じしゃく忍法帳

第83回「磁気で加速する飛翔体」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

極限の超高速に挑戦するレールガン

“お庭番”は根来衆の忍者

 天文12年(1543)、種子島に1隻の中国船が漂着しました。乗船していたポルトガル人が所持していた鉄砲2丁を2000両という大金で購入したのは領主の種子島時尭(ときたか)。彼は好奇心とともに先見の明もあったようで、すぐさま刀匠・矢板金兵衛に複製をつくるように命じました。

 刀鍛冶に関しては腕に覚えがある金兵衛でも、どう考えてもわからなかったのは、火薬をこめる銃身部分に蓋をする方法でした。当時、日本にはネジというものがなかったからです。やむなく金兵衛はその技術を教えてもらうため、自分の娘をポルトガル人に嫁がせたと伝えられています。こうして日本に初めて伝えられた鉄砲の複製は、わずか4か月で完成しました。複製とはいえ性能はオリジナルに劣らないものだったといわれます。

 おりしも世は戦国時代。鉄砲の製法は紀州の根来(和歌山県北部)にいちはやく伝えられ、堺(大阪府)や国友村(滋賀県)でも大量生産されるようになりました。

 根来においては根来寺の僧兵や衆徒によって、根来衆(ねごろしゅう)と呼ばれる強力な鉄砲武装集団が組織されました。根来衆は豊臣秀吉により平定されてしまいますが、一部は徳川家康によって召しかかえられ、江戸幕府が開かれてからは、“鉄砲百人組”における根来組として再組織されました。根来衆の中には伊賀忍法を習得したものもいて、将軍直属の隠密(おんみつ)として採用される者もいました。これが時代劇などでおなじみの“お庭番”と呼ばれる忍者です。

 
 

電磁気で弾丸を飛ばす“電気砲”とは?

 当時の鉄砲は銃身にこめた火薬を直火で点火する火縄銃でした。のちに開発されたフリント式(火打ち石式)や雷管式の銃とくらべて、点火方式は原始的ですが、引き金が軽いため熟練すると命中精度はかなり高かったといわれます。また、天下泰平の徳川の世では、鉄砲は島原の乱(1637年)以後、幕末まで実戦で使われることがなく、もっぱら狩猟用だったので火縄銃で十分だったのです。しかし、その間、欧米では産業革命を経て銃器は著しい進歩を遂げ、近代的な大砲も次々と開発されました。

 ジュール・べルヌの小説『地球から月へ』(1865年)では、アルミニウムの砲弾の中に人が乗り込み、巨大な大砲で月に向かって打ち上げるというストーリーになっています。当時は巨大な大砲がもてはやされていたため、こんな荒唐無稽な話も喜ばれたのでしょう。

 火薬ではなく電磁気を利用した“電気砲”という大砲も19世紀に構想されています。磁界方向と垂直に置かれた導体に電流を流すと導体には力(ローレンツ力)が働きます。これは電磁誘導の逆の現象で、左手の親指、人差し指、中指をそれぞれ直交するように伸ばしたとき、人差し指を磁界の方向、中指を電流の方向とすると、親指の向きが力の働く方向となります。有名なフレミングの左手の法則です。

 このフレミングの左手の法則により、強力な磁界と大電流が得られれば、導体を高速に加速して発射する装置がつくれます。これを電磁飛翔体加速装置といい、英語の頭文字をとってEML(Electromagnetic Launcher)と呼ばれます。

兵器より平和利用に活躍するレールガン

 EMLの研究は20世紀初頭から行われ、近くは1980年代のアメリカのSDI(戦略防衛構想)において、ミサイルを迎撃するためのレールガンとしての研究も進められました。

 ミサイルを迎撃する兵器というと物騒に聞こえますが、EMLはフレミングの左手の法則を利用した、原理的にはいたって単純な装置。身近な材料で簡単に実験することができます。図1のように2本の銅棒をレール状に据えて、その下に磁石を敷き並べます。レールの上に短い銅棒を渡し、レールに乾電池から電流を流すと、レール上に渡した銅棒はスルスルと移動していきます。リニアモータに似ていますが、磁力の吸引・反発力で移動するのではなくローレンツ力によって移動します。

 ミサイル迎撃用兵器としての研究は東西冷戦の終結や技術的問題から頓挫したようですが、EMLは宇宙の平和利用に欠かせない装置となっています。

 地球周回軌道に投入された人工衛星が、突然故障して機能を停止することがあります。その原因の一つとしてスペースデブリとの衝突が推定されています。スペースデブリとは、過去に打ち上げられたロケットや衛星の破片などの“宇宙のゴミ”です。重量わずか1gの破片でも、毎秒10kmほどの高速で衝突すると、巨大な破壊力をもつのできわめて危険です。現在、国際宇宙ステーションの建設が進められていますが、宇宙飛行士ばかりでなく、学者や一般人が、宇宙に長期滞在するようになると、これまで以上の安全性が求められます。

 そこで、宇宙機器をスペースデブリの衝突に耐える強度をもたせるために、地上において衝突シミュレーションをする必要があります。しかし、秒速10km以上もの超高速は火薬では無理があるためEMLが利用されるのです。



図1 簡単なEML(電磁飛翔体加速装置)の実験

 

パルス電流で多段ロケット式に加速

 EMLは2本の導体に可動式の飛翔体をはさみこんだ構造となっています(図2)。永久磁石の磁界では不十分なので、導体に大電流(数100万A)を流したとき導体周囲に発生する強い磁界が利用されます。

 ローレンツ力によって加速・発射される飛翔体の速度は、流す電流の2乗に比例します。とはいえ、大電流を流すと飛翔体は電気抵抗による発熱で融解・蒸発してしまいます(図1に示した乾電池利用の簡単な実験でも、銅棒はかなり発熱します)。そこで、スペースデブリの衝突実験に利用されるEMLでは、さまざまな工夫がこらされます。

 その1つは導体で被覆した絶縁体の飛翔体とすることです。電流は飛翔体の本体を流れないので、大電流による融解・蒸発は被覆した導体だけですみます(このため加速された飛翔体は高温・高圧のガスとともに発射されます)。

 また、火薬の爆発力を利用した大砲のように、大電流を加えていっきに加速すると、レールは短くてすみますが、反動も大きくなってしまいます。そこで、パルス状の電流を断続的に加え続ける方式も採用されています。つまり、多段式ロケットのように少しずつ加速していくため反動が小さくてすむのです。

 日本の宇宙科学研究所(ISAS)のEMLは世界でもトップクラスで、現在のところ飛翔体の発射速度は秒速7.8kmにまで達しています(秒速10km以上の超高速の実現に向けた研究も進行中)。スペースデブリから宇宙機器を守る研究だけでなく、高速飛翔体の衝撃圧からエレクトロセラミックスを焼結させる実験など、新工法・新材料の研究開発などにも広く利用されています。
 



図2 レールガンとも呼ばれるEMLの基本構造

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