じしゃく忍法帳

第123回 「超電導磁石と小型冷凍機」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

超電導のサポート技術も日進月歩


“リニモ”は常電導磁石の磁気浮上式リニアモーターカー

 2005年に開催された愛知万博「愛・地球博」では、会場へのアクセス手段の1つとして、磁気浮上式リニアモーターカー“リニモ”が営業運転しました。これは1970年代に日本航空が成田空港アクセス用に開発を進めたHSSTと呼ばれる技術をベースとしたもの。1985年のつくば科学万博で展示され、1989年の横浜博(地方博)では500m区間で乗客を乗せての運行を達成。その後、都市内交通用として名古屋で走行試験が続けられ、2005年の「愛・地球博」でリニモという愛称で再デビューを果たしました。

 JRが山梨県で走行実験を続けているリニアモーターカーは超電導磁石を利用したものですが、リニモは常伝導の電磁石の吸引力で車両を浮上させるなかなか面白い技術です。車両の両サイド下部には案内レールを巻き込むように電磁石が配置され、地上側には電磁石の鉄心と対向する位置に鉄レールが下向きに敷かれています。電磁石のコイルに電流を流すと、鉄心と鉄レールの間に磁気吸引力が作用して車体が持ち上がって浮上するという仕組みです。

 走行は車両に搭載されたリニア誘導モータ(LIM)とレール上のリアクションプレート(金属板)によって行います。リニア誘導モータから出される磁界によってリアクションプレートに渦電流が流れ、このとき発生する磁界との間に磁気力が作用します。リニモの走行原理は積算電力計のアルミ円板の回転と同じもので、リニア誘導モータの磁界の向きを次々と切り替えることで車両は走行します。つまり、積算電力計のアルミ円板を直線状のリアクションプレートとみなせばリニアモーターとなるわけです。ただし、リアクションプレートは固定されて動かないので、車両のほうが動くことになります。

リニモ(常電動吸引型浮上方式リニアモーターカー)の浮上・走行の仕組み

リニモ(常電動吸引型浮上方式リニアモーターカー)の浮上・走行の仕組み

高温超電導コイルへの置き換え実験

 JRの超電導磁気浮上式リニアモーターカーも、新たな技術展開をみせています。超電導とは液体ヘリウム(4K=−269℃)近くの低温において、ある種の材料の電気抵抗が消失する現象。電気抵抗がないので大電流を流してもエネルギーロスがなく、鉄心電磁石をはるかに上回る強力な磁石がつくれます。これが超電導磁石ですが、磁石とは呼ばれていても超電導材料でつくった空心の超電導コイルです。

 JRのリニアモーターカーは車体側の超電導コイルと地上側壁に配置されたコイルの間に作用する磁気的な反発・吸引力によって浮上します(第35回「リニアモーターカー」参照)。従来、JRのリニアモーターカーの超電導コイルの材料としてはニオブ・チタン合金が使われ、液体ヘリウムと液体窒素を利用した冷却装置によって超電導状態を得ていました。しかし、この冷却装置が重くてかさばるうえに、液体ヘリウムや液体窒素の定期的な注入も必要です。

 そこで、近年は超電導コイルを直接冷却する技術が注目されるようになりました。高温超電導材料が開発されたため、液体ヘリウムや液体ヘリウムといった寒剤なしに、超電導コイルから直接、熱を奪って冷却することが可能になってきたのです。JRのリニアモーターカーにおいても、2005年11月、直接冷却冷凍機と高温超電導コイルを搭載した車両での走行実験が行われました。使用された高温超電導材料はビスマス系銅酸化物。粉末原料を焼結してつくるセラミック高温超電導体と呼ばれる材料で、超電導状態が発現する臨界温度は110K(−163℃)です。これを直接冷却冷凍機により20K(−253℃)にまで冷却しています。
 

JRのリニアモーターカーにおける高温超電導磁石の利用


図1 JRのリニアモーターカーにおける高温超電導磁石の利用

気体の断熱膨張を利用した直接冷却冷凍機

 低温発生装置である直接冷却冷凍機は、基本的には家庭の冷蔵庫のフリーザーと同じで、圧縮機と冷凍機からなります。ただし、冷蔵庫では冷媒(かつてはフロンを使用)が蒸発するときに気化熱を奪う現象を利用しますが、これでは液体窒素温度を下回るほどの低温はつくれません。そこで、気体が膨張するときに温度が下がる断熱膨張という現象を利用します(磁気冷却とは別の原理です。第53回「冷却技術と磁石」参照)。

 たとえば、地上の空気が上昇気流となって気圧の低い上空に達すると膨張します。このとき自らの熱エネルギーを膨張のために使うので気温が下がります。これが断熱膨張です。山の上が地上より涼しいのは大気の断熱膨張によるものです。大気が水蒸気で飽和していると、水蒸気は水滴となって凝結し雲が生まれます。

 低温を得る直接冷却冷凍機は、1960年代に開発されたスターリング式と呼ばれるタイプから発展を遂げてきました。スターリング式とはモータによってシリンダ内の圧縮ピストンと膨張ピストンを動かし、作動気体(ヘリウムなど)を圧縮・膨張させる装置。圧縮・膨張のタイミングをうまくずらすことで断熱膨張を起こし、そのときの作動気体の温度低下を冷却に利用するものです。

 GM式と呼ばれる方式はスターリング式を改良したもので、ある種の物質を蓄冷材とすることで急速に実用化かが進みました。しかし、スターリング式もGM式もシリンダ内のピストン運動を利用するために振動が発生します。この問題を解決してくれるのがパルス管式冷凍機です。

小型パルス管冷凍機の開発で超電導利用が拡大

 パルス管式の直接冷却冷凍機には、図2に示すように膨張ピストンらしきものが存在しません。

 そのかわりとなるのがコンプレッサから送り出されるパルス状の高圧ガスです。パルス状の高圧ガスがシリンダ内でガスピストンのような運動をすると、断熱膨張によって蓄冷材に低温部が生まれます。そこで、このガスピストン運動を繰り返すことで、少しずつ温度を下げていくのです。蓄冷材としてはかつては鉛が使われましたが、特殊な材料(Er3Niなど)が開発されて軽量・コンパクト化も進みました。

 パルス管冷凍機は、取り扱いが難しくて高価な液体ヘリウムなどは不要。超電導現象を利用したエレクトロニクス部品の研究・開発などにも活躍しています。超電導技術には大きな冷却装置が必要というのは過去の話。最近は永久磁石とコイルを利用した新タイプのコンパクトな冷凍機も開発されています。

 断熱膨張を利用した冷凍機は、地球の大気による熱交換と似たところがあります。地球はたえず太陽から熱エネルギーを得ています。そのままでは熱くなる一方ですが、地表の水分が蒸発するとき、地表から気化熱を奪い、上空に昇った水蒸気は凝結して雲となり、地表に雨や雪を降らせ、このとき熱は宇宙へと放出されます。太陽から受け取る熱と宇宙に放出される熱との収支バランスがとれているので、生物が住める温度を保っているのです。ところが、大気中のCO2は赤外線を吸収するため、CO2の増加は地球が厚手のふとんをかぶったような状態となってしまいます。これが地球温暖化です。パルス管冷凍機には地球温暖化問題を解決するヒントが含まれているようにも思えます。

 

直接冷却冷凍機の基本原理

図2 直接冷却冷凍機の基本原理

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