電気と磁気の?館

No.37 薄膜技術による高感度な磁気センサ

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

独楽(コマ)の首振り運動のことを、なぜ“歳差”運動というのか?

平成の大合併で北海道に北斗市という自治体が誕生しました。このほかにも北海道には、北斗や北辰という名のつく学校、病院、企業などがたくさんあります。北斗とは北斗七星、北辰は北極星のこと。江戸期から明治にかけて、蝦夷地(えぞち)に向かう船舶が、北斗七星や北極星を目印として航行したことにちなむといわれます。サッポロビールのロゴマークとなっている赤い星は北極星を表したもの。北海道新聞の題字の地紋にも、北斗七星と北極星がデザインされています。

 北斗七星は北極星のまわりを1日に1周し、また同時刻で観測すると毎日少しずつ位置を変え、1年で1周します。そこで、昔は時計やカレンダーがわりにも利用されました。厳密にいうと、北斗七星は天の北極(地軸と天球の交点)を中心として1周するわけですが、ちょうど天の北極近くに、“こぐま座”のα星があるので、これを北極星と呼んでいるのです。

 回転する独楽はゆっくりと首振り運動(味噌すり運動)するように、自転する地球もまた、約2万6000年というゆっくりとした周期で首振り運動をしています。このため地上から見える天の北極の位置もしだいにずれていき、今から約1万2000年後には、“こと”座のベガ(七夕の織女星として有名な明るい星)が北極星になるそうです。

 独楽や地球などのこうした首振り運動のことを、力学では歳差(さいさ)運動といいますが、歳差という言葉に力学的な意味合いはなく、もともとは昔の暦づくりに関係した言葉です。暦づくりに星の観測は不可欠です。夜空をめぐる星座の観測によって、1年の経過を正確に知ることができるからです。紀元前2世紀のギリシャの天文学者ヒッパルコスは、暦づくりの起点である天球上の春分点の位置が、東から西へ少しずつずれていることを発見しました。文字通り、これが“歳(年)の差=歳差”の語源です。英語の歳差=precessionも、春分点が“先行”するという意味です。
 

北極星と北斗七星

 

独楽の首振り運動と地球の歳差運動

■ 地磁気の成因と地磁気逆転の謎

 方位磁石のN極は北を指し、S極は南を指すのは、地球が磁石としての性質をもち、巨大な地球磁場をつくっているからです(北磁極がS極、南磁極がN極)。といっても、地球内部に永久磁石のようなものが存在しているわけではありません。地球の核は鉄・ニッケルという強磁性体からなりますが、地球内部は高温のために、強磁性体としての性質を失い永久磁石にはなりません。そこで、地磁気の成因として考え出されたのがダイナモ理論です。地球の核の外側=外核は、液体状態であることは地震波の伝わり方などから明らかにされています。地球の自転にともなって液体状態の鉄・ニッケルも複雑な動きをし、これが発電機(ダイナモ)の役割をして地球磁場を生成・維持しているという考え方です。つまり、地磁気というのは地球発電機の電磁石による磁界というわけです。

 ダイナモ理論を説明するために、下図のような円板モデルが提出されました。磁界中で円板が回転すると、電磁誘導により起電力が発生し、ブラシを通じて円形コイルを流れて電気回路をつくります。この回路によって当初の磁界と同じ方向に磁界を発生して維持するというしくみです。これは、ファラデーが考案した初の発電機と構造がよく似ています(本シリーズ第4回で紹介)。

 当初は仮説であったダイナモ理論は、現在ではほぼ疑い得ないものとなっています。ところが、地磁気は平均で数十万年に1回ほどの割合で逆転を繰り返しています。つまり、方位磁石のN極が南を指すような時代が過去の地球には幾度もあったのです。この地磁気逆転はいまだに十分に解明されていませんが、地震学者として有名な力武常次博士(1921〜2004)は、2つの円板をつないだ結合円板モデル(力武ダイナモ)を提案しました(1958年)。このモデルでは磁界の向きが正負に反転しながら振動します。これはコンピュータ・シミュレーションによっても確かめられています。

地磁気の成因を説明するダイナモ理論

 

地磁気逆転を説明する力武ダイナモの結合円板モデル

■ HDD用ヘッド技術を応用したスピンバルブGMR素子

 方位磁石も1種の磁気センサですが、電子機器にはICなどと相性のよい各種の磁気センサが使われます。近年はカーナビはじめ、携帯電話や腕時計といったモバイル機器にも搭載されるようになっています。これらは磁気抵抗効果(磁界によって電気抵抗が変化する現象)を利用したMR素子、ホール効果(電流を流した導体・半導体に磁界を加えると起電力が発生する現象)を利用したホール素子が主流です。より小型で高感度な磁気センサとして、TDKが研究開発しているのは、HDD用磁気ヘッドの技術を応用展開したスピンバルブ(SV)GMR素子を用いた磁気センサです。GMRとは巨大磁気抵抗効果を意味する英略語。従来のMR効果よりも大きな抵抗変化が得られるのが特長で、スピンバルブというのは、この巨大磁気抵抗効果を実現するための構造の1つです。

 荷電粒子である電子は高速で自転(スピン)しているため、回転軸方向に小さな磁石としての性質を示します。スピンバルブGMR素子は、 2枚の磁性薄膜で非磁性薄膜をはさんだサンドイッチ構造となっています。2枚の磁性薄膜の磁化の向きが平行のとき、抵抗値は小さく検知電流はスムーズに流れますが、磁化の向きが反平行のとき大きな抵抗値を示します。これには電子のスピンの向きが関係しているので、スピンバルブと呼ばれます。

 スピンバルブGMR素子は、きわめて微弱な外部磁界もきわめて高感度に検知できるため、 HDDヘッドの読み取り素子として採用され、HDDの高記録密度化にも大きく貢献してきました。HDD用ヘッドばかりでなく、地磁気センサはじめ、さまざまなアプリケーションが可能です。たとえば、その1つは従来のホール素子にかわる自動車のギアトゥースセンサへの採用です。また、角度センサや落下検知センサなどへの応用も広がっています。

スピンバルブGMR素子の基本構造と原理

 

スピンバルブGMR素子の磁気センサとしての応用

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