィルタ(コモンモードチョークコイル)によりコモンモードノイズ電流を除去します。コモンモードフィルタは、フェライトやアモルファスなどのコアに2本の巻線をほどこした素子。2本の巻線は同じ方向に巻かれるため、コモンモードノイズ電流によってコア内部に生じる磁束も同方向となり、磁束は強めあい、大きなインダクタンスを示し、コモンモードノイズ電流の侵入を阻止します。さらにはコンデンサによって、阻止できなかったコモンモードノイズ電流をグランド側に逃がします。
 定格電流やノイズの周波数帯、ノイズ抑制のレベルの違いなどにより、電源ライン用EMCフィルタには多種多様かつ用途・目的に応じた、最適機種が選択されます。あまり目立たない存在ですが、これなしにはノイズ環境が悪化して、電子機器が安全に機能しえないような重要な電子部品。NC工作機械やマシニングセンサ、医療機器、通信・放送機器など、さまざまな分野で活躍しています。身近には、デスクトップパソコンの背面のACソケットにも、小型の電源ライン用EMCフィルタが格納されています。これはインレットソケット型と呼ばれます。TDKの電源ライン用EMCフィルタは、さまざまな電子機器で活躍しています。

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