じしゃく忍法帳

第71回「磁石の着磁と消磁」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

磁石の磁力をなくすには?

地磁気による着磁は中国人が発見した

 強磁性鉱物を含む溶岩が冷えて岩石が形成されるとき、地磁気によって微弱に磁化されます。これを岩石の残留磁化といいます。強磁性体にはキュリー温度というものがあり、これ以上の温度では強磁性体としての性質を失います。しかし、溶岩がキュリー温度以下に冷えると、強磁性体がいわば未使用の磁気テープのような状態となるので、地磁気によって磁化されるのです。これと同じ原理で起きるのが、地磁気による鉄の着磁です。

 大著『中国の科学と文明』で世界的に知られる科学史家J・ニーダムは、地磁気で鉄を着磁する方法は、11世紀のあるとき、中国で初めて発見されたと述べています。というのも、11世紀中国の文献『武経総要(ぶけいそうよう)』という軍事技術書には、鉄片を炭火で灼熱させ、水中で冷やして着磁し、これを魚の形をした木片の中に組み込めば指南魚(しなんぎょ)になると書かれてあるからです。指南魚とは羅針盤のルーツとなった中国の方位コンパスのことです。古くから中国では指南魚に天然磁石が使われていましたが、このころから磁針もつくられるようになり、方位占いの羅盤(らばん)と合体して羅針盤となりました。

 昔の忍者はキシャク(耆著)という方位コンパスを携帯しました。これは磁気を帯びさせた鉄製の小さな舟形の道具で、道に迷ったときは水に浮かべて方位を知りました。このキシャクの製法も、羅針盤とともに中国から渡来したものと思われます。

電磁石の改良はヘンリーの功績

 天然磁石や地磁気といった自然利用の着磁ではなく、人為的に発生させた磁気による鉄の着磁が行われるようになったのは19世紀です。1820年にエルステッドによって電流の磁気作用が発見され、ほどなく発生する磁気を高める工夫としてコイル(ソレノイドコイル)が考案されました。鉄棒にコイルを巻き、電池から電流を流すと、鉄棒が磁石となることを発見したのはイギリスのスタージョンです(1825年)。これが世界初の電磁石といわれます。

 スタージョンは裸の導線を用いたので、ショート(短絡)を避けるために鉄棒に布を巻きましたが、コイルの巻数を増やすために、導線を布で被覆するというアイデアを思いついたのはアメリカのヘンリーです。当初、被覆に用いたのは彼の妻の絹服の切れ端だったそうですが、すぐに彼は導線を幾重にも巻くことに成功し、ついには300kgもの重さの鉄を吸いつける電磁石も開発しました。ヘンリーはまた巻線と磁石の強さの関係も明らかにしました。

 電磁石が発明されると、鉄の種類によっては、永久磁石になるものとならないものがあることもわかってきました。軟鉄(軟磁性材料)を鉄心とした電磁石は、電流を切れば元の鉄に戻ります。しかし、鋼(硬磁性材料)を鉄心とすると、電流を切ったあとでも磁化を残して永久磁石となるのです。その理由が明らかになるのはのちのことですが、こうして電磁石とともに、コイルの磁束で鋼を着磁して永久磁石をつくる方法も19世紀に誕生しました。

 
 

交流電源を利用した簡単な着磁装置

 鉄クギにエナメル線を巻いて乾電池につなぐと、鉄クギは電磁石となります。鉄クギは鋼なので、乾電池をはずしても鉄は磁化を残して永久磁石となります。これは理科実験でもおなじみですが、乾電池の直流ではなく、家庭用の交流電源を使った面白い着磁装置もつくれます。

 直流電流を流したコイルで鉄心を磁化できるのは、コイル内部に一定方向の磁束が発生するからです。その向きはいわゆる"右ネジの法則"に従います。常識的には電流の向きがたえず変わる交流では着磁できそうにもありません。しかし、交流を瞬間的に流せば、それは直流と同じことになります。

 図1に示すのは家庭用の交流電源を利用した着磁装置です。プラスチックパイプ(塩ビなど)または紙パイプなどに導線を巻き、ヒューズをつけてコンセントにつなぎます。パイプの中に着磁したいもの(クギやクリップ、ドライバーなどの鉄製品)を挿入してスイッチを入れると電流が流れますが、そのとたんヒューズが溶けるので電流はすぐに切れてしまいます。これは瞬間的に大きな直流電流が流れたことと同じであり、コイル内部に発生した磁束が、挿入された鉄製品を着磁するのです。何度も実験してみると、磁化の方向が同じではないこともわかります。瞬間的に流れた電流がどちらかになるかは、スイッチを入れるタイミングによって変わってくるからです。

 ついでに、こうして着磁した鉄クギや磁石の磁化をなくす消磁(脱磁)方法もご紹介しましょう。最も簡単な磁石の消磁法は、火で熱することです(熱消磁)。前述したように強磁性体はキュリー温度以上では、強磁性体の性質を失います。磁化とは強磁性体の準安定状態なので、キュリー温度以上に熱すると常磁性体となって磁化を失い、冷やしても元の磁石に戻らないのです。これはガスコンロの火で磁石を熱することで簡単に確かめられます。
 


図1 家庭用交流電源を使った着磁装置

交流消磁はテープレコーダの消去ヘッドの原理

 スライダックがあれば交流消磁という方法で、磁石の磁化をなくすことができます。スライダックとは家庭用100Vの交流電圧を自由に変えられる単巻変圧器で、理科実験でよく使われます。図2のように、パイプに巻いたコイルをスライダックにつなぎ、消磁したい磁石などをパイプ内部に挿入しておきます。次にスライダックのダイヤルを20〜30Vくらいにして、スイッチを入れて交流電流を流してから、ゆっくりとダイヤルを0Vのところまで回します。するとさっきまで鉄を吸い寄せていた磁石は、鉄を近づけてもまったく反応しなくなります。つまり、消磁されて未磁化状態の強磁性体となるのです(フェライト磁石は保磁力が強いので、鋼の棒磁石などが実験に適しています)。

 先の着磁実験(図1)よって、鉄の着磁は瞬間的に行われることがわかります。したがって交流を加えるとパイプの中に置かれた磁石は、電流が変わるたびに磁化の方向をめまぐるしく変えます。ところが、スライダックによって電圧を下げていくと、発生する磁束も小さくなり、パイプの中に置かれた磁石の磁力も弱まって、ついには未磁化状態になってしまうのです。

 交流消磁は磁気テープの消去などに利用されています。磁気テープに塗布された磁性粉は、記録ヘッドによって磁化され、小さな磁石となって情報を保存しています。消去ヘッドによる情報の消去は、消去ヘッドのコイルに交流電流を流すことで実行されます。交流電流によってテープ上の磁性粉の磁極の向きは反転を繰り返します。しかし、テープの走行とともにヘッドギャップから遠ざかるにつれ、磁性粉の磁化は反転を繰り返しながら減衰していくことになるので、ついには0となって未磁化状態に戻るのです。

 スライダックを利用した消磁装置は、着磁装置としても利用できます。パイプの中に着磁したい鉄を入れ、スライダックを通じて20〜30Vの交流電流を流しておいてから、いきなりスイッチを切ればよいのです。パイプの中の鉄は最後に流れた電流により、どちらかの方向に磁化された磁石となります。ご紹介した着磁・消磁装置は、簡単につくれますが、感電などの事故を起こさないように、くれぐれもご注意ください。


図2 交流消磁の簡単な実験装置

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