テクの雑学

第162回 省エネは身近なところから 〜節水型トイレ〜

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

 「これからの、新しい日本」は、より災害に強く、よりエネルギー使用効率を高め、より環境への負荷を低められる社会であるべきです。そのためには、一人ひとりが身のまわりでできることについて、意識を高めておく必要があります。そのことを踏まえて、今回は「節水型トイレ」を取り上げたいと思います。

 日本は四方を海に囲まれ、また本州では中央部に山岳地帯が集中していることから、水資源に関しては世界でもまれなほど恵まれた環境にあると言っていいでしょう。水質が軟水なので、水道水をそのまま飲料水として使えるのも、世界的には珍しいことです。
 しかし、私たちが普段使っている水道水は「浄水場で精製した水」であって、浄水の過程でさまざまなエネルギーを消費していることを忘れてはいけません。つまり節水とは、水資源の節約だけでなく、エネルギー消費やCO2排出量の低減に直結する行為なのです。特にトイレの洗浄に使われる水は、上水道を使う必然性が低いので、可能な限り消費量を抑えたいものの筆頭と言っていいでしょう。

節水型トイレの歴史

節水型洋式トイレ開発のきっかけとなったのは、1978年に福岡で起こった長期に渡る水不足と言われています。後に福岡市は、新規に設置するトイレの洗浄水量を10Lとするように条例で定めました。それ以前の製品では、一度の洗浄で13L程度の水を流しており、しかも1980年代に入る頃まで、洗浄モードに「大/小」の区別がないものも少なくありませんでした。
 今回、取材にご協力いただいたINAXの製品でいうと、1998年に発売した初の節水型では大洗浄10L/小洗浄8L、2001年の製品で大8L/小6L、2006年発表の「ECO6」製品で大6L/小5Lと段階的に節水性能を強化し続け、そして2011年にはスタンダードモデルの「ECO5」で大5L/小3.8L、高性能モデルの「ECO4」では大4L/小3.3Lというレベルに到達しました。
 13L型と比べると、大洗浄では1/3程度の水で済み、さらに利用頻度の高い小洗浄での節水を進めたことで、実効性の高い省エネルギー効果を実現しています。もちろん、ユーザーにとっても水道料金が節約できるという直接的なメリットがあります。具体的な数値をあげれば、ECO4は大洗浄13L比で*約73%の節水効果を実現し、年間の水道料金を約14,700円節約できる計算となります。

 節水型トイレを実現するための技術は多岐に渡りますが、大きくは「便器鉢(便器の内側面)形状の工夫」と「水流を強める工夫」の二つに分類できるでしょう。もちろん、どちらか一つで成立するものではなく、両者はお互いを補完する関係にありますが、ここでは便宜的に分けて考えてみることにします。

 


 洋式便器の水流は、「汚物排出」と「便器鉢洗浄」の二つの用途に使われています。

 一般住宅向けのモデルでは、「汚物排出」のための仕組みとして、「洗い落とし式」「サイホン式」「サイホンゼット式」などが採用されてきました。
 「洗い落とし式」は、タンク内に溜めておいた水が落下する力だけで汚物を押し流す方式で、構造がシンプルなので安価という特徴があります。「サイホン式」はその名の通り、排水経路に屈曲管によるサイホン構造部を設け、サイホン効果によって洗浄水を引き抜くようにしながら排水します。排水時にゴボゴボといった音がするものはサイホン式と考えていいでしょう。「サイホンゼット式」は、便器の基底部に設けた「ゼット口」と呼ばれる出水口から強い水流を流すことで、サイホン効果を促進しながら洗浄する方式で、水を流す時、溜水内に排水口方向への水流が生じることで見分けが付きます。

 一方、「便器鉢洗浄」は、タンクからの水を便器内部の構造によって分岐させ、便器鉢上縁部の裏側(ボックスリム)部に多数開けられた穴からシャワー状に水流を流す方式が主流となってきました。

*4人家族、男性2人、女性2人で、大1回/人日、小3回/人日使用し、上下水道料金265円/m3で計算した場合の値。

 

■ こだわり続けた機能両立

 便器鉢の形状について理想的なのは、なるべく少ない水量で封水(通常状態での溜水)面を最大化できる構造です。封水には、汚物を水没させることで便器鉢表面に汚れが付着したり、臭気が拡散するのを防ぐ効果があります。封水面が広ければ、汚物が水中に収まる確率が高まりますから、「便器鉢洗浄」に費やす水の量を減らせます。また、水流の勢いを維持しながら、効率よくサイホン効果を生じさせる形状の実現も重要な課題です。
 これらの要求については、実験を重ねて検討し、世代を追うごとに確実な進歩を遂げてきました。さらに、鉢表面の平滑度を高める処理を施すことで、汚物が付着しても容易に洗い流せるようにする、といった細かな努力も積み重ねられています。


 

節水型トイレの洗浄は、「汚物排出」と「便器鉢洗浄」を同時に行うことが特徴です。メーカーやモデルによって多少の違いはありますが、タンク式の場合は基本的にすべての水を便器鉢の上部から渦を巻くように流すことで、鉢内を洗浄しながらサイホン効果で排水を行います。出水口は便器鉢上部の奥側2カ所に設けられ、水流を鉢の曲面に沿って横方向(周方向)に流します。こうすることで、水流は鉢表面を洗浄してからサイホン効果によって汚物を押し流すので、少ない水量でも確実な洗浄が実現できるのです。
 また、機種によっては2個の出水口の高さを微妙に変えているものもあります。一つの水流は鉢断面の中ほどに向けて噴出されることで、溜水部をしっかり押し流す役割を持ち、もう一つは鉢の上端いっぱいに向けて噴出されることで、鉢全体を洗浄する役割を持っています。

 水流を強めるための仕組みも進化を続けてきました。節水型トイレが登場してからしばらくの間は、「位置エネルギー」を利用した仕組みが主流でした。簡単に言うと、洗浄用の水を溜めておくタンクの中で、より高い位置まで水が溜まるようにしたのです。水流の強さは運動エネルギーの大きさに比例しますから、高い位置から流した方が流速が高まるので、少ない水量でもしっかりと洗浄できるわけです。

 ただし、大洗浄6Lタイプの頃から、それだけでは性能確保が困難になってきたため、別の仕組みとの組み合わせが採用されるようになりました。INAXの最新製品では、タンクレス型が「蓄圧式ブースター」、タンク式が「機械式エアドライブユニット」によって強い水流を発生させます。
 「蓄圧式ブースター」は、上水道にかかっている圧力を利用した仕組みです。通常の上水道水には0.5MPa(メガパスカル)程度の圧力がかけられています。理論的には約50mの高さまで水を持ち上げられる圧力で、このおかげで4階建て程度の建物なら、最上階でも揚水ポンプなしで水道が使えるのです。
 この圧力を「蓄圧式ブースター」内部のバネに溜めておき、排水時にはバネが戻る力によって水流を加速させるのが蓄圧式ブースターの仕組みです。従来のタンクレス型は、水圧が低い場所への対応策として「汚物排出」経路のみに用いられていたものですが、最新モデルの「ECO4」ではブースターで加圧した水を上部からも流し、強い渦流で便鉢部を洗浄しながら排水経路に水を集めていきます。

■ 進化するタンク内の構造

 同じECO4でも、タンク式では洗浄メカニズムにサイホン式を採用し、すべての洗浄水を便器鉢上部から流しています。「機械式エアドライブユニット」は、斬新な発想によって排水を促進する仕組みです。




 洋式便器の排水経路は、横からの断面で見るとやや変形のS字型をしていて、通常時、その内部は封水面と同じ高さまでが水で満たされています。この水には、下水道から臭気が伝わってきたり、害虫が侵入することを防ぐ役割があり、このような構造を「排水トラップ」と呼んでいます。
 言葉を換えると、トラップ部の水面から排水管側は通常、空気が存在します。サイホン効果によって水を排出している状態では、大部分が流水で満たされるのですが、一部には空気が残ったままになってしまいます。この空気をタンク側に吸い出すことで負圧を発生させ、サイホン効果をより早く起こし、より高めるのが「エアドライブユニット」の目的です。

 タンク式「ECO4」のタンク内にはコップを逆さまにしたような構造部があり、この部分は管によってトラップとつながっています。洗浄用の水を流すと、タンクの中ではまず構造部位外の水位が下がり、少し遅れてから構造部の水位が下がっていきます。この水位が下がるにつれて、トラップ内の空気は管を通じてタンク内に引き込まれていくので、トラップ内に負圧が生じ、サイホン効果を強めて洗浄水を強く引き出す効能を発揮するのです。

 便器は、一度設置したら何か問題が起きない限り、長年に渡って使い続けられるものです。新築の場合はもちろん積極的に節水型を選択していただきたいと思いますし、13L型の製品を使っているご家庭の場合は、節約できる水道料金の額を考え、思い切ってリフォームすることも検討していただきたく思います。

 なお、洗浄水タンクの中に水を入れたペットボトルなどを入れておく「節水法」がありますが、節水型トイレではそのようなことは不要です。逆に、タンク内の構造が複雑なので、ボトルがひっかかって正常に動作しなくなったり、また洗浄用の水量が不足して所定の性能が発揮できず、結局、複数回水を流すことになったりしがちなので、注意してください(メーカーとしては禁止しています)。

取材協力:株式会社LIXIL http://www.lixil.co.jp/


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など

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