電気と磁気の?館

No.64 無線通信技術と自動車のトランスポンダ

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

SF作家のアイデアを実現した静止衛星による国際通信システム

 国際電話ばかりでなくテレビ中継なども、通信衛星によって世界のどことでも容易に実現できるようになりました。衛星を赤道上空3万6,000kmの地点に打ち上げると、地球の自転と同じく24時間で1周するので、地上からは衛星が静止しているように観測されます。これを静止軌道といい、そこに打ち上げられる衛星を静止衛星といいます。
 『2001年宇宙の旅』などの作品で知られるSF作家のアーサー・C・クラークは、静止軌道の重要性にいちはやく気づいていた1人です。1945年、彼は静止軌道上に3つの静止衛星を等間隔で配置して通信電波をリレーすることで、地球全体をカバーする通信網が構築できることを指摘しました。世界初の人工衛星スプートニクが、旧ソ連によって打ち上げられたのは1957年。その12年前に現在の衛星通信システムを予測したわけで、なかなかの卓見でした。ただ、アーサー・C・クラークは、この静止衛星は通信士が乗り込む有人の宇宙ステーションのようなものを構想していたと、のちに述懐しています。無線通信技術やコンピュータの驚異的な進歩までは、予測できなかったようです。
 初の静止通信衛星の商用機、インテルサット1号が打ち上げられたのは1965年。以来、静止軌道には通信衛星ばかりでなく、放送衛星、気象衛星など、数多くの静止衛星が送り込まれました。
 電波は光の速度で伝わりますが、静止衛星までの往復距離は地球2周近くもあるため、電波の遅延の問題が生じます。また、静止衛星を回収・修理することは技術的・コスト的に困難です。そこで、ロケットによる打ち上げなしに、静止衛星のような機能を実現する成層圏プラットフォームも構想されています。地上約20kmの成層圏に遠隔操縦で無人の飛行船を浮かべて、通信電波や放送電波を中継したり、地球観測などに役立てようというもの。日本全域をカバーするには、複数の飛行船が必要になりますが、静止衛星のような電波の遅延もないうえ、出力も小さくすみ、遠隔操縦で地上に回収・再利用できるなどのメリットがあります。技術的な課題はおおかたクリアされていて、実用化に期待が寄せられています。人が乗り込めるようになると、気軽な成層圏ツアーも実現するかもしれません。


 

 

■ 電波中継機“トランスポンダ”は自動車にも使われる

 通信衛星において、重要な役割を果たすのがトランスポンダという電波中継機です。トランスポンダとは、トランスミッタ(送信機)とレスポンダ(応答機)の合成語。地上からの受信電波を、太陽電池の電力で増幅して、地上に送り返す役目をもつ通信衛星や放送衛星のキーデバイスです。
 航空機にもトランスポンダが搭載されています。飛行場のレーダーはアンテナから電波を放射し、航空機の機体で反射した電波をキャッチします。レーダーは機影をとらえるだけで、どの航空機かを識別することはできません。しかし、航空機に搭載したトランスポンダとの電波のやりとりにより、おのおのの航空機を識別してディスプレイに表示することができます。これによって、ひっきりなしに飛来する航空機に、適切な指示を出すことができるのです。これはATCトランスポンダと呼ばれます。
 近年の自動車は電子キーの採用により、ボタン操作によってドアを開錠・施錠したり、エンジンを駆動できるようになりました(キーレスエントリー、キーレススタート、スマートスタートなどと呼ばれる) 。この電子キー(スマートキー、インテリジェントキーなどと呼ばれる)にも小さなトランスポンダコイルが内蔵されていて、イモビライザと一体化されたシステムとなっています。
 イモビライザ(immobilizer)とは、“動かす”という意味のモビライズ(mobilize)に否定の接頭辞(im)がついた語で“動かなくするもの”、つまり盗難防止用の装置を意味します。
 従来の自動車キーは、同じ鍵山に機械的に削ることで合鍵が簡単に作れました。このため盗難も絶えなかったわけですが、イモビライザシステムはキー側のIDコードと車両側のIDコードが一致しないとエンジンがかかりません。キーに埋め込まれたトランスポンダコイルと、車両側のキーシリンダに装着されたアンテナコイルを通じた電波のやりとりで、暗号化されたIDコードの照合が行われるからです。Suicaなどの非接触ICカードなどと同様のRFIDシステムの1種です。

 

■ 小型化と高信頼性を両立させたTDKのトランスポンダコイル

 自動車用のトランスポンダコイルはTPMS(タイヤ空気圧監視システム)にも利用されています。自動車タイヤの空気圧の不足はパンクやタイヤ破裂などの重大事故を引き起こすおそれがあり、また燃費にも大きく関係しています。タイヤの空気が抜けた自転車では、ペダルをこぐのに体力をよけいに消耗するのと同様に、転がり抵抗が大きくなって燃費を悪くするからです。しかし、自動車はエンジン駆動のために、見た目でも運転していても空気圧の不足はわかりません。そこで、センサで空気圧を検知して異常をモニタ表示するのがTPMS。米国では2007年9月から新車への装備が義務づけられました。
 TPMSには、間接式と直接式の2タイプがあります。ABSなどではタイヤの回転数をセンサで検出していますが、これを利用するのが間接式。タイヤの空気圧が減っていくと、タイヤの直径がわずかながら小さくなるので、前後左右の車輪の回転数に差が生まれます。これを車速センサで検出して、タイヤ空気圧を間接的に算出するシステム。低コストで実現しますが、検出精度が高くないことと、それぞれの車輪の空気圧を単独で検出できないのが短所です。
 直接式は、タイヤホイール内のリムモジュールに内蔵されたトランスポンダコイルが、車体側からIDコード、測定開始等の情報を受信(125kHz)します。また、タイヤの空気圧、温度等の情報はUHF帯(300MHz)で車体側へ送信され、別のアンテナコイルが使用されています。
 自動車用のトランスポンダコイルは、磁性体のコアに巻線をほどこしたアンテナコイル。アンテナコイルのコアといえばフェライトが欠かせません。高特性フェライト材や完全モールド構造などの採用により、小型化・高感度化と振動・落下・衝撃などにも耐える高信頼性を両立させたのがTDKのトランスポンダコイル。自動車用のみならず、補聴器対応の携帯電話など、身近な無線デバイスにも応用可能なアンテナコイルです。

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