

#32脳がだまされている?
~さわり心地のお話~
「五感」と聞くと、視覚(しかく)や聴覚(ちょうかく)をイメージする人は多いかも?
でも、意外と忘れられている(?)「触覚(しょっかく)」も、大事な感覚の1つ。
目や耳といった一部の器官で感じる視覚や聴覚に比べて、
触覚はからだ全体がさわり心地を感じることができるセンサーなんだ。
今回は、触覚と脳の深~い関係についてもふれていこう!
登場人物

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お父さん…「もちもち」は、ちょっと理解できないよ。
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それにしても、同じものを触っているのにみんな感じ方が違うだなんて不思議。
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ウォッホン! そもそも、さわり心地を共有するのは難しいとされていてだな…ごにょごにょ。
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ふーん。 確かに「熱い」「冷たい」などの温度も人によって感じ方が違うものね。 どんな仕組みになってるのかしら?
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よーし! 今回は、その「さわり心地」について詳しく見ていくぞ~!
「さわり心地」って、ナンダ?
ものをさわったときの感覚「触覚(しょっかく)」は、人によって違うのかな?
その謎にせまるべく、今回はさわり心地を感じる体の仕組みについてふれていこう!
(実際には、ふれられないけど・・・)
私たちの皮膚(ひふ)はセンサー?
皮膚には、さわり心地を感じるセンサーみたいな働きをする仕組みが備わっている。
これを「触覚受容器(しょっかくじゅようき)」という。
物をさわると、ここから脳に信号が送られる。
信号を受け取った脳は、「温度」「かたさ」「凹凸(おうとつ)」などに加えて、
さわったもののふるえや動きも感じることができる。
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センサーの感度は、場所によってバラバラ。
触覚のセンサーが特に敏感(びんかん)なのが、
口 (※特にくちびる)と 手(※特に指先)。
赤ちゃんが何でも口に運んでしまうのは、
未発達の指や目だけではなく、敏感な口のセンサーも使って、
無意識に新しい情報を得ようとしているからだ。 -
脳がだまされる? 触覚の錯覚(さっかく)ご紹介
トリックアートみたいな目の錯覚はとても有名だけど、
実は触覚を使った錯覚もある。
ここではその錯覚をご紹介!
ベルベットハンド
テニスラケットのような網(あみ)状のものを、開いた両手ではさむ。
両手を同時にゆっくりすべらせると、なぜか手がすべすべに感じる。
ブッダの耳
2人1組になる。片手で相手の耳たぶを程よく引っぱり、
もう片手は、そのまま耳が下に伸びていくかのようにリズムを合わせて動かす。
すると、なぜかひっぱられている人は、耳が伸びたように感じる。
サーマルグリル錯覚
温かいものと冷たいものを並べて同時にふれる。
そうすると、温度が違うものに触れているのに、なぜか両方熱い物体にふれたように感じる。
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脳だって、だまされる?
人間の脳は、感じている情報の全部を感じたまま処理しない。
「これがこう動いている(見えている)から、そのあとはきっとこうなるはず……」
「ここにこれがあるってことは……、きっとあれに違いない!」
「この形は、あれっぽいな…」
と、先回りをして予想することで、脳は効率よく働いている。錯覚の中には、そのような“経験豊富な脳”のおせっかいによって
引き起こされるものもある。
脳の予想が裏切られると「えっ!違ったの?」と不思議な感覚や
ちょっとした気持ち悪さを感じることになる、
この感じ方を上手く利用しているものがトリックアートだ。 -
錯覚の仕組みは、実はいまいち解明されていない!?
触覚の錯覚は実際にあるけれど、
実はその細かなメカニズムが解明されておらず、分かっていないことも多い。
でも、この仕組みは脳の働きを知る上でとても重要。
細かな脳の働きが分かれば、活用することだってできるはず!
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最新の科学技術を使っても、触覚の不思議ってまだ全部解明されてないんだね。
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その理由の1つとして、「他人への伝えにくさ」があるんだよ。
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そっか。さわり心地を表す言葉ってたくさんあるし、 人によって使い方も違うかもしれないもんね。
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…BUI~?(…で、僕はすべすべなの〜?それともつるつるなの〜?)
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そう、そこで登場するのが「デジタル信号」なんだね。
「触覚」を使ったハイテク技術たち
感覚を伝えるのは難しいけど…?
見たもの・聞いたものに比べて「さわり心地」って、他の人と共有するのは難しい。
でも、センサーが得た感覚を電気信号にすれば、同じ感覚を再現できるはず。
さわり心地を共有できれば、言葉にしなくてもそのまま伝えられる!
すでに研究は進んでいて、実際に開発されている技術もあるんだ。
ロボットの力加減を人間がサポートする
ロボットは人間と違って、力加減を調整するのがとっても苦手。
例えば、ペットボトルの水を少しずつコップに注ぐ、ポテトチップスをつかむ、など
特に「そーっと」「じわじわ」変化するような力の調整って難しいんだ。
でも、最新技術では触感をデジタル信号に換えてロボットと人間の触覚を共有することで、
お互いにやりとりできるようになりつつある。
ロボットがさわったものの触覚が人間に伝わったり
人間の調整する動作(力加減)を、ロボットにリアルタイムで伝える。
そうすれば、ロボットの力加減を遠くから操作することだってできる。
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えー!そんなことができちゃうの?
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うむ。 この技術が発展すれば、遠くにいてもロボットに細かな作業をさせられるし、 一刻を争う人命救助の場面でもロボットに救命措置をさせることが できるかもしれない。
バイブレーションでナビゲーション?
スマホをブルブル震わせるバイブレーション。
この技術を応用すれば、前や横にひっぱられる感覚を作り出すこともできる。
これは振動の大きさや速さを変えることで、ある方向に引っ張られる感覚をつくるというもの。
このデバイスを利用すれば、
だれでもより動きやすいように、行きたい場所に行きやすいようになるかも。
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なるほど、触覚の錯覚を利用しているのね。
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このような感覚の違和感を上手く利用しすると、こんなこともできるんだ。
さわってないのに「さわってる」?
ときどき駅などで見かける非接触(ひせっしょく)ボタン。
さわらなくてもボタンを押すのと同じ操作ができ、
エレベーターを呼んだりドアを開けたりすることができる。
さらに!
最近の研究では、さわらなくても“押した感覚”をつくることができている。
これだと、直接さわらなくても、押し心地を感じながらボタンの操作ができるようになる。
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どんどん未来的な世界になってくるのね~。
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僕たちが大人になる頃には、 今よりさらに便利な世の中になっているかもしれないね。
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その頃には、私は・・・・。キャー! 老化がこわいわっ!
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おや、なんだかふれてはいけないものにふれてしまったようだね…。
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…みんな、そこは非接触でお願い。
もっと知りたい!「さわって読める文字をつくる」 ~ルイ・ブライユ編〜
考えてみよう
体験してみよう! 触覚の錯覚
本編ででてきた触覚の錯覚。
実は、だれでも簡単に体験することができる。
ここでは、その方法をご紹介。
① 2人組になる。
1人がうでをのばして、目を閉じる。
このとき、うでの内側が上向きになるようにしよう。
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② もう1人は、細長いもの(芯をだしていないペンなど)を用意し、
1人目のうでの2か所を、3回素早くたたく。 -
③ たたかれた人は、どこをたたかれたと感じるかな?
この錯覚の面白さは、上手く刺激できると
実際たたいているのは2か所なのに、なぜが3か所たたかれたように感じてしまうこと。まるで、うさぎがうでの上をぴょんぴょんと飛び跳ねているように
感じられることから「皮膚うさぎ」とも呼ばれる。正式には「感覚跳躍現象(かんかくちょうやくげんしょう)」と呼ばれ、広く研究されているよ。
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皮膚の上に触覚刺激が加えられたとき、
「ものは皮膚の上を動くとき、同じ速さで動くはずだろう」
という脳の認識を利用しているという仮説が立てられているんだ。普段なにげなく動かしている私たちの身体、
そしてその感覚にも人体の不思議や神秘がつまっているんだね。