じしゃく忍法帳

第70回「電気洗濯機と磁石」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

電気洗濯機は家事ロボット

セッケンのない時代には洗濯に灰が用いられた

 昔話の『花咲爺(はなさかじじい)』では、正直爺さんは枯木に灰を振りかけて花を咲かせます。洋の東西を問わず、古くから灰には不思議な再生力があると信じられていました。枯木をよみがえらせるのは無理としても、灰には金属酸化物や金属塩が多く含まれているので、肥料となって農作物をよく育てます。江戸時代には灰を買い集める業者もいて、定期的に灰市(はいいち)も立ちました。

 ある種の草木灰は陶磁器の釉薬(うわぐすり)や染色に使われ、貝を焼いた灰は建材や顔料に使われました。そして忍者もまた灰を緊急の止血薬がわりに利用しました。昔の人は灰に関して驚くほど豊富な知識をもっていたのです。

 灰はセッケンがわりにも用いられました。灰汁はアルカリなので、油汚れを落とすのにある程度の効果があったのです。井戸の水をたらいに汲み、かまどや火鉢の灰を入れ、洗濯をしながらおしゃべりに興じるというのが、江戸時代の主婦の日常的な光景。ここから“井戸端会議”という言葉も生まれました。

 とはいえ手洗いの洗濯は時間がとられ、しかも毎日となると大変です。この重労働から主婦を解放したのは電気洗濯機。当初は業務用でしたが、高度成長期には一般家庭にも普及、かつての2槽式から現在ではスイッチを入れさえすれば洗濯・脱水・すすぎまでこなす全自動式が主流となっています。
 

図1 全自動式電気洗濯機の構造

図1 全自動式電気洗濯機の構造

誘導モータはコンデンサで回転磁界をつくる

 日本の電気洗濯機はパルセータ(回転翼)方式という独特のもの(図1)。洗濯槽の底のパルセータをモータで回転させ、渦巻き水流をつくることで汚れを落とします。「所変われば品変わる」といいますが、アメリカでは洗濯槽が左右に半回転する撹拌式、ヨーロッパでは回転ドラム式(衣類乾燥機のようにドラムを回転させて叩き洗いする方式)が主流です。日本でパルセータ式が開発されたのは、住宅事情とも関係しているようです。パルセータ式は構造がシンプルで小型化でき、狭い室内やベランダにも置けるからです。

 電気洗濯機に使われるモータは、誘導(インダクション)モータと呼ばれる交流モータです。これはステータ(固定子)側の巻線に交流電流を流して回転磁界を発生させ、ロータ(回転子)を回す方式です。

 誘導モータの回転にはコンデンサの電気特性がうまく利用されています。よく知られているように、コンデンサには直流電流は流れませんが交流電流は流れます。ただし、交流電流が流れるときは、電圧よりも90°位相が進みます。つまり、コンデンサを交流につなぐと電圧変化よりも4分の1周期早く変化しながら交流電流が流れることになります。

 この位相のズレを利用して回転磁界を得るのが誘導モータです。4極の誘導モータの回転原理を図2に示します。ロータを取り巻くステータにはL1〜L4の4つのコイルが巻かれています。主巻線(L1とL2)と副巻線(L3とL4)は、それぞれ交流電源と並列に結ばれ、互いに垂直方向の磁界を発生します。つまり、2つの電磁石が直交するように置かれた構造となっています。しかし、磁界が同時に発生すると回転磁界とはならないので、副巻線側には位相をずらすためのコンデンサが直列に挿入されます。図のように交流電圧が(1)の状態にあるときは、コンデンサによって位相が90°進むため、副巻線のほうに大きな電流が流れて磁界が発生します。次に交流電圧が(2)の状態に進むと、今度は主巻線側に大電流が流れ、発生磁界も主巻線側に移ります。こうして、発生磁界は90°ずつ変化するため、それにつられてロータは回転することになります。回転の原理は“アラゴの円板”と同じで、ロータには積層鉄心やカゴ型巻 線などが使われます。

図2 誘導(インダクション)モータの原理

図2 誘導(インダクション)モータの原理

タイムチャートに従ったスイッチ切り替えの仕組み

 初期の電気洗濯機のパルセータは一方向にしか回転しなかったため、洗濯物がよじれてしまうという欠点がありました。これを解消するために登場したのが反転式の電気洗濯機で、リバーシブルモータと呼ばれる誘導モータが使われます。図2の誘導モータにおいては、コンデンサを主巻線のほうに直列接続させると、回転方向は反対になります。そこで、スイッチによってコンデンサの結合を切り変え、容易に反転できるようにしたのがリバーシブルモータです(この場合は主巻線・副巻線といった関係はなくなります)。

 全自動式の電気洗濯機は、スイッチON-->給水-->洗濯-->排水-->給水-->すすぎ-->排水-->脱水-->給水-->すすぎ-->排水-->脱水-->スイッチOFFといった一連の動作を、タイムチャート(時間行程図)に従って正確に実行します。近頃では洗濯物の量や汚れの程度に応じて、最適の洗濯行程を自動的に洗濯する機種も登場しています。

 こうした電気洗濯機の動作切り替えは、タイムスイッチと接続したカムが自動的にこなします。原理そのものはさほど難しいものではありません。図3(左)に示すのは自動反転のスイッチ切り替えのカムの一例で、カムの回転に伴って接点が閉じたり開いたりするメカニズムを利用しています。全自動式の電気洗濯機では、このようなカムをいくつも連結させて、複雑なタイムチャートに従った動作を実行しているのです。

 

図3 電気洗濯機の自動機構

図3 電気洗濯機の自動機構

給水・排水にも電磁力が利用される

 タイムスイッチの駆動には、以前はゼンマイが利用されていました。ダイヤル式のタイムスイッチを回すとゼンマイが巻かれ、ジィーッという音を立てながらカムが回転する力学的な方式です。一方、スイッチを押すだけであとはおまかせという昨今の全自動式電気洗濯機では、ゼンマイにかわり同期(シンクロナス)モータが使われます。

 同期モータもやはりステータに巻線を施し、発生する回転磁界でロータを回す交流モータの一種です。ただ、その名が示す通り、電源の交流周波数とロータの回転はぴったりと同期するのが特徴です。誘導モータにおいては、磁気的吸引力の“すべり”により、実際の回転速度は同期速度よりもやや低くなります。しかし、同期モータは交流周波数とシンクロするので時計がわりとなり、電気洗濯機のタイムスイッチとしてうってつけなのです。

 全自動式の電気洗濯機においては、水道の蛇口にホースを接合し、洗濯やすすぎのたびに自動的に給水する仕組みとなっています。この給水にも磁力が応用されています。

 給水が始まると一定水位のところで給水が止まります。その信号を送るのは圧力スイッチ(エアホース中を伝わる空気圧でスイッチが入る仕組み)ですが、実際に水流をストップするのはダイヤフラム(仕切り板)と電磁プランジャからなる給水弁です。図3(右)に示すように、通常、給水弁はスプリングの力によってプランジャがダイヤフラムを押し、水流を遮断しています。ここで圧力スイッチから電気信号が送られて、コイルに電流が流れると、発生する磁界が鉄製のプランジャを引き寄せて弁を開き、コイルの電流が切れると再び弁を閉じて給水を停止する仕組みです。同様の仕組みは排水バルブの機構にも利用されています。

PAGE TOP