電気と磁気の?館

No.5 地上でも宇宙でも省エネは重要課題

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

数年〜数十年にもわたり、遠宇宙を長旅する惑星探査機では、寿命の短い通常の化学電池はもちろん太陽電池も期待できません。そこでアイソトープ(放射性同位元素)と熱電対(ねつでんつい)を組み合わせた原子力電池が使われます。熱電対は180年以上も前に発見されたゼーベック効果を利用したもの。最近では自動車の廃熱を電気に変えて利用する省エネ技術としても応用されはじめています。

アイソトープを熱源とする原子力電池

1977年に打ち上げられたNASAの惑星探査機ボイジャーは、木星、土星、天王星、海王星を通過しながら写真撮影したのち、太陽系を飛び出していまなお地球に信号を送り続けています。信号を送るためには電気エネルギーが必要です。しかし、地球から遠ざかるほど太陽光も弱まっていくため、太陽光発電に頼るとなると巨大な太陽電池パネルが必要になります。そこで、木星以遠の宇宙を長旅する惑星探査機には原子力電池が搭載されます。原子力電池はきわめて長寿命なのが特長で、ボイジャーの原子力電池は少なくとも2020年までは使用できるといわれます。2006年1月、NASAによって打ち上げられた初の冥王星探査機ニューホライズンズにも原子力電池が利用されています。宇宙船本体からにょっきり飛び出した黒いエントツのような装置が原子力電池です。

原子力電池

原子力電池は熱電対の原理を応用した発電機です。熱電対とは異なる種類の金属を接合して輪にしたもので、片方の接合部を熱すると起電力が発生して電流が流れます。この現象は発見者の名をとってゼーベック効果と呼ばれます。

この熱電対とアイソトープを組み合わせたのが原子力電池。アイソトープが自然崩壊するときに出す放射線が物質に吸収するとき熱を発生するので、これを熱源として電力を得ます。このためアイソトープ電池とも呼ばれます。

原子力電池のアイソトープとしてはプルトニウム238(半減期87.7年)などが用いられます。原理も構造もいたってシンプルなので超小型の原子力電池をつくることも技術的に容易です。以前、欧米では心臓ペースメーカー用電池としても開発されたことがあるほどです。ただ、民生機器に使うと放射線被害などの心配があります。また、もし原子力電池を搭載した宇宙機が地上に落下した場合、放射性物質の飛散による広範な環境汚染を起こす危険性もあります。このため、原子力電池は特殊用途にかぎられ、使用されるアイソトープはペレットとして固めるとともに、頑丈な容器に格納するなどの安全対策がほどこされています。ちなみに日本の宇宙機には原子力電池は使われていません。

 オームの法則の発見に貢献した熱電対

熱電対の原理であるゼーベック効果が発見されたのは、エルステッドによる電流の磁気作用の実験の翌年です(1821年)。当時、電気現象の実験には、亜鉛と銅の電極を希硫酸に浸したボルタ電池が使われていました。ゼーベックは2種の金属を液体に浸さなくても、接触させるだけで電流が生ずるのではないか考えて、銅板のコイルとビスマス(またはアンチモン)、磁針による実験装置を製作しました(図A)。

銅とビスマスをただ接触させただけでは電流は流れませんが、ゼーベックにとって幸いしたのは、銅とビスマスを接触させるために指で押さえつけたことです。このときかすかながら磁針が振れることに気づいたのです。しかし、指を使わずにガラス棒などで押さえると磁針は動きません。そこで、ゼーベックは接触部に指の熱が加わったことが関係していると考え、銅板とビスマス板をハンダ接合して輪にした有名な実験装置を考案しました(図B)。アルコールランプで接合部の片方を熱すると、輪に電流が流れて磁針が振れます。ゼーベックはまた接合部の片方を冷却することでも、逆方向の電流が流れることを発見しました。

熱電対の特徴は2か所の接合部の温度差を一定に保てば、きわめて安定した電圧が得られることです。この熱電対によって電気の基本法則である“オームの法則”が発見されました。

オームは同じ太さの銅線の長さをいろいろ変えて回路につないだとき(つまり抵抗値を変えたとき)、電流の大きさがどのように変わるかを調べました(磁針の振れの大きさとして測定)。ところが、ボルタ電池では電圧が一定していないために、満足なデータが得られません。そこで、彼はボルタ電池のかわりにゼーベックの熱電対を使うことにしたのです。オームは熱電対の片方を沸騰水の100℃、もう片方を氷水の0℃とすることで温度差を一定に保ち、きわめて安定した電圧を得ることができました(図C)。この装置による実験データから、「電流=電圧/抵抗」というオームの法則が発見されたのです(1826年)。

ゼーベック効果の発見 ゼーベック効果の実験装置
オームの法則の発見 実験装置

ペルティエ効果を利用した冷媒を必要としない電気冷蔵庫

2種の金属の温度差が電流を生み出すなら、逆に電流によって2種の金属に温度差をつくり出せるはずと考えたのはフランスのペルティエです。彼はアンチモンとビスマスをハンダ付けした棒をつくり、アンチモン側から電流を流すと発熱し、逆に電流を流すと冷却することを確かめました(1834年)。これをペルティエ効果といいます(図D)。

ゼーベック効果やペルティエ効果は、広く熱電効果と呼ばれる物理現象です。熱現象が電流と相互に関係しあうのは、電子は電流の担い手であり、また熱の担い手でもあるからです。したがって2種の金属ばかりでなく、2種の半導体でも熱電効果が実現します。

たとえばN型半導体とP型半導体を交互に並べ、それらを金属ではさむむと、金属の片方は冷却面、もう片方は発熱面となります(図E)。N型半導体は原子に束縛されないで動き回る自由電子の過剰な半導体であり、P型半導体は自由電子の不足した半導体です。この2つの半導体を接合して電流を流すと、電流とともに熱流も流れますが、その拡散の仕方はN型半導体とP型半導体では異なるので冷却効果と発熱効果が生まれます。

この冷却効果を利用すると、冷媒を必要としない電気冷蔵庫が実現します。モータやコンプレッサといった駆動部もないのでとても静かです。ただ難点はあまり大きなパワーが得られないこと。このためホテルや病院などの小型冷蔵庫や、発熱する電子部品の冷却などに使用されています。

半導体を用いた熱電効果は、自動車にも応用されるようになっています。エンジンからの高温の排気ガスをそのまま捨てるのは、エネルギーを無駄使いするようなものです。そこでP型半導体とN型半導体を用いた熱電変換素子により、廃熱から直接電気を得て、自動車電装機器に必要な電力の一部をまかなおうというもの。自動車の省エネ技術は年を追うごとに高度化しています。

ペルティエ効果
半導体のペルティエ効果を利用した電気冷蔵庫の原理

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