電気と磁気の?館

No.63 リニアモータとマグネット

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

水平離陸・水平着陸する夢の宇宙往還機“スペースプレーン”

航空母艦では航空機を離陸させるときに、カタパルトという射出装置が使われます。空港の滑走路よりも短い甲板でも、離陸に必要なスピードが得られるように、蒸気圧や油圧、電磁力などでアシストするのです。伸ばしたゴムの力で、紙飛行機を飛ばすのと似ています。もともとカタパルトとは“投石器”という意味で、石粒を飛ばすゴムパチンコも小型カタパルトです。
 宇宙往還機の発射に、リニアモータのカタパルトを利用しようという構想もあります。ロケットの重量の90%以上は燃料が占めています。スペースシャトルは、航空機のように滑空して地上に戻るとはいえ、打ち上げには巨大な燃料タンクと2本の固体燃料ロケットが必要です。また、燃料タンクは使い捨てであることなど、あまり効率的とはいえません。
 そこで、巨大なジェットコースターのようなスロープをつくり、リニアモータ駆動のカタパルトで宇宙往還機を射出しようというもの。補助ロケットは小さなものですむので、運航コストも大幅に低減できます。これは、リニアカタパルトとか宇宙カタパルトなどと呼ばれます。射出には短時間で大電力を必要とするので、超電導コイルを利用した蓄電システムの利用も構想されています。1980年代の日本で提案されたアイデアですが、技術的な問題がクリアされたとしても、難点は巨大なスロープの建設コスト。何しろ東京スカイツリーの3倍あまりにも及ぶ高さ2,000m超の構造物となるからです。そこで、アメリカNASAでは地上のレール上を磁気浮上しながら速度を高めて、離陸するリニアカタパルトも構想しています。実現のカギを握るのは、超音速で推進するスクラムジェットエンジンと、軽くて耐熱性と強度にすぐれた機体材料です。リニアカタパルトを利用した水平離陸・水平着陸の宇宙往還機“スペースプレーン”が実用化されると、宇宙もぐんと身近なものになるにちがいありません。


 

 

■ 時速500kmで東京-大阪を1時間で結ぶリニア中央新幹線

 JR東海のリニアモーターカー(通称“マグレブ”)に正式な建設指示が出て、東京-大阪間を約1時間で結ぶリニア中央新幹線として、構想段階から実施段階に入りました。リニアモータは東京メトロの大江戸線など、一部の地下鉄などで実用化されています。これは推進力にリニアモータを利用したもので、レールの上を車輪で走行します(テクの雑学 第160回 大規模に本格化してきた、リニアモーターカーをみてみよう!)。
 かたや、JR東海のリニアモーターカーが世界的にも注目されているのは、超電導磁石を利用した磁気浮上式だからです。重い車体を約10cmも持ち上げるには強力なマグネットが必要で、車体側には超電導磁石が搭載されます。超電導磁石はニオブ・チタン合金のコイルです。これを液体ヘリウムで冷却すると、電気抵抗がゼロの超電導状態となるので、大電流を流しても発熱ロスなしに強力なマグネットとなります。
 超電導磁石とともに、磁気浮上のキーテクノロジーとなるのはコイルです。コイルに向けて磁石を近づけたり、遠ざけたりすると、電磁誘導により、その運動を妨げる向きに、コイルに起電力が生まれて磁束が発生します。いわば“押さば押せ”“引かば引け”という関係です(レンツの法則)。磁気浮上式リニアモーターカーは、これをたくみに利用したもの。ガイドウェー側壁には推進コイルとともに、浮上コイルが設置されています。この浮上コイルは8の字型にひねった構造となっているところがミソ。電磁誘導によってコイルに流れる電流は、8字の下の輪と上の輪では逆向きになります。このため、車体の走行とともに超電導磁石からの磁束が近づくと、下の輪は反発力が、上の輪は吸引力が作用して車体を磁気浮上させるのです。したがって、停止状態では浮上せず、推進コイルのリニアモータでタイヤ走行によってスタートして、ある程度のスピードが出たところで磁気浮上するしくみです。

 

 

■ 産業機器で活躍するリニアモータ

 乗り物用ではないリニアモータは、半導体の製造装置や搬送装置など、産業分野でも広く活躍しています。直線的(リニア)に運動するモータなので、“位置決め”や“送り”機構などにうってつけなのです。
  可動物を直線運動させる装置として、従来は回転モータとボールねじを組み合わせたものが使われてきました。これはボルトをモータで回転させると、ナット側が直線的に動くことを利用したもの。摩擦の少ない滑らかな動きが得られるように、ボルト・ナットのねじ溝に、小さなボール(ベアリング)を入れていることからボールねじと呼ばれます。しかし、ねじを利用したメカニックな機構のため、高速・高精度な位置決めやロングストロークには限界があり、またグリースの飛散といった問題も発生します。リニアモータはボールねじのこうした弱点をクリアできるので、産業機器の位置決め装置などに多用されるようになりました。左右(X軸)および前後(Y軸)の2次元の位置決めができるXYステージ(XYテーブル)にも利用されています。
 リニアモータの動作原理は難しいものではありません。回転式のモータを切り開いて展開すると、直線的(リニア)な駆動力を得るリニアモータとなります。リニアモータにもさまざまなタイプがありますが、位置決め装置などに用いられるのは、強力なネオジム磁石(TDKの製品名は“NEOREC”)とコイルを組み合わせたLSM(リニア同期モータ)と呼ばれるタイプ。コの字型のステータの断面に、ネオジム磁石を敷き並べ、その隙間を可動コイルがスライドするしくみです。数mにも及ぶロングストロークの位置決めも、ネオジム磁石のハイパワーにより高速・高精度にこなします。半導体製造装置ばかりでなく、印刷機や露光機、顕微鏡、各種計測機器などにも活用されています。

 

 

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