電気と磁気の?館

No.39 ワイヤレスのバッテリ充電が暮らしを変える

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

軌道エレベータと宇宙太陽光発電が今世紀中にも実現?

静止軌道上の衛星から地上に向けてケーブルをぐんぐん垂らしていくと、『ジャックと豆の木』さながら、地上と宇宙を結ぶ架け橋ができます。かつてはSFの世界の話でしたが、アメリカのNASAなどでは、軌道エレベータ(宇宙エレベータ)として真剣に検討されています。ロケットは重量の90%以上が燃料によって占められ、スペースシャトルでも燃料タンクは使い捨てで非効率的です。しかし、軌道エレベータならロケットを利用することなく宇宙に物資や人材を運び上げることができるので、これからの宇宙開発にとってきわめて重要な意味をもっています。

 軌道エレベータの最大の技術ネックは、ケーブルの素材です。地上から静止軌道までの距離は3万6000kmもあり(地球1周弱の距離)、通常の素材では重力に耐えきれません。しかし、金属よりも軽く強靭なカーボンナノチューブなどが開発されたことにより、理論的に不可能ではなくなっています。宇宙船から垂らしたケーブルが地球に届くところに、地上プラットホームが建設されます。地球の自転に合わせて軌道エレベータと宇宙船が回転するので、地上プラットホームとして赤道上の地点(洋上が候補)が選ばれます。

 もし軌道エレベータが実現すれば、低コストで物資輸送ができるようになり、静止軌道上に広大なソーラーパネルを連ねた宇宙太陽光発電所を建設することも夢ではなくなります。太陽光はクリーンな自然エネルギーですが、地上では夜間は発電できず、曇りや雨の日は発電効率が落ちてしまいます。しかし、気象の影響を受けず、太陽光がたえずふんだんに降り注ぐ宇宙空間なら、格段に効率的な発電が可能になります。発電した電力をマイクロ波やレーザ光に変換して地上に送り届けようという研究も進められています。生態系への影響、安全性・信頼性といった問題がクリアされ、宇宙太陽光発電が実現すると、エネルギー事情は一変するかもしれません。太陽にも寿命があるとはいえ、人類にとって太陽は尽きることのないクリーンエネルギー源です。

軌道エレベータと宇宙太陽光発電
カーボンナノチューブ

 

■ 電磁誘導を利用した非接触の電力伝達

 宇宙空間で太陽光発電した電力をマイクロ波やレーザ光で送電するのは、ワイヤレス/非接触でエネルギーを伝達できるからです。非接触方式の電力伝達は身近なところでも利用されています。たとえばSuica(スイカ)などの非接触ICカードは、バッテリを内蔵していません。それでもICを駆動できるのは、リーダライタ側からの磁束をカード側のコイルがとらえ、それをエネルギーとしてICを駆動させるからです。これは電磁誘導の原理によるもの。2つのコイルを向かい合わせ、電流を流した片方のコイルのスイッチを開閉すると磁束変化が起き、もう1つのコイルに起電力が発生して電流が流れます。つまり、磁束変化を通じて非接触でエネルギーが伝達されるわけです。

 電磁誘導式の非接触給電は、コードレスホンなどの充電にも利用されています。金属接点を通じた電気的な接続による充電では、金属接点にほこりや汚れが付着して、接触不良などを起こすことがあります。かたや電磁誘導ならば、金属接点なしに非接触で電力伝達できるのが利点。漏電やショートの心配もなく、水回りで使用するシェーバや電動歯ブラシなどにも採用されています。

 電磁誘導式の非接触給電は、構造的にトランス(変圧器)と同じです。トランスでは1次巻線と2次巻線が1つのコアに巻きつけられていますが、これを空間的に分断すると、非接触の充電器となります。電磁誘導は磁束を通じて電力伝達されるので、できるだけ磁束を有効活用することが効率アップにつながります。高透磁率の軟磁性体をコアに用いるのは、伝達効率を高めるためです。高透磁率材料は、あたかもスポンジが水をよく吸うように磁束をよく吸収するのです。

 トランスの電力伝達で高周波電流を利用すると、ケイ素鋼のような金属系のコアは熱損失が大きくなって使えません(電磁調理器はこれを逆利用したものです)。そこで高周波領域では、コア材料としてフェライトが不可欠です。近年、充電器の薄型化を図るため、渦巻き式のフラットコイルやシート状のフェライトがコアとして用いられたりします。

電磁誘導と非接触給電の原理

■ 電気自動車のバッテリ問題も非接触給電で解決?

 非接触給電は電気自動車のバッテリ充電としても注目されています。電気自動車の普及のネックとなっているのはバッテリです。エンジンも併用するハイブリッドカーとちがって、電気自動車はモータのみで駆動するので構造はシンプルですが、1回の充電で走行できる距離が短いのが難点。航続距離を伸ばそうとすると、バッテリを多く積載することになり、バッテリが占めるスペースも重量も大きくなってしまいます。しかし、バッテリへの充電が頻繁にできれば、バッテリは小さく軽いものですむことになります。また、ケーブルで接続することなく、非接触で自動的に充電できれば、充電のわずらわしさからも解放されます。

 非接触給電による電動バスは、すでにヨーロッパの一部の都市で運行されていて、日本でもハイブリッドバスでの試験運転も実施されています。充電ステーションはガソリンステーションとは異なり、いたってコンパクト。道路に埋め込まれた充電ステーションの1次コイルと、車両の床下に配置された2次コイルが対面する位置にバスを停車させます。充電ステーションのインバータが商用電力を高周波電力に変換して1次側コイルに送ると、電磁誘導の原理で2次コイルに電力が伝達されてバッテリが充電されるというしくみです。

 次世代の非接触給電として、磁界(あるいは電界)を共鳴させて電力伝達する共鳴方式の非接触給電も研究されています。電磁誘導式の非接触給電では1次コイルと2次コイルを近接させる必要がありますが、共鳴方式ではガードレールや道路など、離れた場所から走行しながらの非接触給電も可能といわれます。この技術は、携帯電話やノートパソコンといったモバイル機器の非接触充電にも新たな道を拓きます。いつでも、どこでも、だれもが、手軽に利用できる“ユビキタス”なワイヤレス充電が、重くてかさばるバッテリの問題を解決してしまうかもしれません。

電気自動車/ハイブリッドカーへの非接触給電システムの概要

 

非接触給電装置の内部構造例


 

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