じしゃく忍法帳

第81回「超電導磁石と電磁推進船」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

未来の船はフレミングの左手の法則で動く?

幕末の日本人を驚かした磁石船とは?

 「泰平の眠りをさます上喜撰(じょうきせん)、たった四はいで夜もねむれず」。1853年(嘉永6年)、アメリカのペリー率いる4隻の黒船が、江戸湾(浦賀沖)に来航したことの驚きを詠んだ狂歌です。上質茶である上喜撰はカフェインを多く含むため、4杯も飲むと目が冴えて眠れなくなってしまうというのが表の意味。実はお茶の“上喜撰4はい”と“蒸気船4はい(来航したのは正確には蒸気船2隻と帆船2隻でした)”とをかけたもので、アメリカからの強硬な開国要求に無為無策の幕府を暗に皮肉っています。

 ちなみに、翌年ペリーが再来航したとき、伊賀忍者の沢村保祐が幕府高官の従者として黒船に乗り込んだと伝えられます。どうやら艦内のようすを探るのが目的だったようで、ローソク、タバコ、文書などが、乗船の証拠品として持ち帰られています。

 ペリーが乗っていた蒸気船は、帆走兼用の外輪船(外車船)でした。外輪船とは船体の左右に水車のような回転輪をつけて推進する方式の船です。しかし、外輪船は内陸の湖や河川、運河はともかく、波の荒い外洋ではあまり効率的でないことがわかってきました。そこで19世紀半ばごろからスクリュープロペラを推進装置とする蒸気船が登場します。幕末の日本ではこの新式のスクリュー式蒸気船を“磁石船(じしゃくぶね)”とも呼んでいました。なぜ磁石船と呼ばれたのか定かではありませんが、このころ船体に鋼が使われるようになったので、磁石が鉄を引き寄せるようすを連想させたのかもしれません。スクリューが水面下にあって見えないので、帆も外輪もなしに航行するのが不思議だったのでしょう。

 

神戸港での航行実験に成功した「YAMATO−1」

 磁力を利用した正真正銘の磁石船といえるのが電磁推進船。1960年代のはじめ、電磁ポンプからヒントを得て考案されたといわれます。磁石の磁界により導電性流体を非接触で駆動するのが電磁ポンプで、鉄鋼や合金の鋳造プロセスなどにも応用されています(第80回「ガラスと磁石」の巻で紹介)。その原理はフレミングの左手の法則です。磁界に直交する方向に電流を流すと、磁界と電流の双方に垂直な方向へ力が作用します。電磁推進船はこの力を推進力とするため、スクリューもモータも不要になるのです。

 この推進力は電流と磁束密度に比例します。つまり強い磁界を発生させ、大きな電流を流すほど推進力も増します。電磁推進方式の初の模型船は1966年、アメリカのウェスチングハウス社で製作されました。しかし、このときは通常の電磁石が用いられたため、十分な推進力は得られませんでした。

 超伝導磁石を利用すれば大きな推進力を得られると考えたのは、神戸商船大学の佐治吉郎教授。1976年に全長1mの世界初の超電導電磁推進船を開発して水槽中での航行実験に成功。1979年には全長3.6mの2号機を開発、基礎研究を積み重ねました。1985年には(財)シップアンドオーシャン財団が超電導電磁推進船開発研究委員会を設置、実用化に向けての研究開発が進められ、1992年には全長30m「YAMATO−1」が開発され、神戸港での海上航行実験にも成功しました。

 「YAMATO−1」では6つの超電導コイル(超電導磁石)を束ねた電磁推進装置を2基搭載しています。おのおのの超電導コイルの内部にはプラスチック管が貫通され、その内面には電極が取り付けられています。超電導コイルから磁界を発生させ、電極から電流を流すと、プラスチック管内部の海水に力が作用し、海水はウォータージェット式に船尾から吐き出されて船が推進するというしくみです。現在、「YAMATO−1」は神戸海洋博物館の野外展示物として公開されています。
 

図1 超電導磁石を用いた電磁推進船の推進原理

“アルキメデスのネジ”に似たヘリカル型の推進装置

 「YAMATO−1」で得られた速度は8ノット(時速約15km)でした。超電導コイル(ニオブ・チタン合金)の冷却には液体ヘリウムが使われるため、装置全体が大型になります。また、磁気漏れを防止するための遮蔽材も必要となるため、どうしても重くなってしまうのです。

 そこで、ヘリカル型と呼ばれる新たな推進装置の研究も進められています。従来型と大きく異なるのは、筒状の電極を採用していること。図2に示すように超電導コイルに囲まれた管の内周が陰極、中心軸が陽極となっていて、中心軸にはらせん(ヘリカル)状の仕切り板が設けられています。

 超電導コイルによる磁界は中心軸方向に発生し、電流は中心軸から内周方向に放射状に流れるため、フレミングの左手の法則に従い、海水には中心軸の周囲を回る方向に力が作用して回転流となります。ところが、らせん状の仕切り板があるため、回転する海水は、らせんを巡りながら船外に押し出されるというしくみです。

 “アルキメデスのネジ”という装置をご存知でしょうか? らせん状のスクリューネジが筒の中に入っていて、スクリューネジを回転させると、下から水が汲み上げられるという一種の揚水機です。江戸初期に日本にも渡来し、竜樋(たつとい)と呼ばれて、佐渡の金山において坑道の排水用にも使われました。ヘリカル型超電導推進装置の機構は、このアルキメデスのネジに似ています。しかし、らせん状の仕切りは回転せず、磁界と電界の相互作用で海水自らが回転するのです。

図2 ヘリカル型電磁推進装置の原理

高温超電導材料によって大幅な軽量化も可能?

 モータやエンジンを必要としない電磁推進船は、回転機構がないため騒音や振動が少ないという利点があります。しかし、電磁推進船ならではのやっかいな問題もあります。海水に電流を流すために海水が電気分解され、電極から塩素などの電解生成物が発生してしまうのです。とりわけ塩素は金属を腐食させ、また大量に発生すると公害にもなります。そこで、電解生成物の発生を抑えるために直流パルス電流を用いたり、交番磁界と同期させた交流電流を用いる研究も進められています。

 スクリュープロペラを用いた従来型の船舶の速度は50ノット(時速約90km)が限界といわれますが、電磁推進船は推進装置を水面下に沈めて波の抵抗を少なくしたりすれば、50ノット以上の高速航行も可能といわれます。10テスラ級の強力な超電導磁石を利用したヘリカル型超電導推進装置では、「YAMATO−1」を大きく上回る推進力が得られることも実験で確かめられています。実用的な高温超電導材料が開発されれば軽量化もいっきに進むかもしれません。

 電磁推進船はLNG船などに好適ともいわれます。積載するLNG(液化天然ガス)を燃料として燃料電池発電を行いつつ、LNGを超電導コイルの冷却源として利用することで、エネルギー効率を高めようというものです。実用化はまだ先の話ですが、電磁推進船は“未来の船”として大きな期待が寄せられています。

PAGE TOP