じしゃく忍法帳

第110回「RFIDタグと磁気」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

磁束変化で交信する非接触ICカード

電磁誘導はいかに発見されたか

 コイルの中に棒磁石をすばやく出し入れすると、コイルに誘導電流が流れます。これは中学校の理科の教科書でも必ず紹介される有名な実験。1831年にファラデーによって発見された電磁誘導の現象です。しかし、この発見に至るまで、ファラデーはさまざまな装置をつくったことはあまり知られていないようです。

 ファラデーがまず試みたのは、2本の導線を木の棒に非接触で同方向に巻きつけ、片方の導線にボルタ電池から電流を流すという実験でした(図1a)。ファラデーは電池から電流を入れたり切ったりした瞬間に、もう片方の導線につないだ電流計の針がわずかに振れることに気づきました。続いてファラデーは軟鉄の環に2本の導線を巻きつけて同じ実験を試みました(図1b)。すると電流計の針は、やはり電流を入れたり切ったりするとき、かなり大きく振れることを確認しました。変圧器の原理である相互誘導の最初の発見です。

 これらの実験は電流を流したコイルや電磁石の磁界を利用したものでした。しかし、ファラデーは永久磁石の磁界でも、同じように電流が発生するにちがいないと考え、図1cのような実験装置をつくり、やがて教科書などに載る図1dの実験に至ったのです。

 ファラデーはまた王立研究所にあった磁石を借り出して、図1eのような実験もしています。450本の棒磁石を束ねた巨大磁石で、吸い付けた鉄棒を引き離すのに100ポンド(約45kg)の力を要したといわれます。この磁石の磁界の中で銅の円板を回転させると、円板の中心部と円周部に持続的な電流が流れました。これは一種の発電機として理解できます。
 

 

電磁誘導の発見に至ったファラデーの一連の実験(一部)

図1 電磁誘導の発見に至ったファラデーの一連の実験(一部)

RFIDシステムにはさまざまな方式がある

 電磁誘導を発見したファラデーは、地磁気に対して運動する導線にも電流が流れるのではないかと考え、導線を大きな長方形にした実験装置を考案しました。長方形の導線は本の頁をめくるように回転できるようにし、導線には電流計が取り付けられました。ファラデーが導線をすばやく回転させてみたところ、予測どおり電流計の針が振れました。この原理は現在でも回転コイル型と呼ばれる磁界強度測定法としても利用されています。一定速度で回転するコイルに流れる電流の電圧は、コイルを貫く磁界の強さに比例するからです。

 前回(第109回「電磁波と磁石」)でも紹介したように、電磁波とは鎖のように交差した電界と磁界であり、電磁波をとらえるアンテナにも磁界型と電界型があります。AMラジオ放送などを受信するループアンテナは代表的な磁界型アンテナ。電磁波の磁界成分がループアンテナに電磁誘導による電流を発生させるのです。

 FMラジオ放送やテレビ放送などを受信するダイポールアンテナは電界型です。高周波電流を流したコンデンサの電極を図2右のように開いていくと、電界は周囲に電磁波となって飛び出します。この電磁波は同じ原理により、別のコンデンサの電極に電荷を誘起して高周波電流を流します。電界型アンテナというのはコンデンサの電極を開いたものと理解できます。地上に立てたポールアンテナは、アース側にもう1本のポールが鏡像のように存在すると考えればよいわけです。
 

 

電磁波の発生と電磁波が空間を伝わる仕組み

図2 電磁波の発生と電磁波が空間を伝わる仕組み

非接触ICカードは13.56MHzの電磁誘導方式

 レジに置かれたリーダ/ライタにかざすだけで支払いが済むEdyカードやFeliCa携帯電話、またSuicaやICOCAといったIC乗車券は、無線通信技術を応用したRFIDシステムの一種です。RFIDシステムは信号の伝送原理の違いにより、静電結合方式、電磁結合方式、電磁誘導方式、電波方式、光通信方式に分類されます。

 電界を加えると誘電体に電荷が誘起されて分極します。摩擦電気としてもおなじみのこの現象を利用したのが静電誘導方式。ただし、通信に利用するとなると交信距離は1cm程度にかぎられます。

 変圧器(トランス)の1次コイルに交流を流すと、共通のコア(磁心)をもつ2次コイルに交流が流れます。この相互誘導現象を通信に利用したのが電磁結合方式です。ノイズに強いという長所がありますが、通信距離は10cm程度です。

 電波方式では2.45GHzのマイクロ波などが使われます。通信距離が長くとれるのが利点。ただし、無線LANと同様に電波干渉の問題が発生します。950MHz帯の電波の割り当ても検討されていますが、やはり携帯電話との電波干渉の問題があって難航しているようです。また、近赤外線を利用した光通信方式は電波障害などがないかわり、障害物によってさえぎられるという弱点があります。

 というわけで、1m以下の距離ながら安定した交信ができるRFIDシステムとして、日本では13.56MHzの電磁誘導方式が主流となっています。これがEdyやFeliCa、IC乗車券など、小型RFIDタグ(ICタグ)を内蔵した非接触ICカードです。

金属面の悪影響を低減するフレキシールドの威力

 電磁誘導方式のRFIDシステムは、リーダ/ライタ側アンテナと、RFIDタグ側のアンテナとの間で、磁束のやりとりをすることで情報を伝達します。また、RFIDタグに組み込まれているICチップはバッテリなしで機能します。リーダ/ライタから送られる磁束をアンテナで電流に変換し、そのエネルギーによってICを駆動しているからです。

 電磁誘導とは磁気的な共鳴現象のこと。空間を隔てた2つの音叉が、互いに共鳴しあう現象と似ています。しかし、電磁誘導方式のRFIDシステムには、磁気ならではのやっかいな問題をかかえています。というのもアンテナコイルの背面に金属があったりすると、磁束は減衰して交信できなくなってしまうからです。

 変動する磁界の中の金属には渦電流が発生します。渦電流はこの磁界を打ち消すような反作用磁束を生むため、信号を乗せた磁束は相殺されてしまうのです。とりわけ多数の部品が高密度実装されている携帯電話などでは、プリント基板や金属のバッテリパックなどが、アンテナに近接するのは避けられません。

 この問題を解決してくれるのが、高透磁率・低磁気損失の軟磁性金属粉末をプラスチックに混入したTDKのフレキシールド。これをアンテナコイルと金属面の間に挿入すると、すぐれた磁束集束効果を発揮して渦電流の発生を抑制するとともに、フレキシールド内部に磁束の通路をつくり、確実な送受信を可能にします。同じ原理によりリーダ/ライタ側のアンテナコイルにはフェライトプレートなども使われます。

 物流システムや道路交通システムなどへの応用にも大きな期待が寄せられているRFIDシステム。TDKの磁性材料技術がここでも大活躍しています。
 

 

RFIDシステム(電磁誘導方式)のしくみ

図3 RFIDシステム(電磁誘導方式)のしくみ

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